表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

憧れは永遠に


 ソファーで寝るのは、目覚めが悪くなる。紅蓮はお玉で殴られて、目が覚めた。


「朝なんだけど」


 桜花が呆れたように腰に手を当てた。


「蜂蜜さんたちは仕事。カレー作ったけど食べる?」

「いいね。母さんの甘口カレーは食べ飽きた」


 紅蓮にとっては遅い朝食を用意していると、チャイムが鳴った。ドアを開けると、スーツ姿の男が1人いた。


「どちら様で?」

「唐辛子と呼んでくれ。とある娘さんの婚約者だった者だ。ここにいるはず」


 桜花がエプロンで手を拭きながら、玄関に現れた。


「紅蓮、誰だった…クソが来た」

「桜花、何て言葉遣いだ」


 紅蓮は間に割って入った。


「カレーは好きですか」


 沈黙のまま3人で辛口カレーを食べた。


「いい家だ。少しだけ狭いが、美味いカレーもある」

「どうも」


 桜花がスプーンで皿を叩いた。唐辛子が片眉を吊り上げ、食事の手を止めた。


「どうして逃げたんだ」

「元々逃げるつもりだった。予定が早まっただけ。予期しない方向に」


 桜花はカレーを平らげると、席を立った。


「帰って。これから先、何度私の居場所がなくなったとしても、あなたの所に行くことはない」


 桜花は台所に消えていった。唐辛子はため息をつくと、最後の1口のカレーを食べた。


「カレー、ごちそうさま。私はこれで失礼するよ」

「バイクでよければ送りますが」


 駅に着くと、ヘルメットを渡そうとする手を押しとどめた。


「彼女が好きなんですか」

「大事にするつもりだった。だが、もうそれは私の役目ではないようだ。だから、急ぎたまえ」


 ヘルメットを渡し、唐辛子は駅へと向かった。最後の一言は余計だったかなと思った。敵に塩を送るなど。同時に大人げない自分に笑った。

 紅蓮はバイクを飛ばせるだけ飛ばした。家の一番近いバス停に、桜花はいた。クラクションを鳴らすと、決意を決めた顔を上げた。


「止める気はない。だけど、出て行く前に少しだけ走らないか」


 着いたのは、アパートだった。部屋の鍵を開け、まだ何もない部屋に入った。


「1人暮らしするの?」

「前から計画していた。ソファーで寝るのは身体が痛くなるから、予定を早めた」


 紅蓮はいたずらっぽく笑うと、桜花に鍵を渡した。


「たまには遊びに来いよ」

「たまにで合鍵は要らないはず」


 桜花の肩に手を乗せた。


「誰だって休みたくなるだろ。だけど、これだけは忘れるな。俺はお前の味方だ」


 そっと目を閉じ、唇を重ねた。これが最初で最後かもしれない。もっと早くしておけば良かった。名残惜しいが、そっと放した。


「お前の行きたい所はどこだ?」


 鉄の白馬に乗り、恋人たちは走り出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