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21話 外堀を埋められている気がします

 ヴァイオレット家の屋敷でダミアンと再会したことによって、私は「あの時の少年」がダミアンだったことをやっと理解できた。


 そしてダミアンから「あの時から俺は、ずっとレイチェルのことが好きだったんだよ」と追い打ちをかけられ、当たり前だけどますます彼のことが好きになってしまった。


 …好きな人に「実は10年近く前からあなたのことを一途に想っていました」と言われて嬉しくない人なんかいないよね。そりゃもっと好きになっちゃうよ…。


 でもね…私がどれだけダミアンのことが好きだとしても、私たちが本当はもう両想いだとしても、やっぱり私は彼の気持ちを受け入れることはできない。


 私は彼に相応しい相手じゃないから。彼の身分が王族なら尚更ね…。


 でも私のそんな気持ちまで読んでいるのか、王都に来てからのダミアンは相変わらず私に好意は伝えてくれるものの、交際を迫ることはなくなっていた。


 そして私たちが王都に来た理由であるダミアンの「実家の用事」がなかなか解決しないようで、私とクリスの王城生活はズルズル続いてしまっていた。


 …そりゃ王族の「家庭の事情」なんて簡単には解決しないんだろうね。


 いつまでも王城で暮らすのもどうかと思い、私は思い切ってダミアンに「そろそろクリスと一緒に王城を出て、前のようにホテルで暮らしながら冒険者として働きたい」と申し出てみたのだけど…その場で却下されてしまった。


 自分が客人として招いたのだから、王都にいる間は王城でゆっくりしてほしいというのと、もう一つ、クリスはこれから別件で忙しくなるというのが却下の理由だった。


 ダミアンはクリスが忙しくなる理由を教えてはくれなかったんだけど…


 その理由はすぐに判明した。私がダミアンに「王城を出たい」と相談したその日の夜、どうやらアーロンくんがクリスにプロポーズしたらしい。クリスの返事は言うまでもなくYES。


 きっとダミアンは近日中にアーロンくんがクリスにプロポーズをする予定なのを知っていたから「クリスは別件で忙しくなる」ことが予想できたんだろうね。


 そうですか。「別件」というのは結婚の準備でしたか。そりゃ確かに忙しくなるね…。


 アーロンくんにプロポーズされてからのクリスの姿はもう…すごかった。毎日幸せオーラが全身から溢れ出ていて、「ふわふわ感満載の可愛らしい赤の物体」という感じになってしまった。


 普段のクールな合理主義者のクリス、そして戦闘時の冷酷無比なスナイパー、クリスティーン・ニコルズと同一人物とは思えない姿だった。


 もちろん、今まで見てきた中で一番幸せそうなクリスの姿を見て、私もとても嬉しかったし、心から彼女の婚約を祝福している。


 …ただ、アーロンくんとクリスが結婚して二人で王都に定住することになったら、もう私たちのパーティーは実質解散に近い状態になるわけなんだよね。


 となると、私は二人の結婚を見届けてから一人でこっそり王都を去っても良いかもしれない。


 万が一ダミアンに捕まるとまた恐ろしい目に遭うだろうけど、前みたいに同じフロアでずっと一緒に暮らしているわけじゃないから、逃げようと思えばいくらでも逃げられると思うんだ。


 …やっぱりね、私がダミアンに対する気持ちを抑えきれなくなって取り返しのつかないことになる前に、私はダミアンの前から消えるべきだと思うんだよね。


 たぶん私が消えるのが遅ければ遅いほど、私もダミアンも苦しむことになるから…。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 とはいえアーロンくんとクリスの結婚はぜひとも見届けたいから、私はその後も王城での生活は続けていた。


 そして王城での生活を続けているうちに、ダミアンが私を王城から出そうとしない理由というか、彼の狙いをなんとなく理解できた気がした。…だから最近はどうしようかなと本気で悩んでいる。


 私の王城での生活はとことん甘やかされて、毎日が至れり尽くせりの生活だった。これがあまり長く続くと私はきっと堕落してしまって冒険者として使い物にならなくなると思う。


