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600文字の十話 温泉で裸は当たり前ですよ

 森。

 木々が生い茂り、草花が風にふかれて踊り、緑も土も花の色もとても豊かに輝いている。

 どことなく人の手が入り、定期的な管理がされているのがわかるこの森で二人の影が右往左往していた。


「ちょっとここは何処よ! メーイドっ」

「魔王様、ご心配なく。ウッカリ転移指定を間違えただけでございます」


 魔王とメーイドの二人は、魔王城から直接勇者がいると思われる街へ飛ぶはずだった。

 だが、メーイドのうっかりミスで、転移先がずれてしまい今は森の中。

 さも何事もなかったかのように、状況を伝えるメーイドに魔王は指を刺しながら口をパクつかせた。


「間違えただけって、そんな何事もなかったかのように……貴女らしいのだけれども……」

「とりあえず、ここは『ヒュマーン国』でしょう。時刻、太陽の位置、この植物達が生息していることを考えると……」


 メーイドは地図を広げ、ツツツっと指を滑らしながら思考を巡らすと一つの森に指先が止まる。


「近くにフォーフォーという村がある森のようですね。たしか温泉が有名な温泉村のはずです」

「温泉? こんな森の中に温泉があるの?」


 少し驚きながらも、温泉に浸かれるのかと思うとつい嬉しくなる魔王。

 それを横目に、デヘっとさっきまでの冷静さはどこに行ったのかと思うほど顔が緩むメーイド。


――魔王様と二人ではははは、裸の温泉っっっ!


 そう、メーイドはワザと転移魔法を失敗した。




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