600文字の二話 勇者に休みはない
「ほら、右からも来てるわよ。休んでる暇はないのよ。ほら、左からまた来た」
「そっ、そんな事言ってもっ、無理っ!」
ニバーンの町から数日後、俺たちは北の人魔領へ向かうことはなく、西にあるサバン要塞街へと向かって歩みを進めていた。
途中、群れをなすオオカミの魔物、グンガルルと遭遇し現在、討伐中だ。
ざっとみても三十匹はいるだろうか、グンガルルに囲うように包囲され逃げ場がない。
「私のことは気にしなくていいわよ。思いっきり突いてしまいなさい」
人力車の上から、涼しい顔で指示を出してくる聖女様だが、俺の顔は汗と泥で塗れている。
聖女のことなんてそもそも気にしてなんていない。自分の命が第一だ。それに、聖女は俺より強い……絶対。
「とぅぁ! てぃやー!」
《Gyain――!》
今までは剣を振るって戦ってきた。
剣を扱っていた時は、刃が欠けないように、剣が折れないように、攻撃は鍔で受け止め、時には攻撃を受け流し戦ってきた。
それがどうだ、この「ただの棒」の驚異的な耐久力。
飛び掛かってくるグンガルルを棒の先で打突しては放り投げ、時にはそのまま横に薙ぎ払う。
明らかに折れるだろう力を込めても全く折れない。
聖女が言っていたように本当に壊れないなのかもしれない。
「おぉぉりゃ!」
《Garuru , Garuru……》
ただ、問題があるとすれば――
グンガルルすらまともに倒せねぇ!




