20話 協力者が現れました
ティファニー視点です
レイチェルとの再会から約1か月後、意外な人物が私を訪ねてきた。
今は私の目の前にいる銀髪の妖艶な女性の名前は、オリヴィア・ラインハルト。魔道王国四天王の一人で、王国最強の騎士にして最凶の問題児。
ちなみに彼女の肩書である「四天王」は、魔導士としてのいろんな素養、スキルの中でも特に「戦闘力」に特化した人間が選ばれる役職である。要するに魔道王国でもっとも戦闘力に優れた4人ということ。
で、そんな四天王に選ばれるほどの強さを持つ彼女はタチが悪いことに「破天荒という言葉の定義はこれ」という感じの性格で、快楽主義かつ刹那主義の子だった。自分が楽しくて気持ち良ければ何でも良いというスタンス。
彼女は自分がレズビアンであることを公言していて、とても女癖が悪いことでも有名だった。気に入った女にはすぐに手を出してしまう。実は私も過去にしばらく付きまとわれていた。
学園時代の後輩だし、仕事で関わることも少なくない相手だから彼女と話をすること自体は別に珍しくないけど…でも彼女がわざわざうちの屋敷にまでやってくるのは久しぶりだね。何の用事だろう。
「ティファニーさん、レイチェルさんに何したんですか?」
「…どういうこと?」
「こないだのパーティーで久しぶりにレイチェルさんに会ったんですよ。そしたら彼女、だいぶ変わってたんで」
「レイチェルに会うの、10年ぶりとかだったんでしょ?そりゃ変わるんじゃないの?」
私の言葉を聞いたオリヴィアはなぜか少し楽しそうな目をして、サディスティックな笑みを浮かべた。
「…あれ?あたし言わなかったっけ。自分が『見抜く眼』の保有者だって」
「……」
いや、前から言ってたよ。あなたの能力と「レイチェルが変わった」という話が私の頭の中でつながってなかっただけ。
…なるほど。そういうことね。
『見抜く眼』というのは三大公爵家の一つであるラインハルト家に伝わる特殊能力である。確か魔力が「目に見える」という能力を持つ人間が数代に一人生まれるというものだったはず。
ちなみに他の三大公爵家、つまりローズデール家とヴァイオレット家にもそれぞれ特殊能力があって、ローズデール家のものは『見通す眼』、うちのは『見破る目』と呼ばれている。
…うちのは正確には「特殊能力」ではないんだけど。
「レイチェルさんの魔力、今まで一度も見たことがないような歪な感じになってましたよ?なんて言えばいいんだろうな…。人間と魔獣の魔力が混ざったような感じ?」
「……何が望みなの」
「別に望みなんかないよ。ちょっと興味が湧いてきただけ。あたしが好奇心旺盛なのは知ってるでしょ?」
…これ以上なく厄介なやつに絡まれてしまった。
きっと誤魔化しても無駄だね。学生時代とは魔力の性質が変わったという事実だけで「私がレイチェルに何をしたか」という質問にはたどり着けないはず。
たぶん彼女はすでに裏でいろいろと調べていて、レイチェルの身に何があったか推測できているんだと思う。
今日私のところに来たのは、その推測が正しいかどうかを確認するためなんだろうな。
「たぶん、あなたが想像している通りのことをしてるよ。…それがどうしたの?」
「そうしないといけないくらいの怪我だったの?」
「…ええ」
「そうだったんだ…。でも魔力があの状態だってことは、きっと他にもいろいろ副作用が出てるんでしょ?」
「どうしてあなたにそこまで言わないといけないわけ?」
「まあいいじゃないですか。あたしが力になれるかもしれないし」
「力になる?どうして?あなたに何のメリットがあるというの?」
いや、今のは愚問だったね。彼女ならきっと…
「はぁ…何それ。あたしがメリット、デメリットを考えて生きてる女に見える?」
「……いや、見えない」
「でしょう?」
そうだね、彼女はただその時に自分がしたいと思ったことをするだけの人間だ。そこには善悪の区別も損得勘定もない。たぶん今回のことも本当に興味本位なんだろうな。
…迷惑な話ではあるけど、彼女が超一流の魔導士なのも事実。どうせ隠そうとしたところで一度興味を持ったものを大人しく諦める相手でもないし、ここは正直に説明するか…。
「なるほどね…そういう状態なんだ」
意外なことに真剣な顔で私の説明を聞いてくれたオリヴィアは、神妙な顔になってそう呟いた。そして…
「うちの実家にね、ある伝説の魔導士が遺した非公開の資料があるんですよ。もしかしたらその資料が役に立つかもしれない」
「…伝説の魔導士?」
「ほら、うちの家の有名なご先祖様いるじゃん。ほぼ全属性の最上級魔法が使えたとかいう胡散臭い人」
「シルヴィア・ラインハルト公か…」
「そう。たぶん彼女にしかできない研究とかも結構あったはずだから、こっそりその資料を貸してあげます。本当は持ち出したりしちゃいけないんだけどね」
「…どうしてそこまでするわけ?」
「なんでだろ。もちろん「したいと思ったから」というのが唯一の理由だけど…うーん、強いて言うなら、たぶん下心?」
「…は?」
「…レイチェルさん、ちょっと信じられないくらいあたし好みの女に育ってたんだよね」
……うん、今のは聞かなかったことにしよう。
オリヴィアの協力の理由がどうであれ、あのシルヴィア・ラインハルト公が遺した資料を見せてもらえるのはありがたい。というかこっちから全力でお願いしたいくらい。そのためなら土下座でも何でもしよう。
残念だったね、オリヴィア。あなたが熱心に私のことを口説いていた時、その資料をエサに使っていればね…。たぶん私、あなたの言うことなんでも従順に聞いてたと思うよ。
それにしてもオリヴィアが破天荒で気まぐれな人でよかった。どんな資料なのかは分からないけど、ほんの少しでも役に立つ可能性があるものはすべて入手して、研究しなきゃ。
…絶対にあきらめない。必ずあなたを治す方法を見つけるからね。待っててね、レイチェル。
『理由がどうであれ、ブックマークや☆評価をつけていただけるのはありがたい。というかこっちから全力でお願いしたいくらい。そのためなら土下座でも何でもしよう』




