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第35話 魔王様、協力者を得る②

「して、魔王様。いかがなさいますか? 『我こそが正当な魔王である』と宣言し、ロドムスに不満を持つ者たちを集め、魔王国に攻め入りますか?」


 クロエが俺に質問する。


「俺は……」


 俺はひと呼吸おいて、クロエの質問に答える。


「現時点で、魔王国に戻るつもりはない」


 そう、「今」、そんなことはできないのだ。


 確かに、現在でも俺は「魔剣」を所有している。ヴァンデッタの後押しもあれば、魔王位に復帰することができるかもしれない。


 だが、これはあくまでも「希望的観測」だ。


 話を聞く限りでは、ロドムスが所有している「魔剣」も「本物」である。


「魔剣」は世界に一本だけ、そしてそれに触れることができるのも、同時期には(・・・・・)世界に一人だけのはずである。


 だから、俺とロドムスがそれぞれ「魔剣」を所有している現在の状況は「ありえない」状態なのである。


 俺が所有している「魔剣」こそがヴァンデッタも認める正真正銘本物である。


 という主張は、「こちらの言い分」に過ぎない。


 もちろん、俺を支持してくれるものも大勢いるだろう。


 だが、同時に「古き良き魔王国」への回帰を願う勢力も間違いなく存在する。

 彼らは、「人間は暴力で支配すべき」との政策を進めるロドムスを支持するだろう。


 そして、どちらも「本物の魔剣」である以上、彼らは「支持する方」の言い分を信じるだろう。


 そうなってしまえば魔王国が真っ二つに割れる。

 俺とロドムスの「魔王位」をかけた全面戦争が勃発するだろう。


 正直、エルトリア王国内の「王女派」と「大貴族派」の争いとは「規模のケタ」が違いすぎる。


 そして、魔王国のような超大国がそこまで乱れれば、当然「メアリ教国」や「ダルタ人勢力圏」が横槍を入れてくる。


 ここのところずっと大人しくしている北の死者の国「アモンドゥール帝国」も動くかもしれない。


 そうなれば全世界を巻き込む「超大戦」になってしまうことも考えられる。

 かつて四回も世界を滅ぼした(・・・・・・・・・・)終末戦争のように……。




 それに、俺はエルトリア王国の宰相だ。

 これは、魔王位に復活するまでの「かりそめの立場」として引き受けたものでは断じてない。


 シルヴィの熱意に打たれ、彼女の愛するエルトリア王国を守るという誓いのもとに引き受けたのだ。


 俺が魔王位に復帰することが、エルトリア王国、あるいは中央六国全体にとってプラスになるというなら、もちろん復帰する。


 が、今、不確定要素が多すぎる中で、俺が魔王であることを宣言するのは「エルトリア王国にとっても」あまりにも危険すぎるのだ。


「御意。魔王様の御意思にままに」

 クロエは深々と頭を下げ、俺の意思に従う。


「それでは、信頼のできる部下を連れてエルトリア王国に亡命いたしましょうか? 飛竜騎士団や魔王国空軍……。失礼、今は『空挺師団』でした、には、ロドムスに不満を持つ者も多いです。人間界には『飛竜騎士(ワイバーンナイト)』などという兵科を運用できる国は存在しないはずです。エルトリア王国の戦力強化に、大きく役立つと思われますが」


