600文字の十一話 撲殺の聖女
「ドブフっ――」
「鬼ではなくて、聖女よ」
俺が鬼と罵る前から眼前には聖女の持つ盾が飛んできていた。
だが、同時に天に舞っていた折れた剣先が、俺の立っていた場所に落ちてきたのもほぼ同時だった。
盾で吹き飛ばすことによって、味方が傷付く前に助ける。これが聖女たる所以なのだろうか。
俺は鼻からは血が滴れている事と聖女の呆れた目はこの際、気にしないことにした。
「勇者、あなたはスタートから装備を与えられていたのが間違いなのよ。突っ込んで切って、逃げては突っ込む。悪いとは言わないけれど、戦いの「た」の字もなっていない」
「っぐ……」
確かに。
もともと平民だった俺はある日突然、なんの因果か『勇者だ』と担ぎ上げられた。
戦ったこともないのに装備を与えられ「魔王を討て」と命令され、流されるままこの場にいる。
「見てなさい。戦いとはこうするのよ。アグメンテーション。ハイ・リジェネーション!」
聖女の戦いは一方的な蹂躙だった。メイスで殴って殴って殴って、避けては殴るが、逃げない。引かない。盾で受け流す。
掠り傷は、ハイ・リジェネーションの効果で一瞬のうちに再生する。
あんな華奢な体の何処にそんなパワーがあるのだろうか。
粉砕されていき、あっという間に頭一つになったキマイラゴーレムに少しだけ、同情した。
聖女様のメイス、異常に硬くないだろうか。




