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第61話 魔王様、戦後処理を行う

 今日は6月10日。


「メルリッツ峠」での歴史的な勝利から一週間と少し経過した。


 国民たちの間では、あの(・・)大国ユードラント共和国に勝ったということで、連日お祭り騒ぎのお祝いが続いているようだが、正直軍部や政府にとっては、それどころ(・・・・・)ではない。


「アレクさん、大丈夫ですかぁ?」

 エルトリア王国の執務室。


 満身創痍状態の俺に、パメラさんがミルクティーを差し出してくれる。


「あ、ありがとう……。いただくよ……」


 そう、今、エルトリア王国は「戦後処理」で大忙しなのだ。


 避難していた王国北部の住民たちの帰還手続き。


「カルデア城塞」や「メルリッツ峠」などの戦場や作戦の部隊となった地域の復旧(特にカルデア城塞は、一晩とはいえユードラント軍の占領を許してしまったため、多少なりとも荒らされており、民家の復旧や補修が急務となる)


 更には、捕虜となったユードラント軍先遣隊1万の収容も、大変な作業だ。


 何せ、「捕虜」だけで現在のエルトリア軍全軍の倍の規模なのだ。


「……」


 正直、「物量」の差を思い知らされてしまう。


 今回、「メルリッツ峠の戦い」において、エルトリア軍は5千の「全軍」を投入し、総力を挙げて敵の侵攻を防ぎ切った。


 一方のユードラント軍は、2万の軍勢を動員したが、あれでもユードラント共和国全体の「5分の1」以下の兵力に過ぎない。


 今回の侵攻作戦の指揮官だったポロゾフ将軍やラロッカ将軍といった将官たちも、ユードラント軍の中では、かなり「格下」の将軍であったようだ。


 つまり、ユードラント軍は「敗北」したとはいえ、現時点でもまだ十分すぎるほどの「戦争継続能力」を有しているということだ。


 だから、「戦争に勝った」などと浮かれていられる余裕はない。


 これから行われる、かの国との「講和条約の締結」こそが何より重要となるのだ。


 その際に重要なカギとなるのが、エルトリア軍が収容している「1万の捕虜」だ。


 言い方が適切ではないが、要は、エルトリア王国は「1万の人質」というカードを持っているということだ。


 軍事力が圧倒的に上のユードラント共和国と、これから交渉を進めるうえで、このカードは非常に有効なものになってくる。




 コンコンコン


 執務室のドアがノックされる。


「はいは~い」


 パメラさんが応答する。


「アレクさ~ん。軍の方からですぅ。『白髪の小隊長』の情報が入ったそうですよ~」


 白髪の小隊長ってなんですか? と小首をかしげるパメラさんに、俺は「何でもないよ」と答え、訪ねてきたという「軍の方」に面会する。


「アレク殿、敵の捕虜から情報を得ることが出来ました。へクソン侯討伐を阻止した『白髪の小隊長』と、ナユタのクソガキを止めたっていう『隻腕の騎士』についてです」


 部屋に入ってきたのはダイルンだ。


「聞こう、説明してくれ」

 俺は執務を中断して、ダイルンの報告を受けることにする。


「分かりました。と、言っても、ほとんど大した情報はありませんが……」

 ダイルンはそう前置きをする。


 メルリッツ峠の戦いの最終局面において、突如現れた「白髪の青年」率いる小隊約500騎。


 あれに戦局を乱され、へクソン侯討伐という「悲願」を阻止されてしまった。


 本当に「凄まじい強さ」の部隊であった。


 今回の戦争で、エルトリア軍は1千人近い死傷者を出したが、かなりの部分が、最終局面における「あの部隊」の出現による被害が原因だ。


 隊として極めて良く統率が取れ、個々の武人としての練度も高い。


 おまけに、副官と思われる隻腕の騎士は、ナユタと引き分けるほどの桁外れの実力の持ち主だ。


 そしてあの司令官と思われる白髪の青年。


 夜襲による混乱の中で、ほかのユードラント兵がほとんど「棒立ち」状態だったというのに、彼は一瞬で戦況を冷静に分析し、見事にへクソン侯を救い出した。


 そして魔導士としても「とんでもない」レベルだ。


 一瞬とはいえ、「魔王」を止めるほどの魔法を放って見せたのだから。


「人間」で魔法が使えるのは、生まれながらに才能を持つ、ごく限られた者だけだ。(おまけにほとんどが「女性」であり、男性の魔導士というのは極めて少ない)


 戦況分析能力・魔道の才能・配下の騎士達の練度・副官の圧倒的武力


 とても「小隊長」に収まるようなレベルではない。


 少なく見積もっても各国を代表する将軍である「第一将」レベル、下手をすれば魔王軍の「四天王」やメアリ教国軍の「五聖将」とも渡り合えるのではないか?


 戦争が終わるとすぐに、俺は「あの部隊」について調べたが、どうやらユードラント軍の中でも本当に全く無名の部隊のようだ。


 あれほどの人物や部隊が、なぜ埋もれてしまっているのだろうか。


「まず、小隊長の名は『シドニア=ホワイトナイト』、隻腕の副官が『ヒューゴ=マインツ』というそうです」


 ダイルンが報告を始める。


流れ者(・・・)らしく、ユードラント軍に所属してまだ1年しか経っていない新参者だったようです」


「ユードラント軍に所属する前は何をしていたんだい?」


「それが、以前どこで何をしていたのかが、さっぱり情報が無いようで、『どこかの国の王族か貴族だった』という噂はあるようですが、信ぴょう性はありませんね」


 なるほど。


「素性」に関してはユードラント軍もほとんど把握していないということか。


「実力は軍内でも『折り紙付き』だったようですが、上官に妬まれたようで、本人の実力よりもかなり下の『小隊レベル』の指揮しか任されなかったそうです」


「……」


 その後も、色々と報告を受けたが、ダイルンが前置きした通り、「大した情報」は得られなかった。


 ユードラント軍自身も、彼の素性や実力を把握しきれていなかったようだ。(そのおかげ(・・・)で今回我々は勝利することが出来たという訳だが……)


 まぁ、「情報が無い」のだ。これ以上考えても仕方がない。


 彼らとは、また戦場で相まみえることもあるだろうが、「今」検討することでもない。


 俺は一旦「白髪の小隊長」達のことを忘れ、ユードラント共和国との講和条約について、再び検討することにした……。




 この世界における魔法について。

 ちょっと補足しますと、「魔王」をはじめとする「魔族」はほとんどの者が(男性も女性も)「魔法」を使うことが出来ます。


 一方、「人間」で魔法を使うことが出来るものは滅多にいません。しかし中には、「祖先に魔族であった者がいた」等の理由により、人間でありながら魔法が使えるものがごく少数います。そして体質の関係なのか、人間で魔道の力を発現できるものは、ほとんどが女性です。(比率で言うと、女性7割、男性3割ぐらい)


 なので、「人間で男性の魔導士」というのはかなり珍しい存在なのです。(魔法については、中央六国の「魔道国家シーレーン皇国」が登場する際に、また詳しく説明させていただきたいと思います)



9/14 第52話 メルリッツ峠の戦い② にて、兵科(ユニット)紹介⑥ 攻城櫓(こうじょうやぐら)更新させていただきました。もし良ければご覧いただければ幸いです。

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