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「さぁ、GT300クラス予選も残すところあと一人。最後に登場するのは、何と女性!しかも中学生!さらに驚く無かれ、今回がレース初参戦だぁぁぁぁぁぁぁっ!」
いらんことで盛り上げないでほしいなぁ……ま、なるようにしかならないけどね。
「そのキュートなチャレンジャーは、しのだぁ~とぉもぉみぃ~~選手ぅ~~~~」
ズルッ!
「ちっがーうっ!ともみじゃ無くて、ゆみよ、ゆ・み!」
「え?……あ、そ、そうなの?こいつは失礼。改めてぇ、篠田~友美~選手~」
久しぶりに間違えられた。私は、篠田友美。ともみと書いてゆみと読む。そのせいか、時々間違えて呼ばれる。クラスメイトなんか、間違って覚えてる人もいるからなぁ。
それでも、しばらくは読み間違いも無かったけど、久しぶりのツッコミだわ。……あ、母さん笑いを堪えてるよ。んもぉ~、名付け親のくせに。後で死刑確定。
あれ?私の名前を聞いて、一部がざわめいている?
まさか、父さんを知っているとか……まあいい。さて、レースレース。目標はズバリ21秒を切る。一人やってくれてますからねぇ。
「さて、気を取り直して……。お、ボディがどこかで見たことがあるカラーリングですねぇ。どこでしたっけ……」
はいはい、余計な事は言わなくていいから。やりにくくなるじゃない……あ、勘のいい人は気づいたみたい、母さんの所へ挨拶にいってるよ。
ま、いっか。さぁ、集中集中……。
「さぁ、篠田選手のマシンがグリッドに着きました。シグナル点灯!赤から……グリーン!」
一周目、母さんの施したセッティングを確かめる。
お、入る入る。コーナーが攻めやすい。昨日よりクリップが狙いやすくなってる。
駆動系も感じがいい。前へ出る感じがする。
……ベアリング変えたね?モーターもトルク感UP!入念に慣らしをしたおかげだね。
ストレートの伸びも申し分ない。いける!
「いよいよ篠田選手、二周目からタイムアタックに突入!この先は、いかなる理由でマシンを止めても計測のやり直しは出来ません。一周でも周回を完了していれば、仮に悪いタイムでもそれが記録となります」
こらー、わかってるから余計なことでプレッシャーかけるなーっ!
……いけない、周りを気にしちゃだめ!集中集中。
次の周から仕切り直し。シャーシもパワーソースも、いい感じ。
「さぁ、篠田選手のペースが上がってきたぞ?入りのタイムが……21秒335!いきなり21秒前半!本当にレース初参加なのかぁ?最初からハイペースで走っていますッ」
……何か言ってるけど、気にしない。まだ攻められる。
丁寧にRを描いて、失速しないように……
「アタック三周目。……21秒006!ここで横峰選手を上回ったァ!これは、もしかしたら21秒切るかもしれないペースですよ?」
まだ行ける、まだ攻められる。それくらい今日はセットが決まっている。コーナーとコーナーが繋がる!
ストレートの伸びもサイコー!こんな感覚、初めてかも。
「さあ、ラストアタック!最終コーナー立ち上がってぇ、コントロールライン通過!」
ふぅ、終了~。クールダウンでマシンを労わる。結果はどうだろう?いい感じで走れていたけど……。
「さぁ、気になるベストラップは……え、これホント?」
ん?何か気になる反応……
「す、凄いことになりました!篠田選手のベストラップ、なんと20秒892!葛木選手をわずかに上回ったァ!篠田選手、初参加でポールポジション獲得~ッ!」
おお~っ、私って凄い?感触はあったけど、私がポール?おおぉ、ちょっと出来すぎだね。決勝でポカしないように気をつけないと。
操縦台を降りて……あれ?
あそこにいるのは葛木さん?
「ポールおめでとう。始めた頃から見てきたけど、こんな短期間で抜かれるなんてね」
葛木さん。
ここのコースの常連の一人。そして、私がレースに参加するきっかけとなった人。
練習の度に私に付き合ってくれて、ほぼマンツーマンで色んな事を教えてくれた。
「ありがとうございます。色々教えていただいたおかげです。今日は、たまたまセッティングがハマっただけですよ」
「それを生かして、ポールが取れたんだからやっぱ才能かな?さすが怜治の……あ、この言い方は嫌いだったね、ゴメン」
「あ、いや、気にしないでください」
この人と父さんは旧知の仲だ。気を使わせちゃったなぁ。
「そう思うなら、決勝は真剣勝負ですよ?手加減なしでお願いしますよ」
「予選で負けた相手に手加減も何もないと思うんだが……」
それもそうだ。ハハハ、と談笑して引き上げてくる。