第7話 魔王様、農地改革を行う②
「しょ、所得倍増計画!?」
「はい、その通りです」
俺は答える。
つまり、貴族たちの徴税権には、現時点では手を出さない。
農民たちの「所得」を増やすことで税額が同じでも生活が豊かになるような政策を施すことが目的だ。
「ぐ、具体的にはどのように?」
モントロス子爵が疑問を呈する。
「はい、『二毛作』を活用しようと思います」
「二毛作!?」
皆が目をパチクリさせる。
「はい、二毛作とは収穫が終わったあとの畑で、休耕期を利用して別の作物を育てることを言います」
俺は皆に説明する。
「この国の主な農産物は小麦で間違いないですか?」
「は、はい……」
パンはエルトリア王国の主食で、その原料となる小麦は最も重要な農産品だ。さらに小麦を刈った後の稲わらは、牧草として家畜の飼料にもなる。
「ちょうど春の麦刈りが終わったばかりですね。これから刈り終わった麦畑に水を張って、あるものを植えましょう」
「それは何ですか?」
「米ですね」
俺は皆に向けて答える。
「米ですか……。もちろん知っていますが、あれはもっと亜熱帯、温帯の地域で生産するものではないでしょうか? ここら辺はやや寒い地域ですし、栽培が上手くいくとは……」
モントロス子爵がが不安を口にする。
「大丈夫です。品種にもよりますが、水が豊かな地域であれば、多少寒い地域でも十分生産は可能ですよ」
俺はモントロス子爵の不安に回答する。魔王国でも米作りは行っているが、いわゆる「米どころ」と呼ばれる地域は、温暖な地域より寒い地域が圧倒的に多い。
エルトリア王国はやや冷帯よりの気候で、豊かな森や山脈のおかげで水が非常に豊富だ。米作りには適した地域に違いない。
「休耕期間を利用して別の作物を作る。アイデアとしては良いと思うのですが、土地がやせて連作障害がでるのではありませぬか?」
ウォーレン伯が尋ねる。いい質問だ。
「麦→米の二毛作は、比較的連作障害が出にくい組み合わせです。しかしながら二毛作を続ければ、ご指摘の通りいずれ土地がやせてしまいます」
「じゃあやっぱり無理じゃないか!?」
アルマンド男爵が大きな声で言う。
「はい、なので土地がやせないように十分な肥料を与える必要があります。ちょうど王都のすぐ近くにメルベル牧場という大規模な牧場があります。そこで牛糞や鶏糞を肥料として分けてもらいましょう」
俺が提案する。
「ほかに何かご質問はありますか?」
「……」
「どうかな、シルヴイ?」
俺はシルヴィに確認する。
「す……」
す?
「すごい! すごい! すごいですアレク様!!」
彼女は目を輝かせて喜んでいる。
「な、なるほど」
「ありかも知れませんな」
「ま、マジですか。そんなこと考えもしなかった」
3人の貴族たちも納得してくれたようだ。
「流石ですアレク様」
ルナがまるで自分のことのように自慢げだ。
「では、米の生産に関しては当面は『無税』としましょう。『栽培奨励品目のため特例的に無税とする』とでも説明しておきます。なぁに、麦から十分な税収を得ているから、大貴族たちも反対はせんでしょう」
ウォーレン伯が提案する。
そう、貴族たちの税収を減らさずに農民の所得を増やすことが肝心なのだ。
「用水路は整備した方が良いですな。あと苗の確保と、農民への育成方法の指導と……」
モントロス子爵がやるべきことのリストをまとめていく。
「米ってどうやって料理するんだ? うちのメイドが南方出身だから、上手い食べ方を聞いてみるぜ」
アルマンド男爵も乗り気だ。
「では、そういうことで行きましょう。解散!」
ウォーレン伯の号令で、会議は一旦お開きとなった。
各々すべきことをこなすため、慌ただしく会議室を後にする。
それから約一週間後。
さっそく麦刈りをした後の畑に水が入り、今日は田植えの日だ。
農家の人たちは老人から子供まで、一族総出で目を輝かせながら田植えをしている。
当然だ。
「実った米には税を課さない」というお触れを出したのだから。
今から収穫が楽しみで仕方がないといった様子だ。
「良かったですねぇ。うちも助かりますぅ」
パメラさんが、のんびりとした口調で言う。
メルベル牧場にとっても、廃棄していた家畜の糞を肥料として買い取ってもらえるなら、こんなに良い話はないだろう。
こうして、エルトリア王国を良くするための、まさに「種まき」が着々と進み始めた。
これが育ち、花をつけ、実がなるまでにはまだまだ時間がかかるだろうが、まずは一歩前進といったところか。
俺は太陽の光を反射してキラキラと輝く田を見ながら、そんなことを考えていた・
To be continued
今回少し短くて申し訳ありません。「きり」の関係で、本日はここで終了させていただきます。
これにて、一旦「内政パート」は一休みとなります。
さぁ次回からいよいよ、魔王アレクのこれまでの内政の成果が試される「戦争パート」に突入します。
お楽しみに!