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600文字の一話 魔王の休日

「もう三週間も来ていないなんて、いつぶりかしら」


 魔王城のエントランスにて勇者の訪れない日常を、魔王は優雅に謳歌していた。

 このエントランスから見渡す景色は、人魔領を望むことができる。

 地平線の向こうまで続く先にも人魔領は続いており、国土の広さはどの国よりも広い。


「素敵なことだわ。悪魔(勇者)が来ない休日がこんなに『平和』だなんて。歌いたくなる」


 彼女達人魔族の人々にとっては、よく分からない理由で攻めてくる勇者は、悪魔のような存在だ。

 悪魔(勇者)の来襲もなく、魔王として日々の雑務に明け暮れ、今日は週に一度の休日。

 悪魔(勇者)が来ない休日は魔王にとって嗜好の時といっても過言ではない。

 紅茶のカップを片手にクルリクルリと回りだす魔王を見て側仕えのメーイドは行動に出た。


「魔王様、マイクの用意が出来ております」


 メーイドは、常に魔王の側に控え、魔王の心理を常に先読みし、そして用意も周到。


「……実際に歌うわけではないのよメーイド」

「そんな持ったいない! 魔王様の歌声が領土中に届くよう、すでに手配をしておりますのに……」


 よよよと目元にハンカチを当てながら、マイクを突き出し魔王に歩みを迫るメーイド。

 魔王はそのワザとらしい演技力の圧に怯えて、一歩後ずさる。


「やめなさ、ヤメっ。アアァぁ――」


 その日、魔王ソングが国土中に響き渡り、メーイドの顔は興奮と愉悦で緩み切っていた。


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