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第44話 魔王様、王女様と語り合う

 今日は4月30日。もうすぐ俺がエルトリア王国に来てから1年となる。


 現在、ケルン公国の公式訪問を無事に終え、俺たちはエルトリア王国に帰国している。


 そうそう、あの後(・・・)のことを少しだけ話しておかなければならない。


 イザベラが撤退した後、俺とシルヴィとルナは、この件を「口外」しないことに決めた。

 幸い、遊覧船の乗客たちも、イザベラの「誘惑の魔法」により当時の記憶がないらしく、こちらの方からも情報が漏れる恐れはなさそうだ。


 だが、「こういう事」が起きてしまったのは事実。今後、「魔王の首」を狙う者の手によって、シルヴィやエルトリア王国に危害が及ぶ可能性が出てきたのは否定できない。


 正直、「不用心」だったとしか言いようがない。


 いくらケルン公国の領内だったとはいえ、魔王軍が展開するケルナ湾に、護衛も付けずにのこのこ出かけていってしまったのだ。


 もしルナが駆けつけてくれなかったら、もしイザベラが本気(・・)を出していたら、考えただけでゾッとする。


「そんな! 魔王様の責任ではございません! すぐに魔王様の元へ参ることができなかった、この愚かな従者をお許しください!」

 謝罪する俺に対し、ルナは頭を下げる。


 が、どう考えてもルナは悪くない。完全に俺のミスだ。


 俺だけの問題ではない。あの場にはシルヴィもいたのだ。

 彼女に危険が及ぶ可能性を全く考慮できていなかった自分の甘さに腹が立つ。


 それに俺はシルヴィにずっと黙っていたことがある。

 俺が、「クーデターにより国を追われている」という事実だ。


 初めのうちは、「自称」宰相に過ぎなかったし、魔王国の国内情勢もハッキリわかっていなかったため、とりあえず状況が分かるまで説明を先延ばしにしていた。


 だが、クレイド平原の戦いを経て、エルトリア王国の正式な宰相に就任する段階で、あるいは遅くとも飛竜騎士団副隊長のクロエから魔王国の情勢を確認した段階で、シルヴィに報告しておくべきだったのに、それを怠ってしまったのだ。


 俺は事件後、ようやくシルヴィに自らが参謀長ロドムスのクーデターによって魔王国バルナシア帝国を追われていること、ルナを除く3名の四天王ジオルガ・イザベラ・ダンタリオンや、総勢100万を超える魔王軍が、今後俺の命を狙って動き出す可能性を正直に話したのだ。


 タイミングとしては「ことが起こってから」である。最悪だ。


 遅すぎる説明、ある意味だましていたことにもなる。

 俺は「覚悟」を決めて、シルヴィの返事を待つ。


「知っていました」

 ところが俺の説明を聞いたシルヴィは、予想外の返答を口にする。


「あっ、もちろん、クーデターとか、そういう詳しいことは知りませんでしたが、アレク様やルナリエさんが、いつまでもエルトリア王国にいてくださるのには、何か『魔王国』に帰れない事情があるんだろうなと、なんとなく思っていただけです」


「理由を聞いたら、アレク様やルナリエさんが、そのままエルトリア王国からいなくなってしまうんじゃないかって少し不安で……。それで怖くて聞けなかったんです。ごめんなさい」


