16話 戻ってきました
というわけでやってきました、王都ハート・オブ・ベルティーン。実は私が青春時代を過ごした町でもあるんだよね、ここ。
楽しい思い出もたくさんある町だけど、同時に思い出したくもない人生のどん底を味わった場所でもある。
それにしても相変わらず美しい町だな…。私、この町の景色が大好きだったんだ。
王都につく直前に、ダミアンは神妙な面持ちで自分の素性を明かしてきた。彼の本名はダミアン・メイソンではなくダミアン・シェルブレットで、その正体は魔道王国の第一王子だったらしい。そしてアーロンくんは幼い頃からのダミアンの従者だと。
…そういえば魔道王国の騎士団にいた頃、幼い双子の王子様の名前が「ダミアン」と「ドミニク」だという話は聞いていた。完全に忘れてたけど。
仮に覚えていたとしても、遠いロザラム王国のダートフォード・シティに現れた新人冒険者の「ダミアン」が実は魔道王国の第一王子の「ダミアン殿下」とは想像できなかったんだろうね。ダミアンってそんなに珍しい名前でもないし。
いずれにしても彼は、自分はすでに王位継承権を放棄している名ばかりの王子だし、そうじゃなくても私たちといる時はあくまでも「パーティーメンバーのダミアン」でいたいので、今まで通り接してほしいと言ってきた。
うーん、パーティーメンバーだけで行動している時はそれでもいいんだけど、さすがに第三者がいる場面ではそういう訳にはいかないかな。
私、退役したとはいえ一応この国の元騎士だしさ。だから人前ではちゃんと「殿下」として接しますよ。
…と本人に伝えてみたところ、太陽のような笑顔でもちろんそれで構わないと言ってくれた。パーティーメンバーで過ごしている時に「ダミアン」として接してくれるだけで十分嬉しいと。
いや、その笑顔とセリフはちょっとよくないよ、ダミアンくん。そんなことされたらお姉さんますます君のことが好きになっちゃうからさ…。
ちなみに私とクリスは、ダミアンとアーロンくんの正体に激しく驚いたりはしなかった。さすがに二人が王子とその従者だというのは意外だったけど、元々彼らが高い身分の人間か、少なくとも非常に裕福な人間であることは分かっていたから。
ほら、見れば分かるじゃん?持ち物とか身のこなしとかでさ。
あと彼ら、新人冒険者のくせに最初から私たちと同じホテルで長期宿泊の予約をとったって言ってたしね。実はあのホテルの代金を払えるのってごく一部の限られた人間しかいないんだよね…。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ダミアンの正体よりも遥かに私とクリスを驚かせ、困らせたのは、私たちが王城に招待され、そのまま王子の客人として王城に滞在することになったことだった。
その話を聞いた私たちは最初恐れ多いといって拒否し、いつものようにホテル暮らしをしようとしたんだけど…。ダミアンがそれを認めてはくれなかった。
わざわざ自分の用事のために王都に来てもらったのにそんなことはできない、それは王侯貴族の世界では決して許されない無礼で非常識な振る舞いになってしまうと。
だから俺の顔を立てると思って客人として王城に滞在してくれと説得されてしまった。
ちょっと理屈が強引すぎる気がして、もしかしたら本当の理由は別にあるかもしれないなとは思ったけど、いずれにしても自分の顔を立てて欲しいとまで言われているのに私たちがその申し出を拒否することはできなかった。
…王侯貴族の考えることはよく分からないから、もしかしたら本当にダミアンが言う通り、私たちが王城に滞在しないことがダミアンの名誉を傷つける行為になるのかもしれないしね。
「はぁ…なんかちょっと疲れちゃうね、今の生活」
「…そう?あたしは結構楽しんでるけど」
…そうなんだ。さすがだね。
王都に来て約2週間。私はクリスと二人で運河の見えるカフェテリアで休憩をとっていた。実は学生時代からよく来ていたお店で、オーナーが私のことを覚えてくれていてちょっと嬉しかった。
王城で客人として滞在しているとしても日中の行動は基本的に自由で、私はクリスに王都を案内したり、思い出の場所をめぐったりしながらまったりな毎日を過ごしていた。
学生時代や騎士時代の友人知人とも結構会えたんだけど、みんな私との再会を喜んでくれて、しかも「もう怪我は大丈夫?」と声をかけてくれる人も多くてなんか感動してしまった。
…もっと早くこの町に立ち寄ってもよかったかもしれないな。
久しぶりの王都と、王都で再会した人たちは私が思っていたよりも遥かに温かくて、戻ってきて良かったって思わせてくれたんだけど…。
やっぱり王城での生活にはなかなか馴染めない。
朝から晩まで私なんかより遥かに高貴で上品な感じのメイド様が私の身の回り世話をしてくれて、似合いもしないドレスを着せられては全身全霊のお世辞を言われる毎日。
先日は王子の客人ということで「些細な歓迎パーティー」が開催されたので、当然ながら主賓として強制参加させられ、誰なのかも知らない魔道王国の王侯貴族と延々と優雅な挨拶を交わす羽目になった。
あれは本当につらかった。意外にも皆さん友好的だったのは幸いだけど、あの有名魔導士のレイチェル・オーモンドロイドに興味津々って感じの人が多かったようで、思ったよりもたくさんの人に声をかけられてしまったんだよね。
で、私は失礼がないようにしないといけないって思ってたから、最初から最後までずーっと緊張した状態で、得意でもない愛想笑いを浮かべて話をしないといけなかったわけ。いやもう本当に疲れた。
私の実家は結構裕福な商家で、屋敷にはメイドさんもいたけど…うちの親は徹底的な合理主義・実力主義の商人で貴族志向なんか全く持ってなかったんだよね。
学生時代はまわりに貴族も多かったけど、あの学園も割と実力主義の学園だったし。
だから、こんな本格的な似非貴族ライフ(?)なんて生まれて初めてなわけですよ。正直疲労とストレスがヤバい。
それなのに私と同じ平民出身のクリスは私と違って今の状況を楽しめているらしい。やっぱクリスはすごいよ。メンタルの強さが桁違い。
「やっぱすごいね、クリスは…」
「そう?めったにできる経験じゃないし、楽しまなきゃ損だって」
確かにそうかもしれないけど…。その強靭なメンタルとポジティブな考え方を私にも少し分けて欲しい。
「あ、そうだ」
「…うん?」
「明日はレイチェル、忙しいんだよね?」
「あ、うん。ちょっと人と会う約束があって」
「OK。じゃ明日は何が何でもアーロンに構ってもらおうと。あいつ、この町に来てからあたしのことほったらかしにしすぎなんだよね」
「…三日くらい前、普通にデートしてたような気がするんだけど」
「三日前だよ?一昨日も昨日も放置だったんだよ?こんなこと許されないでしょ」
「……そっか」
アーロンくんも大変だね。めちゃくちゃ忙しそうなのに。まあでも彼にはぜひともクリスとの時間を最優先にしてもらって、彼女のことを毎日幸せにしてあげてほしい。忙しいなら睡眠時間を削れば良いじゃん?
……いやダメか。
そして明日は、いよいよ旧友との再会の日。私が王都に戻ったということを聞いて、出張の帰りを予定より5日も早めて王都に帰ってくることにしたらしい。ありがたい話だよ。
…でもなんか、今まで全然顔を見せなかったことを怒られそうな気がするね。
後書きのネタが浮かんでこなかったので、今日はストレートにおねだりをさせてください。
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