19話 甥が親友に恋をしています
ティファニー視点です
私には学生時代からの親友がいる。名前はレイチェル・オーモンドロイド。魔道学園時代、同学年に二人しかいない闇属性の適合者同士だった(同学年に二人「も」いることは実は珍しいことだったようだけど)ことで自然と仲良くなった。
学園時代はいつも彼女と一緒だったし、学園を卒業してからも二人で魔道王国の騎士としての道を歩むことになった。
親友として同僚として、これからもずっと彼女とともに歩んでいける…そう固く信じていた私だったが、とある任務における自分の判断ミスによって、二人で歩むはずだった未来は閉ざされてしまった。
あの時、もう一度ちゃんとトドメを刺しておけば。油断して後ろを振り返ることなく最後まで相手を警戒していれば。最初から聖属性の最上級魔法を使える人間の同行を強く求めていれば…。
もうあの教団での戦闘から10年近く経ったけど、私は今でも毎日あの時の自分の行動を後悔している。
そして意識を取り戻したレイチェルが、泣きながら謝る私にかけてくれた「ティファニーのせいじゃないよ。命を助けてくれてありがとう」という言葉を私は一生忘れられないだろう。
彼女が私のことを怒って、責めて、罵倒してくれた方がまだ気が楽だったかもしれない。
あまりにも優しい彼女の言葉に驚き、顔をあげた私の視界に入ってきたのは、光を失ったような目をして力のない笑みを浮かべた親友の姿だった。
その瞬間、私は彼女を元の体に戻すまでは絶対に自分自身を許せないことを改めて痛感した。
…うん?自分を許せないとか言ってる割には普通に幸せな家庭作ってるじゃんって?親友の人生をめちゃくちゃにしたくせに一人だけ幸せになってるように見えるけどって?
それはね、数年前に私がレイチェルに会いに行った時に、彼女にめちゃくちゃ怒られたから。
久しぶりにレイチェルと再会して自分の感情をうまくコントロールできなくなった私は、いつの間にか泥酔してうっかり彼女に本音を言っちゃったんだ。彼女を元の状態に戻すまでは、私は幸せになっちゃいけないって思ってるって。
それを聞いたレイチェルが見たこともないくらい怒ってたんだよね。もういろいろ言われちゃった。
「それで私が喜ぶとでも思ってるの」とか「そんなのはあなたの自己満足にすぎない」とか。最後は「誰もが羨むくらい幸せになるまでもう私に会いに来るな。顔も見たくない」とまで…。
彼女が私のためにあえて強い言葉を選んだのを、私はよく理解していた。キツいことを言っている割に彼女の目には悲しみの色はあっても怒りの色は全くなかったからね。
……私は彼女に命だけじゃなく、心まで救ってもらったんだ。
だからこそ、私は諦めるわけにはいかない。10年近く研究して何の成果をあげていないくせによく言うよという話だけどね…。
でも命ある限り、私は諦めずに彼女を元に戻す方法を探し続けるつもりである。それが私の一番の願いで、使命でもあるのだから。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
レイチェルに心を救ってもらったのは私だけではなかった。私の甥で、魔道王国シェルブレットの第一王子であるダミアン殿下もまた彼女に心を救われている。
魔道王国の第一王子として生まれながら魔力を認識できない彼は、双子の弟のドミニク殿下が魔導士として極めて優秀な素質を持っていることもあり、幼い頃から常に弟と比較され、冷遇されていた。
だから全身から負のオーラがにじみ出ている、正直とても不憫な子供だったんだけど…ある日を境にまるで魂が入れ替わったかのように性格が変わってしまった。
生まれ変わったダミアン殿下は明るくポジティブで、常に堂々としていて自信満々だった。
魔力を持たない自分のことを素直に受け入れたうえで、魔力を持つどの人間よりも強くなってみせると宣言できるメンタルの強さ。正直、同一人物とは思えないほどの劇的な変化だった。
彼の突然の変化は「うちの屋敷で出会った名も知らない青髪の女魔導士との短い会話」がきっかけだったらしい。その魔導士との会話で心を救われて生まれ変わることができたと。
ダミアン殿下本人がもう一度その魔導士に会うためにうちの屋敷にやってきた時に私にそう言っていた。
…その割には相手の名前も聞けていないあたり、もしかしたらダミアン殿下は少し抜けているのかな?と思ったし、残念ながらダミアン殿下がもう一度うちの屋敷に来る前にレイチェルはうちの屋敷を去っていたけどね。
でもそれから私とダミアン殿下は急激に仲良くなった。それまでは単なる親戚同士の関係だったけど、レイチェルという共通の恩人を持つようになってからは、年の離れた友人のような間柄になった。
レイチェルのことを一番よく知っているのが私だったから、彼はレイチェルの話を聞くために頻繁に私のところにやってきた。そしてレイチェルのことが大好きな私も嬉々として彼にレイチェルの話を聞かせた。
そうしているうちに気づいたというか、これまたダミアン殿下本人から宣言されたことなんだけど、どうやらダミアン殿下は本気でレイチェルとの交際…いや結婚を夢見ているようだった。
夢見ているというか、もうレイチェルと一緒になる未来を信じて疑わない感じ。
……うん、良いと思うよ。ダミアン殿下はどこに出しても恥ずかしくない良い男に育ったわけだし、彼のレイチェルに対する気持ちも間違いなく本物だからね。
年齢差とか身分差なんて本気で解決しようと思えばなんとかなるものなんだ。
だからレイチェルがダミアン殿下の気持ちを受け入れるのであれば、私が全力で二人のことをサポートしようと思ってる。レイチェルにもダミアン殿下にも幸せになってほしいからね。
まあ、12歳も年齢が離れているから、正直レイチェルがダミアン殿下を恋愛対象として見る可能性は低いと思うけどね…。
『年齢差とか身分差なんてブックマークや☆評価さえあればなんとかなるものなんだ』




