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第74話 魔王様、アルドニア王国を訪問する⑦「若き五聖将」

「僕はジュリアン=サラザール。神聖メアリ教国の『五聖将』にして、魔王を討ち滅ぼす使命を負った『光の勇者』だ!」


 金髪の若い男は、自信たっぷりに高らかと宣言する。


 光の勇者。


 この世界で唯一、魔王を討ち滅ぼすことが出来る存在である。


 誤解がないように言っておきたいのだが、「魔王を殺す」ことは、変な話、条件さえ整えば誰でも行うことができる。(暗殺でも毒殺でも、戦争で討ち取ることも可能だ)


 だが、その場合、所有者を失った「魔剣」が、次の所有者を選び出し、その者が「新たな魔王」に就任することになる。


 つまり通常は、「魔王個人」を殺すことは可能であっても、「魔王制度」そのものを破壊することはできないのだ。


 ところが、「光の勇者」という存在は、「光の巫女」と協力し、魔剣そのものを封印もしくは完全破壊する力があるとされる(・・・)。(「される」というのは歴史上、魔剣が「封印」されたことは実際に何度かあるが、「破壊」されたことはないため、あくまで伝承であるということだ)


 しかし実際問題、魔剣が封印されると「魔剣の所有者」=「魔王」である魔族たちにとって、魔族の王たることを証明する手段が無くなることを意味する。


 もともと我の強い超個性の集団である魔族。


「魔王」という明確なる指導者を失ってしまえば、「我こそが支配者である」と征服欲をむき出しにして、魔族同士の内乱が発生することは火を見るよりも明らかだ。


 つまり、「魔剣」を失うこととは、魔王制度の崩壊、ひいては魔王国の壊滅を意味するのである。


 そういった意味で、「それ」を行うことが可能な「光の勇者」と「光の巫女」は魔王にとってまさに天敵なのである。


「君は? 見たところシルヴィの召使いかな」

 ジュリアン=サラザールと名乗った若者は、尊大な態度で俺を見下す。


「お待ちください。サラザール様、この方はアレク様。我がエルトリア王国、国軍の最高司令官で、私の『大切な方』なんです!」


 シルヴィがやや怒気を含んだ声でサラザールに食って掛かる。


「君が? とてもそうには見えないが。だが、そういうことなら、今度の『神聖十字軍』では、『五聖将』である僕の下で戦ってもらうことになるな。精々足を引っ張らないように頑張ってくれたまえ」


 そう、この若造。これでも神聖メアリ教国が誇る最強の大将軍たち、通称「五聖将」の一角なのだ。


 通称、「神童」サラザール。


 わずか15歳の時、初陣にて、先代魔王アドレー=クランクハイドの時代の四天王を一人討ち取るという衝撃的な大金星を挙げて一躍有名になった。


 その後は約10年間にわたり、主にダルタ人勢力圏で戦果を挙げ続け、現在までのところ「無敗」つまりすべての戦いに勝利し続けているのである。


 その輝かしいばかりの戦果を称えられ、2年前、わずか23歳という「史上最年少」の若さでメアリ教国の「五聖将」にまで昇りつめた人物なのである。


「さぁ、もう行こうシルヴィ。君は『光の巫女』として生涯僕のパートナーになるんだ。こんなところで他の男と『何か間違い』があっては大変だ」


 彼はシルヴィの手を引いてこの場を立ち去ろうとする。


 このまま行かせては絶対にいけない。


 考えるより先に体が動いていた。


「お待ちください。サラザール卿」


「まだ何か用があるのか?」


「シルヴィ……。シルヴィア姫が『光の巫女』になるという話は初耳です。いつもの彼女なら、必ず俺に相談してくれたはずです」

 

 それがないということは……。


「このお話は、極めて『急』なことなのではないでしょうか? 今後のことも含めて、シルヴィア姫と相談する時間を下さい」


 俺は相手を怒らせないように、言葉を選びながら、しかし絶対にシルヴィをこのまま行かせないという確固たる決意の元、サラザール卿に食い下がる。


「そんな必要はない。君たちは我々の決定に黙って従っていればいいんだ」

 取り付く島もないサラザール卿。


「私からもお願いします。サラザール卿。ほんの少しだけで構いませんので」

 シルヴィが俺の意思を察してくれたようで、援護射撃をしてくれる。


「シルヴィ、だけど……」

 シルヴィ本人に頼み込まれ、少し歯切れの悪いサラザール卿。


「サラザール卿。まさか、『光の勇者』になろうという方が、『光の巫女』として大切なパートナーになるかもしれない(・・・・・・)女性の頼みを聞くことが出来ないなんて、そんなことありませんよね。それは彼女のことを『信頼していない』というようなものです」


 彼が揺らいだ瞬間を狙って、思いっきり「嫌み」を言う。サラザール卿の顔がこわばる。彼が怒りとプライドのはざまで揺らいでいるのが良く分かる。


「フン、もちろん僕はシルヴィのことを信頼している。ただし、一時間だけだぞ」

 彼はそう言ってから、悔しそうにその場を離れていく。




「さっ、中に入って。シルヴィ」

 俺は急かすように彼女を自室に招き入れる。


「はい! アレク様!」

 シルヴィは今まで見たことがないような満面の笑みで飛び跳ねるように嬉しそうに、俺の部屋に入ってきた。


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