表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/119

第65話 魔王様、武将を集う②

 外部登用組の武将候補はこんなところか。


 タイネーブ騎士団領出身の双子の騎士、ガロン兄弟。


 ケルン公国出身の大男、モーム。


 神聖メアリ教国の元勇者、酔っ払いのワルター=ダビッツ。


 後は、ここに「内部昇格組」を加えて、とりあえずは、神聖十字軍に向けての軍容を整えていくことになる。


「外部登用」や「即戦力」だけでは組織は強くならない。「内部」から実力をもって昇進してくれる者が現れるのが、「良い組織」というものだ。


 と、いう訳で、内部昇格組の将官候補が以下の3名。


「身に余る光栄です。ご期待に沿えるよう、全力で精進します」

彼はニール。エルトリア軍がまだ「シルヴィア私兵隊」だった頃の最初期に加入したメンバーの一人だ。(ダイルンと同時期に加入している)


 もともと戦場経験は全くなかったが、「バーク街道」「クレイド平原」「メルリッツ峠」と激戦を潜り抜け、今では馬術と矛の達人となった。


「わ、私に務まるでしょうか?」

やや自信なさげなこの人物はウィルソン。彼もダイルンやニールと同じく最初期加入組だ。


 中々芽が出なかったが、実は弓の才能があったようで、メキメキと実力を伸ばし、今回の抜擢と相成ったのだ。


「へっへっへ、遂に俺の時代が来たか!」

 そして内部昇格組最後の一人はナユタ。


 いずれ必ずエルトリア軍の「中核」となるであろう若き天才だ。「ダイルンの補佐」という条件付きだが、武将として経験を積ませたいと考えている。


 以上外部登用組4名、内部昇格組3名をもって、エルトリア軍の陣容を刷新する。新体制は以下の通りだ


 総司令部 最高司令官 アレク  副司令官 ルナリエ


 第一軍 隊長 グレゴリー卿  副長 オルデンハルト卿

 第二軍 隊長 ダイルン  副長 ナユタ

 第三軍 隊長 ガロン兄  副長 ニール

 第四軍 隊長 ワルター  副長 ウィルソン

 第五軍 隊長 ガロン弟  副長 モーム



「良さそうですね」

 ルナが軍の仕上がり具合を見ながら俺に報告する。


「そうだね、とりあえず『基礎』はこんな感じかな」


 欲をいえば、ここに総司令部直下の「親衛隊」を配置したり、軍師として適性のあるものを集めて「幕僚本部」を開設したり、各軍も隊長1名、参謀1名、副長2~3名として軍を運用したいところだが、まぁ、まだそこまでの「規模」の軍隊でもないし、当面はこれで十分だ。


「さて、体制は整った。あとはこの軍が、なんとか『生きて』神聖十字軍の遠征から帰還できる方法を考えないと……」


 今回の遠征が「どれぐらいの規模」で「どれぐらいの期間」行うつもりなのかは、まだ全くわからない。


 それ(・・)は来月、アルドニア王国で開かれる、神聖十字軍派遣のための会合で決定される予定だ。(これは毎回のことであり、まず神聖十字軍の派遣がメアリ教国で決定された後、どれぐらいの遠征をどれぐらいの期間行うのか、具体的な戦闘陣容について各国の首脳や最高司令官を交えて意見交換会がなされ、それの基づいて実際の遠征が開始されるのだ)


 その意見交換会というのが、来月アルドニア王国で行われる予定だ。


 中央六国すべての国から、国家元首と、今回の遠征に参加する各国の最高司令官クラスが一堂に会する。


 更にメアリ教国からも、今回の遠征の「全軍総司令官」を務める同国の大将軍が会合に出席する。


 恐らく、いや、間違いなく、メアリ教国が誇る最強の大将軍たち、通称「五聖将」の誰かが全軍総司令官となるはずだ。


 この「五聖将」というのは、魔王国で言うところの「四天王」やダルタ人勢力圏最強の将「デアルマジード」などと同列の、四大勢力「最高戦力」の一角だ。


 そう言う訳で、神聖メアリ教国・そして中央六国の「オールスター」ともいえる面々で、神聖十字軍が組織されることになる。


 だが……。


「そう言えば、クロエから報告が入っています。四天王をはじめとする魔王軍の主要な将官たちが、帝都エルダーガルムに召集されていると」


 ルナがクロエを通じてもたらされた、魔王国の現状を報告する。


「恐らく、ロドムスは既に、此度の『神聖十字軍』の情報をつかんでいるものと考えられます」


「だろうね……」


 魔王軍も当の昔に、神聖十字軍の情報をつかんでいるはずだ。


 彼らも、神聖メアリ教国の「五聖将」に対抗すべく「四天王」の誰かが(ジオルガか、イザベラか、ダンタリオンか、もしくはルナの後任の新しい四天王か)最高司令官となり、何十万という魔王軍を組織して、徹底抗戦するに違いない。


 つまり両軍ともに戦力は拮抗する可能性が高いのである。既に110回も神聖十字軍を繰り返していることからも分かる通り、次の遠征で、「魔王ロドムス」を打ち倒し、メアリ教国が「完全勝利」する可能性は限りなくゼロに近い。


 多少なり魔王国の領土を削り取ることが出来るかもしれないが、「イカルガ城塞の向こう側」の土地を奪ったところで、神聖十字軍が終わり、兵たちがメアリ教国や中央六国に帰国すれば、すぐにまた魔王国に土地を奪い返されるのが関の山であり、これ程莫大な規模の軍を興す割には、イマイチ「戦果」が上がらないのが「神聖十字軍」の本質なのだ。


 だから俺は魔王として、「これ程無意味なことはない」と悟り、人間界と平和の道を模索していたというのに……。


「アレク様、大丈夫です」


 ふと、ルナが俺の手をやさしく握ってくれていることに気付く。


「アレク様が魔王として、人間たちとの『平和の道』を模索されていたことは、決して間違いではありません」


「私は、アレク様こそ、真の魔王であると確信しております。例え誰が敵に回ろうとも、何が起ころうとも、私は最後の最後まで、アレク様のおそばで、あなたの支えになると誓っておりますから。アレク様は『思うままに』行動してくだされば大丈夫ですよ」


 そこまで言ってからルナは、我に返ったように真っ赤になり、「す、すすす、すみません。臣下の分際で、出すぎた口を……」などと謝罪している。


 ガバッ


「ひゃ、ひゃい!?」


 俺はルナを抱きしめる。


「ありがとうルナ。君の言う通りだ。俺は俺の理想を貫き通してみせるよ。見ていてくれ」


「は、ハイ、必ず、アレク様に添い遂げます……」


 ルナはゆでだこのように真っ赤になりながら、モゴモゴと答える。


 そうだな。


 ハッキリ言って、今回の神聖十字軍は、エルトリア王国や他の中央六国にとっては「無意味」以外の何物でもない「不毛な戦い」だ。


 ならば、この戦争における俺の目標は「生きて帰る」ことだけだ。


 戦争で活躍して戦果を挙げることや、ましてロドムスや四天王たちと戦うつもりは毛頭ない。


 とにかく、なるべく多くの兵が、生きて帰還できるよう、最善を尽くすことが、俺の使命だ。






 こうして、「魔王を討ち滅ぼす」ことを目標にするメアリ教国と、これを返り討ちし、「遠征軍をせん滅する」ことを目標とする魔王国、両軍の巨大な意思が激突する「神聖十字軍」の中で、ひっそりと「生きて帰ること」を目標にする魔王様の姿があった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