プロローグ
「さあ、ミナガワRCフェスティバル、GT300クラス予選も終わりに近づいてまいりました!」
ここ、某県ミナガワサーキットでは、RCレースが開催されていた。
簡単に内容を説明すると、今巷で大人気のツーリングカーのRCレースである。実車のスーパーGTのようにクラス分けがあり、
GT300クラス
23Tモーター、市販パックバッテリーのみ
コントロールタイヤ有
詳細はJRCAスポーツクラス規定に準ずる
GT500クラス
モーター及びバッテリー自由(公認された製品に限る)
コントロールタイヤ有
詳細はJRCAエキスパートクラス規定に準ずる
(JRCA:日本ラジオコントロールアソシエイツ)
のような規定が設けられている。レース形式は、予選がスーパーラップ方式(持ち時間二分の中の一周のベストラップで順位が決まる)、決勝が五分間の周回レースとなっている。ただ今、その予選の真っ最中である。
「ただ今の暫定ポールは、葛木選手の20秒922。唯一の20秒台!なかなか破れなかった21秒の壁を、とうとう越えてきました!二番手が横峰選手の21秒016。もう一息でしたが、葛木選手を上回ることが出来ませんでした」
(20秒かぁ、ワンミスが命取りだねぇ)
いまこの地に、一人の少女が立とうとしている。
「大丈夫?いけそう?」
中年の女性が少女に問いかけた。
「かな~りキビしいよね~。20秒なんて出さないでほしいわ、正直」
「いや、そうじゃなくて……緊張とかしてない?初のレースでしょ?」
苦笑する女性。
「もちろんしてるよ。心地良い緊張?よくわかんないけど、アガッてるとかそういうのは無いよ?」
「そう……私からは、頑張ってとしか言いようが無いけど。お父さんも見守ってるわ」
「はは……ま、全力で逝ってくるよ、母さん」
「漢字の使い方が違うって……この子大丈夫かしら、はぅ」
「母さんがまいってどーするのさ……ちょっとしたギャグじゃん」
どうやら、母娘でレースに参戦してるようだ。
「……おおっとぉ?宮村選手クラーッシュッ!攻めすぎて縁石に激突の模様です。ここのコースは、イン側のゼブラの奥に段差がありますから、良くてスピン、悪いと今のようにクラッシュしてしまうんですね~」
少女の出番は、この人の次だった。あちゃ~と額にてを当てる。
「ヒトの目の前で派手にやらないでよね~。ビミョ~にプレッシャー掛かるじゃない……」
「あなたなら大丈夫。やれば出来る娘だから」
「それもビミョ~にプレッシャーなんですけど……」
そうは言うものの、あの台詞を言いながら見つめる母の眼には、少女はいつも癒されている。何かある度にそうやって心を落ち着かせてくれたものだ、と過去を思い出していた。これほど心強い応援はない。
「さあ、出番だッ!」
少女が立ち上がった。