憧れの子はマック難民
リハビリがてら投稿します。
再会した憧れの子は、マックで寝泊まりしていた。大学生の紅蓮は声をかけた。
「久しぶりだよな。三日月?」
「ナンパ?ウザいんだけど」
三日月桜花。憧れの子は、埃だらけのパーカーを着て、何日も風呂に入っていない体臭がした。トレーには冷めきったコーヒーだけが残っていた。
「高校生の時、クラスメイトだっただろ」
紅蓮は自分で言っておきながら、この女性が本当に桜花なのか確信が持てなかった。
『皆、おはよー。今日電車で痴漢が出たんだよ。二度見しちゃった』
かつての桜花は好奇心旺盛で、常に笑顔を絶やさない少女だった。しかし、今ここにいるのは威嚇するしか自分を守る術のない家出少女だった。
「それくらい知ってるし。用がないなら帰れば」
「何か困ってそうだがから、声をかけた。だけど、お前なら大丈夫か」
一方の紅蓮は、2年ローンで買った中古バイクに浮かれた夜だった。しかし、桜花の態度で目が覚めた。
少し離れた席につき、チーズバーガーにかぶりついた。それを見て、桜花は腹が鳴った。朝まで粘るためのコーヒーだけでは腹は膨れない。
紅蓮にマジマジと見られ、桜花は顔を赤くした。それを誤魔化すために、紅蓮を睨みつけた。
「何、見てんの」
「ポテト食べるか?」
「…食べる」
桜花はポテトを一口だけ貰おうと、一本のポテトを大事に大事に噛んだ。気づけば、両手に鷲掴みにしていた。知らず知らず、涙が出てきた。だが、今は湿ったポテトが世界一美味しかった。
「このポテト、しょっぱいよ」
紅蓮は、嗚咽する桜花をその夜、家に連れて帰った。バイクの2人乗りで誰かを運ぶのは初めてだった。