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第49話 魔王様、美人秘書と戯れる

 ユードラント共和国からの「屈辱的な」要求を受け入れてから一週間程度が経過した。


 あの要求を受け入れることにより、一旦は戦争を回避することができた。だが、今後もこの平和が続くとは限らない。


 今、エルトリア軍は秘密裏に、ユードラント共和国を「仮想敵国」に想定した場合の訓練を実施している。国境沿いの警備も大幅に強化済だ。


「戦争を回避するために努力すること」と、「戦争が起きてしまった場合の対策を考えること」は別物だ。


 今回の一方的な要求を飲んだことで、エルトリア王国はユードラント共和国に、「カモ」と見られるようになってしまったかもしれない。そうなってしまえば、今後ますます過激な要求が……。


「むにゅ~ん」


 突如、ほっぺたを指でつつかれて、俺の思考は停止する。


「アレクさん、さっきからず~っと怖い顔で考え事してますよぉ~。私が『何か飲まれますか?』って聞いてるのに全然気づいてくれないしぃ」


 気付けば、秘書のパメラさんがむくれた表情でこちらを見ていた。


「あれ? ご、ごめん……。そうだね、パメラさんの言う通り、煮詰まってるのは良くないな。ちょっと休憩しよう。ミルクティーをいただけるかい?」


「は~い」


 そう言って彼女は給湯室へとパタパタとかけていった。






「それで、牧場の方はどうだい?」


 執務はいったん中断し、ミルクティーとお茶請けで休憩中だ。

 今日のお茶請けはパメラさん特製のパウンドケーキだ。ふわふわと焼き上がったスポンジに、干しブドウなどのドライフルーツやナッツが入っており、ミルクティーにとても良く合う。


「はい、牛さんもお馬さんも、鶏さんも、みんなすくすく育ってますよ~。そのミルクティーのミルクや、パウンドケーキに使ってる卵は、うちの牧場で採れたものなんですよ~」


「へぇ! それはすごい。道理でいつもより更においしい訳だ」


 メルベル牧場の復旧は順調そのものだ。規模も大幅に拡張、従業員も大量に雇い入れ、乳製品・卵製品の製造、軍馬の飼育・調教などを一手に引き受ける王都圏の巨大牧場に成長した。


 この調子で復旧が進めば、メルベルチーズなどの主力商品の輸出も近く再開できるだろう。既に「エルトリア酒」の輸出は始まっており、売れ行きは上々だ。輸出強化により外貨の獲得を急ぎ、経済規模で中央六国の中でも存在感を示す必要が……。


「びろ~ん」


 パメラさんにほっぺたを引っ張られ、俺の思考は再び停止する。


「アレクさん、休憩時間なのにまた考え事をされてますよぉ~」


「ご、ごめん、パメラさん」


「お疲れなんじゃないですかぁ? もし良ければ、特別にリラックスできる『キモチイイコト』をしてあげますよぉ」


 ご、ゴクッ……。


 美人秘書さんがしてくれる「キモチイイコト」とは一体何なのだろうか?


