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第2話 魔王様、盗賊を退治する②

「よかろう! では、詐欺罪の容疑者アレクに3日の猶予を与える。一人で見事盗賊団を壊滅させて見せよ!」


 ベルマンテ公の宣言により、俺は手錠を解かれ、自由の身となる。


「ふん、せいぜい頑張るんだな」

 謁見の間を退出するため、へクソン侯が俺たちの横を通り過ぎる際に、嫌みを言う。


「逃げてもよいぞ。お前の従者はワシがもらい受ける。詐欺師にはもったいない美しさだ」

 ベルマンテ公が俺の肩を叩きながら下品な笑みを浮かべる。


「私はココロもカラダもすべてアレク様のものです。あなたのモノになるくらいなら自害します」

 ルナが平然と言い放つ。


「フン……」

 鼻を鳴らし、ベルマンテ公もそのまま退出してしまった。


「アレク様、ルナリエさんも、本当に申し訳ありません。私のせいでこのようなことに」

 シルヴィが半泣きになりながら駆け寄ってきた。


「シルヴィのせいじゃないよ。宰相を引き受けたのは俺の意思だ」

 俺はシルヴィを励ます。



「でも……」


「大丈夫。俺はほら『アレ』だからね。盗賊団の壊滅なんて簡単な仕事だよ。心配しないで」

 俺はシルヴィの頭をなでる。


「ルナもありがとう。辛抱をかけるが、少しだけ待っていてくれ」


「はい! 喜んで!」

 ルナは満面の笑みで答える。


「ワシからも謝罪させてくれ。姫様の命の恩人に対し、礼どころか罪を着せるこの愚かな国のことを」

 ウォーレン伯と名乗った老人が改めて頭を下げる。


「ウォーレン伯爵は父の宰相だった方なんです。今でも変わらず王家に忠誠を誓ってくれているんですよ」


 シルヴィが俺に説明する。


「滅相もございません。今は宰相の座を追われ、なんの力もないただのジジィですじゃ」

 ウォーレン伯がシルヴィに頭を下げる。


「とはいえ、可能な限りアレク殿に協力させていただきます。何かお力になれることはございませんか?」


「そうですね。戦力面に関しては一切の協力は不要です。盗賊団に関する情報を可能な限り頂きたいです」

 俺はウォーレン伯に答える。




―― 約一時間後

 俺はウォーレン伯から情報を受け取り、盗賊団のアジトがある、東のバルマ砦へと向かった。


 シルヴィが、俺が戻るまでルナを安全な場所にかくまってくれると提案してくれたので、その点も安心だ。


 盗賊団は全部で50人前後とのこと。

 被害は約1か月前から発生している。


 前王が死去すると、ベルマンテ公やへクソン伯をはじめとする大貴族たちが、前王に忠誠を誓っていた多くの騎士たちを追放あるいは処刑したため、治安が急速に悪化したのが原因だ。


