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第67話 王女様、特産品を作る②

 こんにちは。皆さま。


 シルヴィア=フォン=エルトリアです。


 今日は、先日の「ナットウ事件」から二日後。


 先日の騒動で中止となってしまった、大豆製品の試食会の続きをすべく、貴族の皆さんに集まっていただきました。


「あの、姫……。こういっては何ですが、やはりエルトリア王国で『大豆製品』を普及させるのは難しいのではないかと……」


 ブレンハイム子爵が意見を述べられます。


 他の貴族の方々も、試食会の再開にやや消極的な様子です。


「そんなことはありませんよ。今日は私が調べた、おいしい『大豆製品』の皆さんにお教えしますね」


 私はそう言ってから、部屋の隅に控えていたセバスチャンに合図を送ります。


「セバスチャン! 準備をお願いします!」


「ハッ! 姫様!」

 セバスチャンはお辞儀をすると、さっそく配膳ワゴンに載せた様々な料理を貴族の皆さんの前に運んできます。


「特製グラタン、特製パンケーキ、特製ポタージュスープ、そしてメインの特製ハンバーグです。ささっ、皆さま、温かいうちにどうぞお召し上がりください」


 最早軽く一食分はあろうかというほど様々な料理がテーブルに並びます。


「おぉ! うまそうだ」


「しかし、姫、これが一体『大豆製品』とどう関係が?」


 貴族の皆さんが、口々に思ったことを述べられます。


「ふふっ、説明は後です。まずはぜひ、温かいうちに料理を食べてみてください」


 私はそう言って、貴族の皆さんに料理を試食していただきます。


「で、では……」


 皆さんは思い思いに料理を口に運びます。


「うん、美味い! ふわふわのパンケーキだ」


「こちらのハンバーグもジューシーで絶品ですな!」


 皆さんどの料理も絶賛されています。よかった。


「皆さん、いかがでしたでしょうか。実は今回ご用意したグラタン、パンケーキ、ポタージュスープ、そしてハンバーグは、どれも『トウフ』で作ったものなんですよ」


 皆さんの食事が終わったところで、私がタネ明かしをします。


「えっ!?」


 目を丸くする皆さん。


「ほ、本当ですか!? 全然気付かなかった」


「し、信じられません……。先日トウフを食べた時は全然味がしなかったのに……」


 今回私が用意したお料理は、どれもエルトリア王国で一般的に浸透しているものばかりです。


「いかがでしたか、皆さん。大豆はとっても多くのタンパク質を含んでいて、ある地域では『畑の肉』なんて呼ばれているそうです。しかもお肉よりも低カロリーで、タンパク質の吸収効率も非常にいいんです。トウフで作ったこれらの食べ物も、とってもヘルシーで健康にいいんですよ」


「な、なるほど……」


 貴族や富裕層の方々は、社交や晩さん会も多く、その為に「健康面」を気にされる方も多いです。


 そう言った方々にとって、「味を崩さずに」ヘルシーな食事をとることが出来る「トウフ」は必ず需要があるはずです。


(ちなみにシルヴィちゃんはまだ「そこまで」は気づいていませんが、所得が増え、徐々に生活が楽になったとはいえ、まだまだ家計的に余裕がない一般庶民にとっても、貴重なたんぱく源となる大豆製品は、大変ありがたい食品なのである)


「これが『トウフ』の使い方です」


「な、なるほど」


 私の説明に、皆さん頷かれます。良かった。上手くいったみたいです。


「続いて、『ショウユ』ですが……」


 私の説明に、一瞬カスティーリョ伯の顔が引きつります。先日、ショウユを一気に飲んでしまった時のトラウマを思い出されているようです。


「実はショウユは『飲み物』ではなく『調味料』なのです。セバスチャン、準備をお願いします」


「ハッ」


 そう言って、次に彼が用意したのは、ガラス容器に入ったショウユと……。


「これは、『アジ』の焼き魚、ですか?」

 ウォーレン侯が運ばれてきた料理をしげしげと観察されます。


「はい、パノラマ港で水揚げされ、今朝エルトリア城下町で手に入れてきたものです」


 以前、中央六国で唯一、海に面している国である「ケルン公国」と貿易に関する条約を締結しました。(※ 第39話参照)


 おかげで、エルトリア王国にも、新鮮な海産物が届くようになったのです。


 ところが、もともと「内陸国」であり、魚介を食べる文化がなかったエルトリア王国。


 せっかくの新鮮な魚介をどう調理したらいいのか一般家庭では全く知識がなかったようで、魚を「ぶつ切りにしてコンソメスープに放り込んでみたり」、「すりつぶしてパンに塗って食べてみたり」恐ろしい食文化が形成されつつあるようです。


 そこで、今回の調理法です。


「この『焼き魚』にですね、ほんの少し、醤油をかけて……。さぁ、召し上がってみてください」


 私は醤油をかけた焼き魚を貴族の皆さんに差し出します。


「で、では……」


 恐る恐る焼き魚を口に運ぶ貴族の皆さん。


「!? こ、これは!」


「脂ののったアジの焼き魚に、ショウユの塩辛さが絶妙にマッチして、う、美味い!」


 良し! いい反応です。


「次はコチラです。ホタテのバターショウユ焼きです!」


 次にセバスチャンに用意してもらったのは、ケルン公国産のホタテを炭火で焼き、メルベル牧場産の濃厚バターを乗せ、そこに少量のショウユを垂らした一品です。


「凄く良い香りがしますな」


 先ほどの焼き魚が美味しかったこともあるのでしょう。


 今度は貴族の皆さんは、自ら率先してホタテに手を伸ばします。


「おぉ! 濃厚なバターと、ショウユの塩辛さ、それにホタテの弾力のある歯ごたえが非常にいい!」


「あぁ、いい! これビール、いや、『エルトリア酒』に絶対合いますよ!」


 あっという間に、ホタテは「完食」となりました。


 大成功です!