 元々私、何もしないで一日中お部屋でまったり過ごすのが大好きだし。


 幸いなのは、王城で甘やかされる生活に居心地の悪さを感じられるだけの良識がまだ私に残っていること。


 …どう見ても私なんかより遥かに高貴で優雅な感じの方々が使用人として私の面倒を見てくれているわけだからね。そりゃ居心地悪いよね。


 そしてダミアンは私に王城内のできるだけ多くの人と係わって仲良くなってほしいようで、もういろんな人に私を紹介しまくっていた。


 ダミアンの意向によって私がお会いした方々の中にはなんと国王・王妃両陛下や、魔道学園に在籍中の第二王子のドミニク殿下まで含まれていて、私はますますダミアンの意図に確信を持つようになっていた。


 ダミアンはきっと私を甘やかして堕落させると同時に、徹底的に外堀を埋めることによって私がここから逃げ出したくない/逃げ出せない状況を作りたいんだと思う。


 本人が考えたのかアーロンくんの入れ知恵なのかは分からないけど、いずれにしても恐ろしい子だよ…。


 そしてダミアンの意図とはまた別の話だけど、強い魔力と優れた魔道技術には絶対的な価値があるとされている魔道王国なだけあって、旅の魔導士として名が売れている私と一度話がしてみたいと考えている王侯貴族も少なくないようだった。


 おそらくダミアンの意向とは無関係と思われる相手で、向こうから私に面会を求めてきた人が結構いたからね。


 その中には三大公爵家の一つであるローズデール家のご令嬢シャロン・ローズデールや、同じ三大公爵家のラインハルト家出身で、現役四天王でもあるオリヴィア・ラインハルトのような大物までいた。


 ちなみにオリヴィアさんの方は学園時代の後輩で一応面識はあったけど、学園時代は特に仲がよかったわけではなかった。


 それなのに彼女、再会してからはなぜか私に興味津々といった感じで、何度も私を遊びに誘い出したり、高価なプレゼントを送ってきたりしてるんだよね…。


 正直彼女の真意がよく分からなくてちょっと困惑している。


 そんな日々が数か月続いた。アーロンくんとクリスは、何をそんなに焦っているのか分からないけど、プロポーズからわずか数か月で結婚式を挙げてしまった。


 …いやなんとなく分かるけどね。お互いが好きで好きでしょうがない二人だから、一刻も早く夫婦になりたかったんだろうね。


 クリスは「マリッジブルー何それ美味しいの?」状態でずっと幸せオーラ全開だったし。


 ウェディングドレス姿のクリスの姿は目眩がするほど綺麗だった。真っ白なウェディングドレスと燃えるような赤い髪のコントラストがめちゃくちゃ美しくて、これ以上なく華やかで艶やかな花嫁さんだったよ。


 そして式が終わってから数日後のディナーの後、ダミアンに突然王城内の「お気に入りの場所」を見せたいと言われた私は、未だに自分では違和感を覚えてしまうドレス姿のまま、彼にエスコートされてどこかに向かうことになった。


 …慣れというのは怖いもので、もう私は何も考えずにダミアンにエスコートされるがままに彼についていくということに抵抗を感じたり、違和感を覚えたりすることがほとんどなくなっていた。


 ヤバいな、これ。もしかしたら私のこの「慣れ」もダミアンの計画通りなのかもしれない。もしかしたら私、ダミアンにたっぷり時間をかけて調教されてるのかもね…。


 そんな私が連れてこられたのは、基本的に王族とその専属の使用人しか立ち入りが許されていない王城の最上階に作られた、豪華なバルコニーだった。


 …すごい。ここまで美しい夜景は初めて見たかもしれない。この場所がダミアンのお気に入りなのもよくわかる。というかこんな素敵な場所が好きにならない人なんていないんじゃないかな。


 そんな美しい夜景を眺めながら、ダミアンは懐かしそうに今までの二人の思い出話を始めた。


 ふふ、確かにいろんなことがあったね。正直にいうとあなたが私のところに来てくれてから私、毎日すごく楽しいし、とても幸せだよ。いつも本当にありがとう。


 …あなたの気持ちを受け入れてあげられなくて本当にごめんね。


 二人の会話が途切れてから、少し前かがみになってバルコニーの柵に寄りかかった姿勢で海を眺めていたダミアンは、体を起こし真っすぐ私のことを見つめてきた。


「さて、そろそろ本題に入ろうか」


 …そう。やっぱり本題があったんだね。


「レイチェル・オーモンドロイドさん」

「…はい」

「一生大切にしますので、僕と結婚してください!」

読者様にブックマークや☆評価をつけていただいてからの作者の姿はもう…すごかった。毎日幸せオーラが全身から溢れ出ていて…以下略

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