 シルヴィは頭を下げる。


「そんな、シルヴィは何も悪くないよ。君にちゃんと本当のことを伝えなかったのは俺の方だ。本当にごめんよ」


「とんでもないです! そ、それで、アレク様、その、これからも、エルトリア王国にいてくださいますか?」

 シルヴィが恐る恐るといった感じで俺に尋ねてくる。


「それは……」


 もちろん、本心でいえばエルトリア王国に残っていたい。


 だが、俺がこの国にいるとロドムスに知られてしまっては、いつ何時、魔王軍がエルトリア王国に侵攻してくるかわからない。


 既に「魔剣」の制作者であるヴァンデッタは魔剣の魔力をたどり、そして四天王のイザベラは「遠見の水晶」というオーパーツを使い、俺の所在を割り出すことに成功している。


 彼女らが俺の所在をロドムスに報告することは、ほぼあり得ないことだが、今後、また何らかの方法で俺の所在を突き止めるものが現れるかもしれない。


 それに全く別の懸念もある。


 それは「神聖メアリ教国」だ。


 万が一、「魔王」が中央六国のエルトリア王国に潜伏していると、かの国にバレれば、それこそ全力を挙げて、これを討ち滅ぼしに来るだろう。


 俺がメアリ教国に自首して打ち首になるだけならまだいい。


「魔王をかくまっていた」などという話になり、シルヴィやエルトリア王国に被害が及ぶのが怖いのだ。最悪の場合「神聖十字軍」をエルトリア王国に派遣し、魔王ごと同国を跡形もなく滅ぼしてしまう可能性もある。


 だから、シルヴィが望まない(・・・・)のであれば、俺とルナはこの国を出ていく覚悟も出来ているのだ。


「そんな! 私はアレク様にこの国にずっといて欲しいと思っています!」


「だが、俺がいることで、この国に危険が及ぶかも……」


「アレク様らしくないですよ。それはあくまで『可能性』の一つです。全く逆の可能性もあるじゃないですか」


 シルヴィが優しい言葉で、しかし、はっきりとした口調で俺に告げる。


「人間との共存を掲げて追放された魔王様が、エルトリア王国内にいる。確かに、魔王国の現政権からエルトリア王国が狙われる可能性は十分にあります」


「しかしそれは同時に、エルトリア王国を守ることにつながる可能性も持っていることになります。『人間と魔族の共存』を掲げる魔王様がエルトリア王国にいてくださるなら、(こころざし)を同じくする人々にとって、この国は拠り所(よりどころ)となることができるのです」


「その参謀長のロドムスという強硬派の方が魔王国にいらっしゃるなら、人間界のエルトリア王国はアレク様がいなくても危険なことに変わりありません。ならば、アレク様がこのエルトリア王国で、いえ、この中央六国で、ロドムスに対抗できるだけの人間や魔族の理想国家を作られるべきです」


「……」

 シルヴィの言葉に反論できない。全く以て彼女の言う通りだからだ。


 どうやら俺は、イザベラに遭遇したことで冷静さを失い、必要以上に自虐的になっていたようだ。


「人間と魔族の共存」という俺の理想と、「エルトリア王国を笑顔のあふれる素敵な国にする」というシルヴィの理想は、互いに相反するものだと思っていた。


 だが、そうではない。


 俺の目指すところと、シルヴィの目指すところは、「一緒」なのだ。


「アレク様、今回の件でそんなに自分を責めないでください。『遊覧船に乗ろう』と最初に言い出したのは私です。それに、アレク様に『宰相になってほしい』と最初に言ったのも私です」

 彼女は、俺をやさしく抱きしめながら、静かな声で諭すように言う。


「私にも責任があります。必要以上に『誰かのせい』にするのはもちろんいけないことですが、必要以上に『自分のせい』にするのも良くないことなんですよ」


「……」

 俺はシルヴィに頭をなでてもらいながら、黙って彼女の言葉を聞く。



「だからお互いに一回だけ謝って、この件は『おしまい』にしましょう。そしたら二人で一緒に反省し、今後どうしたらいいか二人で一緒に考えましょう」


「すまなかった。シルヴィの言う通りだ。これじゃ、エルトリア王国の宰相失格だね」


「ごめんなさい、アレク様。私もエルトリア王国の王女失格です」


 シルヴィが優しく微笑む。


「ふふっ」

 どちらともなく、笑みがこぼれる。


「じゃあ、これからどうしたらいいのか、二人で一緒に考えましょう!」

 シルヴィが明るい声で俺に提案する。


 そう、彼女は為政者として必要な知識や心構えを、一生懸命に勉強して身に着けてくれたのだ。


 だから俺も、彼女の努力に応えるべく、「いろいろなこと」をもっと彼女に相談し、彼女に「頼る」べきだ。


「甘える」のとは違う。


「相互に信頼し、頼り、支え合う」関係だ。


 俺はその日、俺の理想、シルヴィの理想、エルトリア王国のこと、中央六国のこと、魔王国やメアリ教国との関係など、これからのことについて、シルヴィと二人で夜遅くまで語り合ったのであった。


To be continued


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