第55話 メルリッツ峠の戦い⑤
5月27日。夕暮れ時。
ユードラント軍は未だに「デメトール山岳地帯の北側の入口」に留まったていた。これで3日目である。
当初の予定ではとっくにメルリッツ峠を抜け、レンテン砦・カルデア城塞を包囲し、攻城戦を開始していたはずだが、作戦が大幅に遅れている。
理由はもちろん24日の深夜にユードラント軍幕僚本部にもたらされた「一通の手紙」である。
エルトリア軍が山岳地帯に軍を隠し、ユードラント軍を待ち伏せしているという情報を入手したことにより、「情報の真偽」を確認するまで本隊を動かせなくなってしまったのだ。
「斥候隊が帰還しました!」
ユードラント軍幕僚本部の元へ、偵察へ出ていた斥候隊がようやく帰還した。
「遅いぞ!」
ポロゾフ将軍が明らかに「イラついた」声で怒鳴りつける。
「も、申し訳ございません。奴ら非常に上手く軍を隠しておりまして、探索に時間がかかりました」
「では、やはり『待ち伏せ部隊』はいるのだな?」
副将のラロッカ将軍が確認するかのように問いかける。
「ハッ、待ち伏せ部隊の数は約3千。『オルデンハルト卿』の情報とほぼ一致します」
斥候隊の隊長が答える。
「ではやはり、『情報』は本当だということか……」
盟主、へクソン侯が小さな声で呟く。
オルデンハルト卿には「クレイド平原の戦い」にて、その浅はかな用兵のせいでへクソン侯自身も国外逃亡という痛い目に合わされた。
が、今回は彼のおかげで、憎きアレクの「策略」に事前に気付くことが出来た様だ。
「では、『先遣隊』を出して敵の伏軍を討ち取って参りましょう!」
ラロッカ将軍が意気込む。今回の戦いは「攻城戦」の予定だったのだ。彼自慢の「騎馬隊」は出番がないと思っていたが、突如として活躍のチャンスが巡ってきたため、張り切っているのだ。
「よろしく頼むぞ。ラロッカ将軍」
「お任せを! おい、行くぞ! この『ウスノロ』が!」
ラロッカ将軍がシドニアに罵声を浴びせる。
例によって、彼も生意気な小隊長のことを嫌っているようだ。
「……」
シドニア=ホワイトナイトは何かを我慢するように唇を噛みしめている。
「シドニア様……」
シドニアの従者、片腕の騎士ヒューゴ=マインツが彼に声をかける。
「俺は大丈夫だ。行こう、ヒューゴ」
シドニアはそう呟くと、彼の愛馬である「白い馬」に跨った。
一方そのころ……。
「アレク様! ユードラント軍が『分断』しました! 騎馬隊を中心とした兵1万が、我々『待ち伏せ部隊』の元へ急行中です!」
メルリッツ峠にて待ち伏せを行っていた、アレク率いる3千の部隊の元へ敵軍の情報が伝わる。
それを聞いたアレクは……。
「よし、作戦通りだ」
そう一言、呟くのであった。
翌日、第4歴1299年5月28日。
この日、ついにエルトリア王国の運命を大きく変える「メルリッツ峠の戦い」が幕を開けることとなる。
開戦前の布陣と各将の動き
エルトリア軍 合計5000
待ち伏せ部隊 (アレク・ルナ・ナユタ)3000
メルリッツ峠にてユードラント軍を待ち伏せすべく待機中。作戦はバレたはずだが、
取り乱した様子もなく待ち伏せを続けている。
レンテン砦守備隊(グレゴリー卿・ダイルン)2000
前線基地、レンテン砦にて籠城戦の準備を整え、待機中。
カルデア城塞守備隊(オルデンハルト卿) ごく少数
アレクが守備隊を「待ち伏せ部隊」として引き連れて出陣してしまったため、城塞に残っている兵はごくわずか。「裏切り」の手紙を送ったオルデンハルト卿は城塞内に待機している。
ユードラント軍 合計20000
本隊(へクソン侯・ポロゾフ将軍)10000
デメトール山岳地帯の北側の入口付近にて待機中。攻城戦用の兵器や兵糧を多数抱えており、「動き」は遅い。このまま西に迂回すればメルリッツ峠に入ることが出来るが、「城攻め用の部隊」であり、また、へクソン侯やポロゾフ将軍といった「幕僚」の面々が所属しているため、後述の先遣隊の勝報を待ってから動き出す予定である。
先遣隊(ラロッカ将軍・シドニア・ヒューゴ)10000
エルトリア軍待ち伏せ部隊の情報を入手し、現在敵の作戦を叩き潰すべくメルリッツ峠へ急行中。速やかに敵軍を排除するため、「攻城戦用の兵器」は「本隊」に預けてある。野戦用の身軽な装備、騎馬隊などの機動力のある部隊で構成されている。
位置関係
北
西 東 ユードラント軍本隊1万
南
先遣隊1万
VS(メルリッツ峠) (デメトール山岳地帯)
待ち伏せ部隊3千
(レンテン砦)
守備隊2千
(カルデア城塞)
兵力ほぼゼロ
なんか、普通にソフトとかで図を書けよwww
とセルフつっこみしてみる。しかしモカ亭にそのような高等技術を要求するのは不可能である。(ごめんなさいちゃんと勉強します。もし「こういうの」詳しい方がいらっしゃればコメントか何かで教えていただけると大変ありがたいです。参考にさせて頂きます)