「いかがでしょうか。皆さん」

 私は再度、貴族の皆さんに提案します。


「このような形であれば、大豆をエルトリア王国に広めることが出来ると思います」


「トウフは健康食品として、ショウユは魚介に合う調味料として宣伝すれば、きっと市民の方々にも、その『良さ』が伝わると思います」


「……」


 私の提案に静まり返る貴族の皆さん。


 アレ? わ、私何か変なことを言いましたでしょうか……。


「姫様……」


 やがて、ウォーレン侯が静かに、呟くように私のことを呼びます。


「は、ハイ!」


 ひっ! こ、これは「お説教モード」の時のウォーレン侯そのものです。


(ウォーレン侯は、シルヴィの父、エルドールⅢ世の『宰相』であり、当然シルヴィのことも生まれた時から良く知っている。小さい時から『おてんば姫』であったシルヴィは、よく城内でいたずらをしては、ウォーレン侯に叱られていたのだ!)


「姫、よくぞ……」


 ひぃ。


 私は目をつぶって衝撃に備えます。


 いいですか皆さん。この後、この後です。この後に、(かみなり)が落ちますよ。


「……」


 あれ、来ない?


 恐る恐る目を開けると、何とそこには、いままで見たことがないような、満面の笑みのウォーレン侯の姿があったのです。


「よくぞ、よくぞここまでご立派になられましたな。お父上も、天国でさぞお喜びでしょう」


「素晴らしいご提案です! 姫!」


「アレク殿にも劣らぬご明察! 感銘いたしました!」


「すぐに、姫様のご提案通りの方向で進めましょう!」


 皆さん口々にご賛同いただけます。


 よ、良い意見だったということでしょうか?


「うぉおおん、あのおてんば姫がここまでご立派になられて、じぃは感無量でございます」


 セバスチャンに至っては泣き出す始末。もう、大げさなんだから!


 こうして、私の提案は「大成功」となり、試食会は無事に終了しました。






 あれから一時間後。


「……」


 私は、自室でカフェオレを飲みながら、今日のことを思い出している所です。


 嬉しい!


 さっきはあっけに取られてあまり考える暇がありませんでしたが、時間が経つにつれて、じわじわと喜びが沸き上がってきました。


 初めて! 初めてちゃんと最後まで、宰相のお仕事をやり遂げることが出来ました!(以前、街道の整備に関する提案をさせていただいたこともありますが、あの時は上手くいかず、途中でアレク様に助けていただいたのです ※第29・30話参照)


 これで少しだけですが、「憧れのあの人」に近づけた気がします。


 私は一人でガッツポーズをすると、勝利の美酒、(カフェオレです)に酔いしれるのでした。


 To be continued






 こんばんは。モカ亭です。


 さて、初のシルヴィちゃん主人公回はいかがだったでしょうか?(作者的にはシルヴィちゃんはぴこぴこ・ぴょこぴょこと勝手に動き回ってくれるので、話が作りやすくて非常に助かるキャラクターです)


 ここで少し、今回のエピソードを補足させていただきたいと思います。


 なぜ、普通の豆腐料理を作らないの?


 豆腐料理と言えば、普通は「湯豆腐」「冷やっこ」「田楽」あるいは「味噌汁」や「鍋物」の具材として使用するのが「普通」です。これらの料理、魔王国では一般的なものですが、中央六国にはほとんど浸透しておらず、ましてシルヴィちゃんはこれらの料理を見たことも聞いたこともありません。これらの料理をシルヴィちゃんが(・・・・・・・・)、思いつくことはできません。彼女にできるのは、「自分が知っている料理」で「トウフ」を活用することなのです。

 同じような理由で、「焼き魚」に醤油をかけることは思いつきますが、「刺身」に醤油をかけることは思いつきません。エルトリア王国では「生魚」を食べる文化がないからです。いずれアレクが宰相に復帰し、魔王国の食文化がエルトリア王国にも浸透してくれば、これらの料理がエルトリア王国でも普通に見られるようになるかもしれませんね。



 納豆はどうなったの?


 残念ながら、「今回は」納豆のおいしい食べ方を見つけることが出来なかったようです。でも彼女は勉強熱心なので、いずれ納豆のおいしい食べ方を見つけて、克服するかもしれません。



 貴族たちは何をしているの?


 ちなみに貴族の皆さん。作中ではかなり「無能」っぽいですが、彼らは彼らなりに「大豆製品」が味的にエルトリア王国に合わない、ということで、家畜や軍馬の飼料・もしくは災害時や戦時の保存食として大豆を活用できないか検討していたようです。




 さぁ、次回からまた、「序盤の山場」神聖十字軍に向けて各国ともに着々と準備を進めていく予定です。お楽しみに!


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