500文字の九話 勇者の膝は震えない
「あそこに城壁が見えてるって言うのに、こんな所で……」
ハージ・マリノ村から一番近い町、ニバーン町を目前として、俺たちは足止めを食っていた。
「勇者なんだから、一刀のうちに両断しちゃいなさいよ」
「むむむ、無茶なっ……だって、キマイラゴーレムですよっ。防具無しじゃ何されても死ぬ!」
剣を抜いていつでも応対できるように構えるが、キマイラゴーレムを見ているだけで足がすくんで膝が震えだす。
目の前にいるキマイラゴーレムは、人魔の国の魔学者が作り上げたといわれている、あらゆるゴーレムの複合体。
石、鉄、粘液、氷、アイアンなどあらゆる物質が混ざり合い、なにが弱点なのか固体や部位によって異なり倒すのに苦労する。
「あなたが死んでしまっては、この町も終わりかもしれないわ。名物のエッグケーキが食べれなくなっちゃう。しくしく」
「悲しむ所、そこですか!? しかも棒読みっ」
しかし、聖女の言うとおりこの町には、キマイラゴーレムと戦える人がいるか分からない。
多少無理をしてでも、戦うしかない。
「か、覚悟を決めるぞ! ジアーゼ・パム!!」
俺がジアーゼ・パムの魔法を唱えると先ほどまでガクブルだった膝は途端に震えなくなった。




