600文字の四話 ためいき
魔王は自身の居室でクローゼットを前にして深い溜息をついていた。
「あぁはーぁぁーー。勇者がウザイ。今回で五九回目、私が何をしたっていうのよ」
ブツブツと文句を垂れ、先ほど追い払った勇者の事を考えながら、漆黒の魔王服から部屋着パジャマに着替える。
「もう勇者を嵌めるネタが……ない。どうしよぅぅ」
「魔王様。いっそうの事、勇者を『永遠の牢獄』に閉じ込めてしまえばよいではないですか」
「メーイド、あなた……それは、人として最悪の発想よ」
キッと自身の侍女であるメーイドを睨み付ける魔王。
永遠の牢獄は、閉じ込めたその身を生きたまま行動不能に陥れる。文字通り、永遠にこの世が終わるそのときまで。
指一本、瞼すら動かせないその空間は、外から見ればクリスタルに閉じられたマリオネット。
正義感が強い魔王は、死刑よりも重いその地獄の刑を口にしたメーイドが少しだけ許せなかった。
でも、勇者から攻めてくるのだから、甘いことは言っていられないともしっかり思っている。
「ブハっっ」
そんな魔王の気持ちをよそに恍惚と鼻血を流すメーイド。
振り向きざまに睨み付けてくる斜め四十五度の左顔も、イイ!
少し変わった性癖をもつメーイドは、大好きな魔王から受ける少しの言葉、賞賛、感謝、鼓舞激励、罵詈雑言、励声叱咤に至るまで全てがご褒美。
見慣れた光景に軽くため息を吐きながら魔王は、白いパジャマのボタンを下から留めた。