 被害は民間人を中心にかなりの規模だ。中には盗賊団に惨殺されたり、捕まって奴隷として南方の異民族に売り飛ばされたりしたものもいるらしい。


「あれか……」

 俺は物陰から砦を見る。


 砦の入口には見張りが数人。物見やぐらにも人影が見える。


「――ッ!」

 あることに気付いた俺は怒りに体が熱くなる。


 入口の横に生首が、――恐らく惨殺した住民たちのものだろう――大量に並べられている。中には子供と思しきものもある。


「お、おやめください。どうか……」

「ゲヘヘ、死ね! じじぃが!」


 そして今、まさに捕らえた老人の首を刎ねようとしている様子が見える。


 正直、盗賊団に同情の余地があれば降伏を勧めるつもりだった。


 だが、虐殺を楽しむ下衆な賊を目の前にして、俺は「一切の慈悲なく排除すべき」と結論付けた。











――アレクはゆっくりと立ち上がると、正々堂々正面からバルマ砦を目指した。

 今の彼は弱小国家の宰相ではない。


 冷酷にて無慈悲、完全なる「魔王」だ。


「オイ、なんだてめぇ?」

 老人の首を刎ねようとしていた賊が魔王の接近に気付く。


「質問に答えろ、てめぇは……」

 見張りの言葉はそこで途切れた。


 体が真っ二つに切断されている。


「なっ!?」

「このやろう!!」


 他の賊たちが一斉に魔王に襲い掛かる。


「エアロ」


 突如暴風があたりに吹き荒れ、賊を吹き飛ばす。

 彼らは砦の石壁に激突し、一瞬でミンチになってしまった。


 以前とは違い、一切の加減無しだ。


「敵襲! て……」

 物見やぐらの兵が大声で叫ぶが、次の瞬間、彼らの頭上に落雷が降り注ぐ。


 砦は蜂の巣をつついたような大騒ぎだ。


 魔王はその中を悠々と進んでいく。




「お頭! 敵襲です!」

 砦の大広間。


 中では盗賊団の首領と30人ほどの部下たちが、酒盛りの真っ最中だ。


「敵襲? 王国軍か?」


「いや、それ……が、が、がぁ……」

 報告に来た部下が突然喉を抑えて苦しみだす。


 部下はそのまま窒息してしまった。


「なっ!?」

 首領が驚く。


「お前が盗賊団の首領か?」

 大広間の入口にアレクが立っていた。


 もちろん彼らはこの人物が「魔王」であるとは知らない。


 だが、他者を圧倒する凄まじい気迫から、この人物が只者でないことは本能的に理解できる。


「大人しく投降し罪を償え」

 魔王は広間の真ん中まで進むと静かに告げる。


「うるせぇ! ふざけんじゃねぇぞ!! てめぇら、殺っちまえ!」

 首領の命令で部下たちが一斉に魔王に襲い掛かる。


「仕方ない」

 魔王が手を挙げる。


「うぉぉおお、お、ぉ……」


 次の瞬間、怒号を上げていた部下たちの言葉が消えた。


 彼らは武器を振り上げたままの姿勢で硬直し、ピクリとも動かない。


 まるで氷細工のようだ。


「絶対零度。氷の最上級魔法だ」

 魔王がゆっくりと宣言する。



 氷漬けになった彼らは、もう二度と息を吹き返すことはないだろう。

 

 この部屋で生きているのは、魔王と首領だけになった。


「ひ、ひ、ひぃ」

 首領は声にならない悲鳴を上げて一目散に逃げようとする。


「もう遅いよ」

 魔王は逃げていく首領の方向に手を向ける。


 桁違いの魔力が一気に収束する。


「魔王の波動」


 一瞬の間をおいて、とてつもない爆音と衝撃が走る。


 波動は首領ごと大広間の壁を突き破る。


 周囲にがれきが散乱し、砂ぼこりが舞う。

 首領の姿は跡形もない。


 この日、エルトリア王国東部を襲撃していた盗賊団は、「跡形もなく」消滅した。




――「ふぅ、こんなものか」

 俺はゆっくりと息を吐きだす。


 もしかしたら生き残りの盗賊がいるかもしれないが、これ以上の戦闘は無意味だ。

 捕虜を解放し、速やかに撤収しよう。


 気が重い。


 もちろん盗賊団に同情の余地はない。


 しかし、今後このようなことが起きないように対策を立て、治安を維持し、国を守っていくのが宰相としての俺の仕事だ。


 今後二度と、魔王として無抵抗の盗賊団を虐殺するようなことがあってはならない。

 もしそんなことがあれば、それは俺が宰相としての責務を果たせなかったことを意味するからだ。


「さて、捕虜を解放し脱出しよう」

 俺は気を取り直すと、先ほどの老人のところへ向かった。




 数時間後、俺は城へ戻っていた。


 結局砦では十数人の捕虜が見つかった。中には若い女性もいた。


 どうやらあの盗賊団は、若い女や労働力になりそうな男は奴隷として売り、売り物にならなそうな老人や子供たちは虐殺していたようだ。


 現在捕虜の保護と、盗品の回収等のために城から兵が派遣されている。

 もちろん盗賊団壊滅の証拠確認も意味している。


「アレク様、ご無事で本当に、本当に良かった……」

 シルヴィが安堵の胸をなでおろす。


 目が真っ赤なところを見ると、俺の留守中ずっと泣いていたようだ。


「お待ちしておりました、アレク様。お疲れではございませんか?」

 ルナが俺に声をかける。


 こちらはシルヴィとは対照的に、全く心配しておりませんでしたといった様子だ。

 もちろん、俺を絶対的に信頼してくれている彼女だからこそできる態度だ。


 何はともあれ、これで俺もようやくエルトリア王国の宰相と認められたわけだ。


 恐らく国内の課題は山積み。


 魔王軍や他勢力の動向も気になるところだが、とにもかくにも、こうして俺はエルトリア王国「宰相」としての第一歩を踏み出すことになったというわけだ。




 To be continued


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