1話 プロポーズされました
「さて、そろそろ本題に入ろうか」
バルコニーの柵に寄りかかって静かに海を眺めていた彼は、そう言って真っすぐ私のことを見つめてきた。
いや…そうやって真剣な目で見つめるの、遠慮してもらえないかな。破壊力がすごいからさ。ちょっとドキドキしすぎて訳わかんなくなっちゃうから。
というか、やっぱり本題があったんだね。ただ二人で素敵な夜景を眺めて終わりというわけにはいかなかったか…。まあ、そうだよね…。
正直、彼が今から私に伝えてくる言葉の内容はなんとなく察しがついている。今回のような状況、今日が初めてではないしね。
おそらく彼が私に伝えたいことは…
「レイチェル・オーモンドロイドさん」
「…はい」
「一生大切にしますので、僕と結婚してください!」
「…!?」
……私の予想は外れていた。まさかいきなりプロポーズされるとは思わなかった。だって、私たちまだ付き合ってもいないんだから。
こんな素敵な場所に連れてきてくれて、懐かしそうに今までの二人の思い出話をされて、少し会話が途切れてからは穏やかな雰囲気の中、無言で絶景を眺めていたところなので、おそらく告白くらいはされるんだろうなと予想していたけど…
まさかプロポーズだったとは。
というか私の人生、どうしてこんな非現実的なものになったんだ?一回り年下の王子様に結婚を申し込まれるなんて小説でもなかなか見ないよ?おかしくない?我、28歳ぞ?あなた16歳でしょ?
…いや、もちろん不満はないよ。とても嬉しいし、すごく幸せ。彼が本気で私のことを愛してくれているということはよくわかっているし。
でもやっぱり私は…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
王都ハート・オブ・ベルティーン。500年の歴史を誇る魔道王国シェルブレットの首都で、ベルティーン湾のラグーンの上に築かれた、運河が縦横に走る美しい「水の都」。
私は今、そのハート・オブ・ベルティーンの中央部に位置する壮大で煌びやかなお城…つまり魔道王国シェルブレットの王城にいた。
しかも私がいる場所は、巨大な王城の最上階に作られたバルコニー。そこから見える「水の都」の夜景は控えめに言って最高で、つい先ほどまで私は呑気に目の前の広がる絶景を楽しんでいた。
ちなみに王城の最上階は基本的にごく一部の人間…主に王族しか立ち入りが許されていないらしい。平民出身で、すでに魔道王国の騎士団を退団して10年近く経つ私がなぜそんな場所にいるのかというと…
うーん、その話はとても長くなってしまうから、後ほどゆっくり時間をかけて説明します。
今、私がやるべきことは、私が限られた人間しか立ち入りできない王城の絶景スポットで夜の海を眺めている理由の説明ではなく、私にプロポーズをしてきた目の前の美少年と真剣に向き合うことだから。
改めて目の前の少年の姿を見つめてみる。…男性にとってこの褒め言葉が嬉しいものかどうかは分からないけど、「美しい」という表現が彼にはぴったりだった。
一流の芸術家が制作した彫刻作品のように整った顔に、幼い頃からの鍛練で鍛え上げられ、比較的細身でありながらもたくましい肉体。
そして今は夜だから本来の色には見えていないけど、黄金をそのまま溶かしたかような豪華な金色の髪と、透明度の高い海をそのまま目に中に閉じ込めたかのような輝かしい水色の瞳がまたとてつもなく魅力的なんだよね…。
…長々と説明してしまったが、簡単にまとめるならば「この世の物とは思えない美少年」という表現がもっとも適切かと思います、はい。
この美少年くんの名前はダミアン。ダミアン・シェルブレット。前は「ダミアン・メイソン」と名乗っていたが、その名前は偽名だったことが判明した。
魔道王国シェルブレットの王城に暮らしているダミアン・シェルブレットくんということで、はい、こちらの美少年はお察しの通り魔道王国の王子、それも第一王子という身分の美少年となっております、ええ。
…いろいろあって王位継承権は放棄しているみたいだけどね。
なんかこうやってダミアンのプロフィールを一つひとつ解説してみると、とんでもないな。世の中は決して公平ではないことをその存在だけで証明している気がする。
……そんな子がいったいどうして。
…
……
……あっ、ヤバい。プロポーズされたのがあまりにも予想外だったからボーッとして考え込んでしまった。彼、私の返事を待っているよね…。
ちゃんと返事しなきゃ。いつも私に誠実に向き合ってくれる彼のために、ちゃんと自分の言葉で、はっきりと私の考えを伝えなきゃ…。
…こんな私を選んでくれて、愛してくれてありがとう、ダミアン。
私も本当はあなたのことを愛しています。でも…
「ごめんなさい」
私かダミアンに深く頭を下げた。
『今、私がやるべきことは、私が限られた人間しか立ち入りできない王城の絶景スポットで夜の海を眺めている理由の説明ではなく、この話を読んでくださっている読者の皆様に真剣にブックマークや☆での評価をおねだりすることだから』