世界空想科学小説全集(室町書房) 概要
最初のSF叢書は、室町書房の「世界空想科学小説全集」だ。昭和30年の初めに2冊発刊されている。
「遊星フロリナの悲劇」アイザック・アシモフ、平井イサク訳、SFS101、昭和30年(1955年)1月30日発行、209ページ、170円
「火星の砂」A・C・クラーク 平井イサク訳、SFS102、昭和30年(1955年)2月28日発行、174ページ、170円
2冊とも、ハヤカワSFシリーズと同じ大きさ。
小口は、茶色に染色されている(ハヤカワSFシリーズと同じだが、やや赤っぽい茶色)
(SFSは、表紙の下に「A SCIENCE FICTION SERIES BOOK」と書かれているので、これの略だろう)
ハヤカワSFシリーズと似ている、大きさと小口の染色(茶色)は同じ。古本屋から送られてきたときは、間違ってハヤカワSFシリーズが送られてきたのかと、最初少しは思ったくらいだ。
よく見ると、パッと見たデザインは、ハヤカワのミステリーの方が似ている。その当時のハヤカワポケットブックスを参考にしたのかも知れない。
(昭和30年なので、まだハヤカワSFシリーズは出ていない)
この2冊しか刊行されていない。
巻末に近刊予告が載っているので、続けて刊行される予定はあったようだ。2冊目の「火星の砂」の近刊予告には、次のように載っている。
スラン A.E.ヴァン・ヴォークト
宇野利康訳
トリフィーヅ J.ワインダム(最初の文字はワに見える)
都築道夫訳
時の限界を超えて フレデリック・ポール
わが支配下の宇宙 フレデリック・ブラウン
……(以下略)
スランとトリフィーヅは、既に翻訳を頼んであったか、翻訳ができていたように推測できる。
このシリーズは、訳者である平井イサクさんが企画されたもので、あとがき(遊星フロリナ)に次のように書かれている。
「今度、室町書房から世界空想科学小説全集が発刊されることになり、ぼくが、その第一冊を訳すことになつた。この企画はほとんどぼくが立て、また、短時間のうちに、その第一冊を送り出さなければならなかつたため、あるいは、第一陣としては、よりすぐれた原作が他にあり、訳者としても、より適切な人が他にいたのではないかと心配している。」
(なった、等の「っ」は大きな「つ」で印刷されている。)
また、あとがき(遊星フロリナ)には、
「企画の最初に御相談にのつていただいた江戸川乱歩先生、お忙しい中を、推薦の御言葉を賜つた香山滋先生に、厚く御礼申しあげます。」
ともあるので、江戸川乱歩が企画の相談にかかわっていたようだ。
[追記]
この2冊は、後にハヤカワ・ファンタジイ(後の、ハヤカワSFシリーズ)に、同じ平井イサクの翻訳で出版されている。
HF 3030 宇宙気流 昭和37年3月(室町書房の「遊星フロリナの悲劇」)
HF 3025 火星の砂 昭和36年3月
の2冊。
ハヤカワ・ファンタジイのものは全訳だが、室町書房の方は少し縮めた抄訳になっている。
ハヤカワ・ファンタジイの「火星の砂」の解説(福島正美)において、次のように書かれている。
「……(前略)今度、このハヤカワ・ファンタジイ・シリーズに入れるにあたつて、おなじ訳者に、徹底的な改訳と、先訳では分量等の都合からかなり大幅な削除を受けていた部分の復原とをおねがいし、完訳決定版とすることに、意をもちいました。」
ハヤカワの宇宙気流の解説には何も言及はないが、同じだろうと思われる。
室町書房版とハヤカワ版、どちらも、本文の1ページは、「27字×18行×2段」で同じであるので、本文のページ数を比較してみると、
宇宙気流(遊星フロリナの悲劇) 室町:202ページ、ハヤカワ:242ページ、202/242×100≒83%
火星の砂 室町:165ページ、ハヤカワ:224ページ(最後のページは1行のみ)、165/223×100≒74%
2019年7/17:[追記]を追加。追記の上の段落、江戸川乱歩に関して追加。