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『レース時間は、一分経過しています。ただ今の順位は、トップは葛木選手、以下横峰、立木、大野、篠田、二瓶、川本、国見、桜丘、安東というオーダーになってます』
克明な順位が、場内にアナウンスされる。
「あらら、友美ちゃんどうしたんですか?」
「変更したセッティングに戸惑ってるのかしら?」
「え?ポール取ったのに、セットを変えたんですかぁ?」
驚きの声を上げる勲。
「本人たっての希望でね。私もびっくりしたのよ?」
「裏目に出たとか……」
「それは無いはずよ。今は、予選との違いに戸惑ってるだけ。まぁ、見てなさい。あの子の本領発揮はここからだから。私の理論は、間違ってないはず」
自信満々の篠田母。娘の腕を信じきっているようだ。
『さぁ、二分経過。依然トップ争いを繰り広げる二台。その後ろは一秒差で立木選手……おおっとぉ?篠田選手がそのすぐ後ろに迫ってきているッ!その差、コンマ二秒!』
状況を知らせる場内アナウンスに、どよめく会場。ものの一分で順位を二つも上げてきたのだ。
「……す、すごい」
店長も驚いている。彼も、昔から彼女のことは知っているのだが、予想の斜め上をいってるようだ。
「ね?ここ一番の速さは、あの人以上よ」
「さすが、葛木が目をかけるわけですよ。ここまでとは……」
「ほんと、この娘の底なしの才能には驚かされるばかりよ」
小学生の頃の曲芸走行を思い出し、ため息をつく母。
あの頃から片鱗は見せていたが、レースセンスは想定外だったらしい。
『……ああっ!立木選手、ヘアピンでクラ~ッシュ!!篠田選手の猛烈なプレッシャーに負けたか、イン側の縁石に激突~~っ!!』
そんなことも出来るのか、と驚きの声が聞こえる。
「この辺りは……」
「葛木さん達といつもやりあってますからねぇ。お手のものでしょ」
頷きあう大人が二人。