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第80話 魔王様、従者と特訓する③

「では今度は、この私が特別に、貴方のカラダを流して差し上げますわ。幸運に思いなさい」


 ルナリエお嬢様はそう言って、素早く俺の後ろに回り込むと、俺の体を洗い流し始める。


「!?」


 彼女が体を密着させているため、俺の背中に、「二つの柔らかい感触」がじかに触れる。


「じっとなさい。動くと洗いにくいですわ」


 彼女はわざとらしく俺にそう告げる。


 俺の腕やわきのあたりを、彼女の指が艶めかしく這い回る。


「もっと下の方も……」


 彼女はそう言って、手を徐々に徐々に下半身の方へ移動させていく。


「る、ルナリエお嬢様……」


 俺は蚊の鳴くような声で彼女の名前を呼ぶ。


 こ、これ以上は……。


「ねぇ、アレク」


「えっ!?」


 一瞬、誰の名前を呼んだのか分からなかった。


 ルナリエお嬢様は、〇〇という俺の本名ではなく、アレクと言う、俺がエルトリア王国に来てから名乗り始めた名前を呼んだのだ。


 ルナではなく、ルナリエお嬢様がこの名前を知っているはずがないというのに……。


「ねぇ、アレク、貴方、ルナのことをどう思っていますの?」


 彼女は俺にそう言って問いかける。


 この場合、ルナと言うのは、俺の従者であり、四天王の、現在の(・・・)ルナリエ=クランクハイドのことを指すのだろう。


「もちろん、私にとって無くてはならない、大切な、特別な存在です」


「アレク、あのね」

 ルナリエお嬢様は、俺の答えには何も反応を示さず、いつになく真面目な口調で話し始める。


「貴方がシルヴィア姫のことを大切に想っているのは知っています」


 ドキリ。


 やはり、ルナリエお嬢様(・・・・・・・)が知るはずのないシルヴィの名前を口にしている。今の彼女は、どこまでがルナリエお嬢様で、どこまでがルナなんだろうか?


「別にそれは構いません。個人的には気に食わないですが、魔王が複数の女性を妻に持つこと自体は何ら問題のないことですから。魔王の従者(・・・・・)たる(わたくし)が、口をはさんでいい問題でもありません」


 そう言って、彼女は俺の肌を少しだけつねる。


「ですが、(わたくし)の可愛いルナを不幸にすることだけは絶対に許しません。これは貴方が魔王になる以前に、私と貴方と、そしてルナとの3人で(・・・)交わした約束のはずです」


「……」


 全裸のルナリエお嬢様に抱き着かれた格好のままだが、俺は完全に冷静さを取り戻していた。


 もちろん、あの約束(・・・・)を忘れたことは片時もない。誓ってだ。


 だが、以前と違って今は俺のそばにシルヴィがいる。


 気付かないうちに、ルナを不安にさせてしまっていたのかもしれない。


「もちろんです。ルナリエお嬢様。誓って、ルナを不幸にすることはいたしません」


「分かればよろしい」

 ルナリエお嬢様はそう言って満足そうに、俺の背中に、自らの頬を摺り寄せる。柔らかくて暖かい感触が心地よい。


「まぁ、あのシルヴィアという娘、ルナも認めてはいるようですし、側室ということでしたら、特別に認めてやらないでもないですが」


「!?」


 一体どこまで知っているのやら、そしてどこまで本気なのやら、ルナリエお嬢様が悪戯っぽく笑う。


「では、頼みましたよ。私の愛しい○○」


 彼女はそう言って、俺の首筋にキスをすると、背中から離れる。


「ルナリエお嬢様!?」


 俺は慌てて振り返る。


 が、


「あ、あれ? アレク様? (わたし)は一体?」


 ルナが(・・・)、眠りから覚めたばかりのようなぼんやりとした声で、俺の名を呼ぶ。


 そうか、ルナリエお嬢様は、気まぐれで現れた訳ではなくて、「ルナのことをもっとちゃんと大切にするように」と俺に伝えるために来てくれたんだな。


「え、アレク様! な、なぜ裸なのですか!?」


 思えば、ルナはいつも言わなくても察してくれるから、それに甘えて、いままであまり感謝の気持ちや俺の想いを言葉にしてちゃんと伝えていなかったのかもしれない。


「て、ていうか私も全裸に!? 服、服はどこですか!?」


「ルナ!!」


 俺はルナに面と向かう。


「ひゃ、ひゃい!?」


 ちゃんと言葉にして伝えなくては。


「俺はルナのことを絶対に幸せにするからなぁああああ!!」


 俺はそう言って、ルナのことを全力で抱きしめる。


「〇△×◎#¥~~!!!!!」

 ルナは何やら声にならない悲鳴を上げている。


 その瞬間に思い出す。


 そう言えば俺たち二人とも全裸なのでした。


 そんな恰好で抱き合っているので、いろんなものが当たったり、当てられたり……。


「ひゃ、ひゃぁあああああああああ!!!」


 次の瞬間、ルナの強烈な平手打ちが俺の左頬を襲う。


 きょ、今日一番の「強烈な」一撃でした……。






「あ、アレク様。申し訳ございませんでした。私気が動転してしまって」


 あの後、泉から上がり、服を着た俺たち。


 ルナは平謝りに謝っているが、悪いのは明らかに俺だ。


「そ、そんな、アレク様は悪くありませんよ。むしろ……」


「むしろ?」


「な、何でもありません!」


 その後、やけに上機嫌なルナと一緒に山を下り、俺たちはエルトリア城に帰還するのであった。


 To be continued




 こんばんは。モカ亭です。久しぶりのルナちゃんのターン、いかがだったでしょうか?彼女はシルヴィちゃんとはまた全然別な形ですが、アレク様とは深い深い絆で結ばれております。ルナリエお嬢様が言っていた、ルナとアレクと3人で交わした「約束」についてはいずれまたどこかで触れさせていただきたいと思います。


 少しだけ補足しますと、ルナちゃんはお酒を飲むと、いつも「お嬢様モード」が発動するかと言うと、そういう訳ではありません。ケルン公国やアルドニア王国に訪問した際は、普通にお酒を飲んでいますが、「お嬢様モード」にはなっていません。作中では第18話と今回、「お嬢様モード」が発動しましたが、「お酒を飲む」以外に何か発動条件があるようです。


 さて、日常パートは一旦ここまでです。次回からついに、魔王国へ向けての空前の大規模侵攻作戦、「神聖十字軍」が発令されます。お楽しみに!


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