 クロエが別の提案をする。


 ありがたい提案だ。可能であればそうしたい。


 だが、


「ありがとうクロエ。そうしたいのは山々なんだが、それも難しい」


「理由をお伺いしても?」


「エルトリア王国は『メアリ教国』の支配下にある。『魔族根絶』を至上目標に掲げる彼らの傘下で、魔族部隊の運用が許されるはずがない」


「なるほど、しかし、あの『白ナメクジ』どもの顔色を伺わなければならないとは、人間界での執政は大変ですね」


 クロエが心底同情するような表情で俺を見る。

 ちなみに、「白ナメクジ」とは魔王国におけるメアリ教国の蔑称だ。


 メアリ教国の国色が「白」なのと、いつも暖かい時期になると、「神聖十字軍」という魔王国討伐部隊を編成して、大群で押し寄せてくるからだ。


 魔王国ではこれを「また白ナメクジが大量発生しているぞ。駆除だ!」と言ってバカにするのだ。


 少し話がそれたが、そういった理由で俺を支持する魔族をエルトリア王国に呼び寄せるのも難しい。


 そこで……。


「クロエには別のことをお願いしたいんだけど……。」


「何なりとお申し付けくださいませ。魔王様」


「クロエにはこのまま、魔王国に残って情報を集めてもらいたい」


「つまり、スパイ活動をすればいいという訳ですね」


 人間界と魔王国が完全に遮断されてしまった今、魔王国の内情を知ることができるだけでも、非常にありがたい。


「かしこまりました。では、ロドムス派の機密情報を入手したり、魔王国に潜在する反ロドムス勢力をまとめ上げて……」


「いや、クロエ。そんな危険な真似はしなくていい。魔王国で普通に手に入る情報だけで十分だから、くれぐれも、無理はしないでくれ」


 俺がそう言うと、クロエはクスクスと笑い出した。


 クールな彼女が笑うとは珍しい。


「いえ、失礼。やはり魔王様はお優しい方ですね。私は一魔族、魔王様の命令には絶対服従の立場です。『(コマ)』の心配などしなくてもいいのに」


「まさか! 俺は君たちのことを駒だなんて思って……」


「大丈夫です。魔王様がそんなことを思われていないことは、十分承知しております。だからこそ、私はロドムスではなくあなたの元へ参ったのです」


「クロエ……」


「それがあなたの『いいところ』なのですよ、魔王様。悔しいですが、ルナリエお嬢様が惚れてしまうのも納得です」


「なっ!?」

 予想外のタイミングで流れ弾が飛んできたことにルナが驚愕する。


「惚れるというか、ベタ惚れというか、もう見ていて恥ずかしくなるぐらいですよ」


「ちょ、ちょっと、クロエ!?」

 ルナが真っ赤になりながら立ち上がる。


「魔王様はご存じないと思いますが、お嬢様は魔王城の自室で、いつも夜な夜な魔王様のことを思いながら自らを慰め……」


「だ、黙りなさい!!!」


 ルナの魂の叫びが響く。


 あとで聞いた話では、その声はデメトール山岳中に響き渡ったとかなんとか……。







「それでは魔王様、ルナリエお嬢様。私は一旦魔王国へ帰還します」

 クロエが頭を下げる。


 彼女の相棒である全身黒色の飛竜、「ヴォルフバイル」に飛び乗る。


「私もしくは使いの者を定期的にエルトリア王国に送ります。落ち合う場所は、この山小屋ということで」


「分かった」


「では魔王様、ルナリエお嬢様。失礼いたします」


「元気でね、クロエ」

 ルナが声をかける。


「嗚呼、ルナリエお嬢様とやっとお会いできたのに、もうお別れなんて、胸が張り裂けてしまいそう。でもクロエは理解しました、会えない時間が長くなるほどに、二人の愛がはぐくまれていくのだということに、そう、この苦しい時間も、二人が禁断の花園に到達するための試練と思えば……」


「いいからさっさと行きなさい!!」








「ハァハァ、よ、ようやく行ったか……。」

 その後、「やっぱり我慢できません!」といってルナに飛び掛かるクロエを引きはがすのに時間がかかったようだ。


 ルナが息を切らしながら山小屋に戻ってきた。


「す、すみませんアレク様。あれでも信頼できる、根はいい子なんですよ」


「あぁ、もちろん知っているよ」


「あと、私が夜な夜なナニをしているというのは嘘、嘘ですから!」


「は、ハイ。心得ております……」


 まぁ、いろいろあったが、おかげで魔王国に協力者を得ることができた。

 これで少しは安心して、ケルン公国への訪問団を派遣できそうだ。


 To be continued



※ ルナが夜な夜な寝室でしているナニとは「セルフ頭ナデナデ」のことです。け、決して、いやらしいことはしていない……と信じたいです……ハイ。


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