表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

婚約者を奪われた令嬢

邪神と呼ばれる元女神

作者: 深崎那琴

こんなはずじゃなかったのに。

私は誰からも愛されて慕われて敬われるべき存在なのに、何故こんなことになってしまったの?


私は女神。この世界を管理するのが仕事だ。

ここは小さくても女神である私への信仰心に溢れ、とても素敵な素晴らしい世界だった。

民からの信仰心が集まれば集まるほど、神としての格が上がり、使える力もまた増えていく。


そのために、民達の要望にはどんどん応え、雨を降らせたり、飢えないよう食料もたくさん用意したわ。

その甲斐あって、民は順調に増えていった。

私への信仰心も増えていくと思ったら、そこまで増えることはなかった。


何故?と思って地上を覗いてみたら、理由が分かった。

私の言葉を勝手に語り、好き放題する輩がいたのよ。

もちろん、すぐに天罰を落として制裁してやったわ。

あの慌てふためいた顔は、今思い出すだけでもスッキリするぐらい。


でも、少々やり過ぎたみたいだわ。

民達が怯えて、信仰心が少なくなってしまったの。

どうしたらまた信仰心を取り戻して増やせるかしら?

そうだわ、この世界に瘴気を発生させて、私の選んだ神子が浄化して救ったことにすれば、きっと私への信仰心が跳ね上がること間違いないわ。

早速、誰がいいか選びましょう。


駄目ね、この世界の人間では誰もパッとしないわ。

それなら、違う世界の人間を探すことにしましょう。

世界を救うのに相応しい、優しくて可愛らしい人間は何処かにいないかしら?

あら? あの娘は落とし物を拾って届けたわ。優しいのね。見た目も可愛らしいし、神子はあの娘で決定ね。


早速あの娘に声をかけ、神子になることを了承させた。

そして、神子が受け入れられるように神官達へ神託を下す。

さあ、これで世界は救われて、私は信仰心を取り戻せるわ。


無事あの娘の旅が終わったら、私への信仰心が戻ってきた。

でも、意外ね。あの娘があんな願いをするなんて。

元の世界へ帰るよりも、婚約者のいる男との結婚を願うなんて、私の人選ミスだったのかしら?


それでもあの娘の願いを優先する民達は、なんて神子思い、いいえ、女神である私思いなのでしょう。

私の民達は素晴らしいわ。


あら、今日があの娘と男の結婚式なのね。

え、男の婚約者が自殺した?

さらには男まで後追い自殺したですって?

ちょっと、神子であるあの娘はどうなるのよ?


あの娘は神殿で生涯幽閉って、きちんと世界を救ったのよ。

それを、女神に選ばれた神子で世界を救った功績があるから、衣食住だけは保証してやろう、なんて民の癖に生意気よ。

あの娘のせいでせっかく取り戻せた信仰心が台無しじゃない。


え、嘘、また信仰心が下がってる?

ここまで信仰心が下がったら、この仕事をクビになってしまうわ。

どうしようどうしよう、どうすれば信仰心をまた上げられる?

どうにかしようと焦るけど、失った信仰心を取り戻す手段が思い付かない。


「ずいぶんと無様な姿ね、元女神様?」

そんな時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

目の前で嫌味ったらしく笑うのは、私の同期である女神。

優秀な女神であるこの女は、私が苦労して行うことをいとも簡単にやってのける。

いつか超えてやるつもりでいたけど、何でこの女がここにいるのよ?


「不思議そうね。私がここにいるのは当たり前でしょ。この世界の新たな管理者だもの」

睨み付ける私など、この女にとっては気に止める価値すらないのか。

「いくら怖い顔しても無駄よ、無駄。管理者をクビになって、神の資格を取り消されたあんたは、私に一生敵いっこないから」

管理者をクビになるのは仕方ない。だが、この女は今何と言った?

「どういうことよ?」と声を上げた私を見て、ため息を吐くこの女。


「往生際が悪いわね。あんたは民からの信仰心を失って、もう神じゃなくなってるの。分かった?」

神の資格を取り消された。つまり、今の私には好きに使える力も何もない。

「ようやく現実を理解できたようね。全く、これだから出来損ないの女神は。あ、もう女神じゃなかったわね。ごめんなさいね、元女神様」

嗤うこの女に反論できないのが悔しい。


「あんたさあ、この世界を滅ぼしたかったわけ? 世界がものすごく澱んでるんだけど。うわあ、あんたあんなことまでしでかしてたの? 女神どころか邪神の所業そのものじゃない」

邪神とは、悪い行いをする神のことだ。

私がその邪神だなんてひどいわ。


「さてと、これぐらい梃入れすれば、もうしばらくは持ちそうかな」

くるりとこの女が私に向き直った。

「あんたの選んだ神子とやらが死に追いやって、あんたが何のフォローもしなかった二人、私の管理する別世界に生まれ変わらせて幸せにしておいたわよ。不幸にしただけのあんたと違ってね」

笑い合う二人の姿が映し出された。

いつもそうだ。この女は私が思い付かなかった策で、物事を上手に転がしていく。


「神子とやらも死んじゃってたけど、生き返らせて元の世界へ返しておいたから。サービスでこの世界に関する記憶も消してあげたし、女神ならこれぐらいやれて当然よね」

お財布を届けた後、あの娘は何事もなく家に帰っていった。

まざまざと見せ付けられる、この女との格の違い。


「世界を滅ぼしかねないことをやらかしたあんたは、元同期のよしみでこの世界を滅ぼす邪神として語り継いであげる。

今じゃ誰もがあんたのことを邪神扱いしてるこの世界で、惨めにみっともなく生き続けなさい」

有無を言わさず、私は地上へと落とされた。


そこでは、かつて女神だった私の評判はどん底で、新しく管理者になったあの女は善き女神と崇め奉られていた。

民達は日々の暮らしの中、あの女に祈り信仰心を捧げていく。

私の目指していた世界が、そこにはあった。

込み上げる叫びを抑えるために、唇を強く噛み締める。


いつか、いつか必ず女神に返り咲いてやる。

首を洗って待ってるがいいわ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 3作続いて鬱展開になった根源の女神についに鉄槌が下りました。 [一言] でも、全然反省してないから、また何かしでかしそう。
[一言] 無能な働き者の元女神か~ 返り咲き狙っても失敗するだろうな
2020/09/24 17:19 退会済み
管理
[気になる点] カップル転生してたんですね こんどは身の丈にあう身分だと良いです この2人腹芸も根回しもできそうになかったから貴族に産まれた時点で不幸になりそうです。 [一言] なんだかこの元女神、育…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