600文字の二話 勇者も感じた恐怖
気付くと、目の前には青い空と緑に囲まれた喉かな村が見えた。
この村の外観には見覚えがある。ハージ・マリノ村だ。
「あんの魔王ぉぉぉぅぅう! また嵌めやがったっ。毎度毎度、言葉巧みにはめやがってっ」
魔王は何か言っていたが、そんな事は知ったことではない。俺は、周りの目など憚ることなく地団太を踏んだ。
今まで自ら戦うことなく、言葉巧みに誘導し、毒、MPドレイン、崩落トラップ、転移させて放置……etc
「今日は転移付き落とし穴……戦う気あるのかっ――ッドルブフドヘブっ!」
魔王の罵声を言っていると不意に後頭部に衝撃をうけ、体が錐揉みしながら中を舞い、衝撃で外れたフルフェイスの兜がカランガランと音を立て転がる。
俺は受け身も取れず、言葉と共に顔から地面に叩きつけられた。
「騙されたアンタも大概でしょうが」
この金髪垂れ目の自分でもイケてると思う顔を躊躇なく殴るやつは、魔物以外には一人しかいない。
腕を立て顔を上げると、そこには俺を見下すように聖女が立っていた。
聖女は右手に持つ大きな盾で俺の後頭部を殴ったのだろう。角に血が付いている。
「血ぃィ!?」
血の存在に気付き、慌てて後頭部をさわるとドロリとした見たくない赤い液体が手に付いていた。
「勇者ならそれくらい自分で治しなさい」
「せ、聖女様? 仮にもアナタは聖じょ……ッヒ」
俺を見下ろす聖女の眼光は、それだけで視殺されそうで俺の膝が震えだした。
怖い。