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第4話 魔王様、兵を募集する②

 約一時間後、エルトリア城会議室に数名の人物が集まった。

 シルヴィ、俺、ウォーレン伯、あと二人だ。


 一人はモントロス子爵、現在のエルトリア王国では数少ない良識派の貴族だ。様々なことに関する見識も非常に深い。

 もう一人はアルマンド男爵、猪突猛進、若く経験不足だが、正義感の強い好青年だ。


 ルナは朝からテンペストの様子を見に森へ行っているので不在だ。

 あとは執事のセバスチャン殿も含め、全部で7人。


 これがエルトリア王国シルヴィア派閥の全勢力という訳だ。

 正直、ベルマンテ公やへクソン侯を中心とする大貴族派とは天と地ほどの力の差がある。


 俺は早速、兵の募集の件を議題にかける。


「アレク殿の言う通りだ! 早速兵を募集しよう!」

 アルマンド男爵が立ち上がる。


「待ちたまえ。そう簡単にいくなら初めからそうしている」

 モントロス子爵がたしなめる。


 もともと前王の時代、この国は少数ながら精強を誇るエルトリア王国騎士団が国防を担っていた。


 だが前王の死後、大貴族たちが権力を掌握するにあたり、前王に忠誠を尽くしていた騎士団を目障りに思い、騎士団を解体、そのほとんどを国外追放してしまったのだ。


「追放された騎士団を呼び戻すのは難しいでしょうか?」

 俺はウォーレン伯に問いかける。


「難しい。ベルマンテ公は追放した騎士団が国内に戻った場合、『死刑』にすると宣言している。事実、何名か密入国して捕まり、処刑されておる」


 ウォーレン伯が渋い顔で唸る。


「追放された騎士団は数を大幅に減らしながらも、現在は傭兵団として中央六国各地を放浪しているようです」

 モントロス子爵が報告する。


 前王時代の騎士団を国内に戻すのは現時点では難しそうだが、使者を通じて傭兵団とは接触しておいた方がよさそうだ。


「ではどうするのです?」

 アルマンド男爵がせかすように問いかける。


「やはり民兵を募集し、練兵するしかないでしょう」

 俺が答える。


 正規軍が崩壊している以上、時間はかかるが一から軍隊を作り直すしかない。


「だが、我々は軍事訓練の指揮などできないぞ」

 モントロス子爵が困った様子で頭をかく。


「その点はご心配なく。俺と従者のルナリエに任せてください」

 俺は答える。


 魔王軍全軍最高司令官の俺と、四天王にして飛竜騎士団の団長たるルナがいるので、その点は問題ない。


「大貴族たちの反感を買わずに民兵の募集は可能ですか?」

 俺はウォーレン伯に問いかける。練兵よりも、そちらの方が気がかりだ。


「エルトリア王国として兵を募集するのは難しい。国家予算を管理しておるへクソン侯が許可するとは思えんからだ」


「だが、我々の誰かが『貴族の私兵』として募集することは可能じゃ。ベルマンテ公やへクソン侯も千人規模の私兵を擁しておる。奴らが良くて、我々がダメということはなかろう」


 そうは言いつつも、ウォーレン伯は難しい顔をしている。

 この中の誰かに兵の募集を頼むとして、問題が二点ある。


 一つは財源。

 国家予算に頼らず私兵を雇うとなれば、当然莫大な資金が必要となる。

 貴族とはいえ、政治的少数派の彼らの財源は、正直なところ厳しいだろう。


 二つは貴族間の軋轢(あつれき)

