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『レース時間も残り一分少々。いよいよ葛木、篠田両名のガチバトル開始っ!先輩の意地を見せるか葛木選手。ポールのプライドで抜きに行くか篠田選手。しかし、抜かれたとはいえ横峰選手もまだ諦めてはいない様子……』
場内アナウンスのコメントにも、力が入る。
「一時はどうなるかと思いましたが……」
「ちょっと時間が掛かりすぎたわね。」
「え?」
母の意外な返事に、店長は間抜けな返事をしてしまう。
「考えて御覧なさい?時間は残り一分。周回にして約三周。予選のタイムは僅差。ましてや、友美は予選とセッティングが違う。よほど大きな隙が出来ない限り、逆転が起こる確率は限りなく低いわ」
冷静な分析に驚きつつも、反論を試みる店長。
「でも、友美ちゃんは後追いに付いてるわけだから、精神的にはだいぶラクでしょ?プッシュしながら、プレッシャーを与えることだって……」
「燃費を考えなさい。ここまでだってかなりアグレッシブに走ってるわ。葛木さんも、トップ争いをしてたけど要所要所はきっちり抑えてる。ラストラップで友美のバッテリーに変化が無ければ、あるいは……」
さすが研究者。反論をバッサリ斬り捨てる。
「伊織さん的に、勝算は?」
「……良くて20%、というところかしら」
「と言うことは、最悪……」
「このまま抑えられて終わり」
「き、厳しいッスね~、相変わらず」
伊織の大学生時代を知っている店長は、“変わってないなぁ”との印象を受けた。