600文字の五話 魔王様のお姿
魔王はメーイドが退室した後、頭につけていた角付きのカチューシャをカポッと外すと、パジャマの下から背中に手を回し、胸にキツく巻いていたサラシをほどいた。
スルスルとほどける黒い帯は長く、地面に着く先から柔らかくしなやかに折れ曲がり、ツヤのある曲線を見れば高級品だとわかる。
「はあー……らく……」
姿見の前で魔王は胸に両手を当てながら、すこし怪訝な表情を浮かべると軽く首を傾けた。
さらりと揺れる黒髪のショートヘア。
「また……キツくなった気がする……」
サラシを全てほどいた魔王の姿は、パジャマの上からでも分かるほどに優美な曲線を描いた女性の体つきだった。
パジャマの上から薄手の黒いローブを羽織ると、魔王は自室のベッドへと向かう。
普段の魔王は威厳を保つために、漆黒の服に煌びやかな装飾をあしらった、魔王専用の服を着て男性として活動する。
魔王が女性だと知るものは魔王城の中でも、側付きのメイドや宰相、軍務大臣など、ごく一部のものだけとされている……が、実のところは国民全員が知っている周知の事実。
だが、周知されている事実だと言うことを魔王本人は知らず、政務の際はバシッと男装を決め込んで仕事をする。
その姿を見た者は微笑み、応援する……「マオちゃんがんばれ!」と――。
「あ、歯磨き忘れてた」
歯ブラシを手に持ち、歯磨き粉を付けて、コスコスと歯を磨くとベットへと潜り込んだ。
「……昼寝、さいこう……」