 規模にもよるが、突然ある特定の貴族が大量の私兵を集め始めれば、当然他の貴族たちは警戒するだろう。


 今この国は前王の死後、内政が荒れに荒れている。


 他の貴族の不安をあおれば、権力闘争に巻き込まれ、最悪暗殺されるかもしれない。命を懸けてまで私兵の募集などという目立つ行為はしたくないというのが本音だろう。


 さて、どうしたものか……。


「あの……」

 それまで静かに話を聞いていたシルヴィがおずおずと手を挙げる。


「財源でしたら、私の私財をお使いください。父の遺産がありますので」


「し、しかし姫様! 前王の残してくださった大切な遺産ですぞ」


「構いません。民を守るために使うのであれば、父も喜んでくれるでしょう」

 シルヴィは毅然と言い放つ。


 こういった場面で一切の躊躇なく決断できるのは、彼女の強さだろう。


「ありがとうシルヴィ。では、私兵の募集は『宰相アレク』の指示ということで大貴族たちに情報を流してください」


「ほぅ。宜しいのですか?」

 ウォーレン伯が察したようだ。


 もう一つの懸案事項。貴族たちから警戒され、最悪暗殺されるのではないかとの懸念だが、このままでは兵を募集したシルヴィが警戒対象になってしまう。


 そこで、「新任の宰相の入れ知恵」で今回の募集が行われたことを大貴族たちに認識させておく必要がある。


 つまり、大貴族たちのヘイトの対象をシルヴィから俺に向けておくのだ。


 まぁ、どんなに強力な暗殺者を送ってみたところで魔王暗殺は無理だしね。


「どういうことだい?」

 アルマンド男爵が不思議そうな顔をする。


「いえ、大したことではありませんよ」

 俺は質問をはぐらかす。シルヴィには知られない方が良い。


「では、そういうことで行きましょう。姫様の私財を使わせていただき、兵を募集。練兵に関してはアレク殿とルナリエ殿に任せる。大貴族派への説明は……ワシが行おう。宜しいですかな?」

 ウォーレン伯が意見をまとめる。


「異存はないようですな。では、解散!」






――約1週間後。

 バルマ砦に、1000人ほどの志願兵が集まった。


「ほとんど民間人ですね」

 ルナが志願兵のリストを見ながら俺に報告する。


「鍛冶屋のダイルン。蹄鉄工のニール。料理屋の息子ウィルソン……」

 彼らのほとんどは大貴族の悪政で失業した民間人たちだ。


 つまり、「愛国心」から志願したわけではなく、「食うに困って」志願しただけだ。

 当然、戦闘経験もなし。士気もゼロに等しい。


「どうしましょう。アレク様」


「仕方ない。『アレ』をやるよ」


「……お手伝いします」


 俺とルナは集まった志願兵の前に立つ。


 俺は「魔力」を込めてから、大きな声で演説を始めた。


「みんなよく集まってくれた。俺は隊長のアレクだ」

「副隊長のルナリエです」


「うぉぉおおおおお! アレク隊長ばんざーい!!」

「ハァハァ、る、ルナリエ様、踏んでください!!」


 うん。もうすでに様子がおかしい。


「君たちはエルトリア王国を守り抜くために集まった戦士だ!」

「一人前の戦士として戦えるよう、私たちが鍛えてあげるわ!」


「うぉぉおおおおお! 祖国のためなら命も惜しくないぜぇ!!」

「ルナリエ様にいじめていただけるなら、死んでも構いませぇん!!」


 いいぞ、絶好調だ。


「友よ、一緒に戦い抜こう!」

「うふふっ。下僕として可愛がってあげるわ!」


「アレク隊長に絶対の忠義を!!」

「ルナリエ様に絶対の服従を!!」


 よし、完璧だ。


「凄い威力ですね」

「そうだね。しかしルナ。君の信者は少し方向性がアレではないかい?」

「すみませんアレク様、楽しくてつい。あとで少しだけ軌道修正しておきます」


 もちろんちょっとだけ反則技を使っている。


 俺は服従の魔法を、ルナは誘惑の魔法を、それぞれ100分の1ぐらいに薄めて言霊にのせて演説を行ったのだ。


 あくまで気分を高揚させる程度のもので強制力はないレベルに抑えているし、効果の持続期間も1か月程度で完全に消えるものだが、おかげで士気ゼロの民間人とはいえ訓練から逃げ出す確率はかなり減ったはずだ。


 いずれ魔法の効果は消えるだろうが、そのころまでにはある程度訓練も進み、彼らも「兵士」として生きていくことが可能な位の力は手に入るだろう。


 そのあとで彼らの愛国心を勝ち取ることができるかどうかは、今後の政策次第だ。


 という訳で、ちょっと反則技を使ったが、おかげでどんな訓練にも耐えられる、鋼の精神力を持った屈強な軍隊が誕生した。





To be continued


 実はアレクも現時点ではエルトリア王国公認の宰相という訳ではなく、シルヴィアが勝手にそう呼んでいるだけ。あくまでシルヴィア個人の「相談役」という立ち位置で、シルヴィアに個人的に雇われているに過ぎない。中国の春秋戦国時代の「食客」のようなポジションです。


皆さまこんばんは。

モカ亭です。


いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。

当初想定していたより遥かに多くの方々にお読みいただき、

感謝感激です。


つたない文章で毎回恐縮ですが、なにとぞ今後とも

よろしくお願い申し上げます。


さて、本日「小説家になろう」にて当作品の短編読み切り版を

投降させていただきました。


これは追放魔王連載前に構想していたプロトタイプの読み切り版

になります。


連載版の構想が固まったため、ボツ作品として公開せずにお蔵入り

していたものになりますが、せっかくなので短編の読み切り作品と

して今回放出いたしました。


連載版とは設定・キャラクター・ストーリー等大きく異なります。

あくまで連載版の「パラレルワールド」としてお楽しみいただければ

幸いです。


(我らが変態従者のルナちゃんも読み切り版には登場しません)


読み切り版は下記リンクからどうぞ

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