500文字の八話 ゼロではないのイチからよ
俺と聖女はハージ・マリノ村で一泊してから村を出た。
森の外周を沿うように作られた一本道を西へ進み、一番近い町へと向かう。
燦燦と光りを撒く太陽は、平野の草花に活力を与え、街道に植えられている木々には、心地のよい影を作らせていた。
散歩するだけなら、とても気持ちの良いことこの上ないだろう。散歩をするだけなら。
「あ、あの……聖女さま……魔王城は北ですよ?」
「……59回、失敗しているのよ。脳筋なあなたには、バカな行動を補佐してくれる仲間がいるの」
魔王が正面から戦ってくれていたら、勝てたかもしれない。
あれは、魔王が用意周到に張っていた罠だったと思いながらも、続く聖女の言葉を背中越しに聞く。
「あんな程度の低い落とし穴に引っかかるなんて笑えないわ」
言葉にせずとも俺の心境は見事に筒抜けのようで、何も言い返せないのが悲しい。
「勇者、あなたは最初からリスタートして色々と見直しなさい。これ、聖女権限の命令」
「また、ゼロからのスタートですかっ」
「ゼロではないのイチからよ。剣が一刀あるでしょ? さ、ずべこべ言わず、早く次の町まで引いて頂戴」
俺は、聖女が座る人力車を引き、次の町へと歩きだす……どうして俺は人力車を引いているのだろうか。
「……理不尽っ」




