600文字の七話 過保護な側付きはメーイド
「メーイド。止めないでほしいわ。私は決めたのよ」
「何を言っているのですか、あなたがこの魔王城を離れるなど……ましてや、護衛も付けずに」
魔王は、魔王城の玄関口でメーイドに引き留められていた。
右手には、数週間分の衣類などが入っている巨大なキャリーケースを携えて。
全ての雑務を部下に任せ、魔王は勇者を叩きのめさんと人魔の民が住まうデンモーン国を誰にも見つからず一時離れようとしていた。だがメーイドにつかまった。
「大丈夫よ。私の仕事は、あなたたち優秀な部下が城にいてくれれば問題ないわ」
「そうではありません魔王様。私がいなくては、髪もろくに梳かせないではありませんか」
「うっ……」
男として育てられた魔王だが、そのショートヘアは毎日メーイドに髪を梳いてもらいツヤッツヤの髪で癖一つ見当たらないヴューティフルヘアー。
今まで身の回りのことを自分でしたことない魔王がいざ自分ですることを想像するに、結果を見るより明らかだ。
「で、でも。いつもいつも待っているだけでは勇者はこの城を壊しに来るだけなのよ。こちらからも勇者を攻めなくては……」
「魔王様は、戦えないではありませんか……はぁ。仕方ないですね。では、こうしましょう」
その後も続いた押し問答で、メーイドの転移魔法を使うことで日帰りで勇者にちょっかいを出しに行く作戦に変更になった。
途中から宰相やら騎士団長やらが出てきて、打つ手が無くなってしまった魔王。
――っく。
逃げられない。と悟った魔王であった。