「お、お願いします……」


 欲望に勝てない魔王様なのでした。





「『キモチイイコト』それは……」


「それは……?」


「じゃ~ん。『耳かき』で~す」

 パメラさんはそう言って嬉しそうに「耳かき棒」を取り出す。


「……」


「あれぇ、どうしたんですか、その顔? もしかしてエッチなことを期待してましたぁ?」


「いえ、違います! 断じて違います!」


「ふふっ、じゃあ膝枕するんで、まずは『仰向け』に寝転んでくださ~い」

 耳かきなのに仰向け? と思ったが素直にパメラさんの言葉に従う。


「耳かきの前に、耳の外側を泡で洗って、マッサージしてあげますねぇ」

 彼女はそう言って、洗面器に汲んだお湯と、石鹸を横に置く。


「まずは、ホットタオルをかけていきますねぇ」

 そう言って、俺の(まぶた)の上に暖かいタオルがかけられる。


 あぁ、これはいい……。

 タオルで目が温められて、血行が良くなる。凝り固まっていた目の疲れが解けていくようだ。


「ん、しょ」

 パメラさんが石鹸を泡立てている音が聞こえる。


「では、失礼しますねぇ~」

 そう言って、パメラさんは耳の裏や耳たぶなどを、マッサージするように泡立てていく。


人に耳を触られるなどあまりない経験だ。くすぐったいような、気持ちいいような、不思議な感覚だ。


「じゃあ、泡を洗い落としていきますねぇ~」


 彼女はそう言って、洗面器のお湯とタオルを使って、耳の泡をキレイに流していく。


「ふふっ、キレイになりましたよ~」

 彼女はそう言いながら、俺の耳をモミモミとマッサージしていく。


「じゃあ、耳かきをするんで、横になってください」


「は、ハイ……」

 最早「魔王様」の威厳は微塵もない。完全にパメラさんの言いなりである。俺は素直に、右側を下にして横向きに寝る。


「じゃあ、まずは左耳からいきますねぇ」


 彼女はそう言って、ゆっくりと「耳かき」を挿入していく。


「んっ、ダメっ、動かないで。もっとゆっくり、優しく挿入しますから……。どうですか? アレク様、ちゃんと入りましたよ。痛くないですか?」


 なぜか彼女の声が色っぽい。


「あぁ、痛くないよ……」


「ふふっ、じゃあ、ちょっとずつ動かしていきますね。こうやって、上下にこするように動かして……。ハァ、ハァ」


 彼女の息遣いが徐々に乱れてくる。


「あん、どうですか。アレク様、いっぱい出そうですか?」


 出そうってのは「耳あか」的なアレのことですよね……。


「は、ハイ。いっぱい出そうです……」


「ちょっと動きを激しくしていきますね……。どうですか、アレクさん、キモチイイですか?」


「あぁ、パメラさん、凄くいいよ」


 なんか前もこんなことがあったような……。


 その時!


 コンコンコン!


「アレク様、いらっしゃいませんか?」


 ルナの声が聞こえる。


 まずい!


 だが!


「あれ? 鍵がかかってる。いらっしゃらないのかな?」

 ガチャガチャとドアノブを回す音が聞こえるが、扉が開く気配はない。


「うふふっ、せっかくの『淫らなひと時』を邪魔させるわけにはいきませんからねぇ」

 パメラさんが悪戯っぽく笑う。


 なんと、いつの間にやらこっそりと鍵をかけていたようだ。うちの秘書さんは侮れない


「アレク様、いないのですか?」


「ふふっ、感じちゃっても、声をだしちゃダメですよ~。バレちゃいますから……」

 パメラさんが、妖艶な笑みを浮かべ、まるで獲物を捕食する肉食獣のように、俺に覆いかぶさってくる。


「……」







 約1時間後。


 す、凄かった……。


 俺は放心状態だ。いやいや、断じて、断じて「耳かき」をしていただけだ。やましいことは何もございません!


 し、しかしどうして、中々癖になりそうだ……。


「ふふっ、ご満足いただいたようで、何よりですぅ」


 パメラさんはそう言いながら、後片付けをしている。


「アレク様、お疲れの時は、いつでも遠慮なく言ってくださいねぇ。以前私が憔悴していた時に、ずっと支えてくれたご恩をお返ししたいんです。甘えたいときは甘えていいんですよ~」


 どうやら気を使わせてしまったらしい。彼女の言う通りだ。自分が誰かの支えになるときもあるし、逆に誰かに支えてもらう時もある。


 そういう時は、どちらも「遠慮してはいけない」のだ。


 そう考えていると、パメラさんがつつつと寄ってきて、俺の耳元で囁くのであった。


「その時は、今日よりもっと『キモチイイコト』いっぱいしてあげますね」


 うちの美人秘書は甘えさせ上手で、更に「魔性」も備えているのかもしれない……。


 To be continued


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