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第84話 神聖十字軍④「参謀長との出会い」

「俺ロドムスってんだ。お前は?」


 目の前のボロを着た少年は、鼻をすすりながら自己紹介する。


「俺は〇〇」


「ふーん、変な名前だな」


 初対面の相手に対して酷い言い草だ。


 とにもかくにも、これが魔王国の下町のスラムに暮らす物乞いの少年と、魔王城の召使の少年の、最初の出会いであった。


 どちらも魔王国では最底辺の身分の人種だが、俺たち二人は妙に気が合った。


 それ以降、俺は召使としての仕事がない時は、必ずと言っていいほどロドムスとつるんで、帝都エルダーガルムの街中を走り回ったものだ。


 下町のスラム街や、古い地下水道や、誰も参拝する者がいなくなった墓地やら。


 今にして思えば、結構危ない場所に出入りしていたと思う。事実、子どもながらに何度も危険な目にも遭った。


 だが、当時の俺はそれを怖いと思ったことはなかった。


 ロドムスと言う最強の相棒がいたからだ。






「なぁ、〇〇、お前、将来の夢は?」


 ある時、ロドムス少年がそんな問いを俺に投げかけた。


「う~ん。父さんの後を継いで、立派な『庭師』になることかな」


 俺はあまり深く考えず、なんとなくぼんやりとそう答える。


 我が家は代々魔王城の召使の家系で、父も城内の庭師として、魔王城に住み込みで従事していた。


「つまんねぇ夢だな!」


 ロドムス少年は俺の答えをバッサリと切り捨てる。


「じゃあ、そういうお前の夢は何だよ」


 全否定のロドムス少年に少しムッとした俺は、やり返すつもりで同じ質問を彼に投げかけた。


「俺の夢は『魔王』になることだ!」


 ロドムス少年は一瞬の躊躇もなく、はっきりと自らの夢を宣言する。


「は、はぁ!?」


 あまりに予想外の答えに、思わず声が出てしまった。


 魔王。


 全世界の魔族の頂点だ。魔王国の将軍よりも、四天王よりも、さらに偉い存在だぞ。


 そんなもん……。


「なれる訳ねーだろ!」


「いや、絶対になって見せる!」


「……」


 俺はロドムス少年の言葉に押し黙る。彼の目が「本気だ」と物語っていたからだ。


「魔王になるには『魔剣』に所有者と認められなければいけないんだ! 逆にいえば、所有者と認められさえすれば、俺みたいなスラムの住人でも、世界の王になることが出来るんだ!」


 彼は熱に浮かされたように語り始める。


 もちろん、俺だって召使とはいえ魔王城の関係者だ。当然魔剣の「承継の儀」のことは知っている。


 当代魔王は「情熱王」アドレー=クランクハイド様だが、いずれ必ず、どこかのタイミングで「承継の儀」は発生する。


 そこで魔剣に認められ、魔王になることがロドムス少年の夢だという。


 友がそんなことを考えていたなんて、いままで微塵も知らなかった。


 だが、


「でも、やっぱりそんなの無理だよ。次の承継の儀で魔王に選ばれるのは、きっと『今の魔王様の娘』ルナリエ=クランクハイド様だよ」


 俺は改めて、消極的な意見を述べる。


 俺もまだ会ったことはない(・・・・・・・・・・)が、魔王には一人娘がいて、その女の子が、「史上最高の才能」を持つらしい。


 次の承継の儀では間違いなく彼女が魔王に選ばれると皆が噂している。


「彼女が魔王になれば、憎きメアリ教国を討ち滅ぼし、魔族幾万年の悲願である『世界統一』がついに成るかもしれん!」


 以前、酔っぱらった父親が自室でそんなことを言っていた。


 普段そんなことを言う父ではないが、それだけに、彼女がそれほどの(・・・・・)才能を持っているのだと子ども心に十分に理解することが出来た。


 ロドムス少年には悪いが、相手が悪すぎると思う。


「そんなの、やってみなきゃわからないさ!」


 友の悲観的な意見にはまるで興味がない様子のロドムス少年。


「そうだ、俺が魔王になったら、お前を『参謀』にしてやるよ! お前は弱っちいから『四天王』にはなれないだろうけど、頭はいいからな!」


 彼はもはやすっかり魔王になった気分で、妄想を膨らませはじめ……。





 ハッ!!


 驚いて目が覚めた。


 どうやら夢を見ていたようだ。


 外では強風が吹き荒れ、野営地の天幕がバサバサと音を立てて揺れている。


「アレク様。どうかなさいました?」


 同じ布団で寝ていたルナが気付いたようで、俺に声を掛ける。


 薄いネグリジェ姿であり、非常に官能的だ。


 そう言う俺も、上半身裸なのだが……。


 どうやら二人で「例のアレ」をしていて、そのまま眠りに落ちてしまったらしい。


「いや、何でもないよ」


 俺は起き上がって、天幕を少しだけめくり、外の様子を見る。


 刺すような冷たさの外気が、暖かい天幕の中に流れ込んでくるのが分かる。


 パラパラとだが、みぞれまじりの雨も降っている。


 畜生。


 この様子だと、標高の高いノア山脈では雪が降っているだろう。


 北方の山脈ルートは、積雪の中の行軍になりそうだ。


 今日は10月2日。午前2時。


 先遣隊として魔王国に侵攻することとなったエルトリア王国含む4か国の軍は、一旦本軍を離れ北上し、現在山脈ルート、ノア山脈のふもとまで進軍したところで夜営中である。


 同軍には、シドニア=ホワイトナイト率いる3千のユードラント軍も同行している。


 ユードラント軍総司令官のベルモンド卿が渋ったため、最低限の人員しか動員できなかったが、彼と副官のヒューゴ=マインツが先遣隊に加わってくれたのが、目下、不幸中の幸いといったところか。


「まさかこのような形で魔王国に戻ることになるとは思いもよりませんでしたね」


 ルナが毛布にくるまった格好で起きてきて、俺の隣に立ち、黒々とそびえたつノア山脈を見つめる。


 あの山の向こうに、俺たちの祖国がある。


 奇妙な形ではあるが、1年半ぶりの「帰国」であることには違いない。


「何も感じない」と言えば嘘になる。


「追われた」とはいえ、やはり故郷なのだ。


「……」


 柄にもなく感傷に耽ってしまった。


 故郷を目の前にした郷愁の念か、あるいは先ほど見た、「戻れない過去」の夢のせいか……。


「さぁ、冷えるしもう中に入ろう」

 俺は想いを断ち切るように頭を振ると、ルナにそう提案するのであった。


「そうですね」


「なんだか寝れそうにないな。ベッドの中でもう一回シテもいいかい?」


「ひゃ、ひゃい!? も、もちろんです……。」


 こうして、夜は更けていくのであった。





※例のアレとはも、もちろん、頭ナデナデのことです。きっと、頭ナデナデをしているうちに体が熱くなって、二人とも服を脱いで、そして疲れてそのまま一つのベッドで眠ってしまったんです。そうです。そうだと思います。多分……。


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