600文字の五話 傾倒
「暇だわ」
悪魔の来襲で滞っていた業務も本日は午前中に片づけてしまい。魔王は暇を持て余していた。
今までは週に三度は訪れていた悪魔も一ヵ月以上姿を見せていない。
今まで勇者が人魔の国へ来るときは、中立国である『要請の国』と比喩される国である『妖精の国』のある運送会社に魔王城まで『配達』という形で配送されていた。
形式的には配送だが、勇者側としては立派な交通手段の一つとして利用していた。
このシステムを利用して苦労することなく、ぬけぬけと魔王城までたどり着いていた勇者は今まで59回も敗退を繰り返し、とうとう聖女に尻を叩かれ始めた。
そのことを知らない魔王は、自室の椅子に座り肩肘付いてボーっと天井を眺めると次、悪魔が来た時、如何に戦わず、かつ姑息にトラップに陥れるかを考えてしまう。
――はぁ。
ため息が出た。
暇をもらうと、つい悪魔のことを考えてしまう。その自身の状態がちょっと許せなった魔王は机に顔を埋めて気を静めた。
「何か他に趣味でも見つけるのもいいかも……でも……それなら……」
まじめな性格も相まって、悪魔を追い返すのが一つのルーティーンとなっていた魔王の思考は悪魔へと傾倒し、ある考えに至ってしまう。
「来ないことで不安の種になるのなら、直接赴いて叩きのめせばいいのよ。そうよ。悪魔の面を一度は拝むのもいいかもしれないわね。にッフッフッフ」




