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第31話 魔王様、軍を再編する①

 今日は2月24日。

 ほんの少しだけ暖かくなってきたが、まだまだ朝晩は猛烈に冷え込む。


 俺はルナとともに、バルマ砦へとやってきた。

 大貴族派を撃破して政敵がいなくなったことで、ぼちぼち軍部の方も大幅に強化しておきたいと考えてのことだ。


 クレイド平原の戦いが終わったところで、シルヴィア私兵隊はエルトリア王国の「正規軍」に格上げとなった。


 同時に、シルヴィや王女派の貴族たちが、「私的に」支出していた軍資金も国庫の方から十分な予算が確保できるようになった。


 現在、「エルトリア王国軍」は豊富な予算をもとに新兵の募集を続け、4000人規模の軍隊となっている。


 同時に、「初期加入組」から順に「一人前の兵士」として十分に仕上がり始めたので、これを機に装備を刷新しつつ、部隊の編成を整えたいところだ。


「アレク隊長! お待ちしておりました。すでに、中にお見えです」

 俺たちが到着すると、小隊長のダイルンが駆けつける。


 そう、今日はある国の商人と交渉をするため、ここへ来たのだ。




 ガチャ


「ややややや、これはこれはどうも、今日はお呼びいただき、誠にありがとうございやす」


 砦の応接室に入ると、小柄な男がかぶっていたローブを取りながら挨拶をする。

 両脇には筋骨隆々の護衛が銅像のように控えている。


「あっしは、ギャズと申します。ユードラント共和国で、武器の貿易なんかをやっておりやす」


 がりがりにやせ、歯の何本か抜けた男はそういって自己紹介をする。低姿勢な言葉や態度とは裏腹に、目がギラギラとぎらついている。


 そう、この男は「ユードラント共和国」の武器商だ。


 ユードラント共和国は中央六国一の武器生産国だ。同国で採れる質の高い鉄鉱石と、武器職人たちの高い技術により、この国で生産される剣や槍、兜や鎧といった「武器や防具」は「世界最高品質」と称される。


「ひっひっひっ。すみませんねぇダンナ。こんな『でくの坊』たちを連れてきてしまって。あっしら、『人殺しの道具』を売るのが商売なもんで、恨みを買って命を狙われることも多いんすよ」


 彼はそう言って、交渉の場に護衛を引き連れてきたことを謝罪する。


「いやいや、あっしもこんなブサイクな男じゃなくて、ダンナのお連れさんみたいなべっぴんさんを連れて商売がしたいですねぇ」


 ギャズはルナの胸や腰のあたりをねっとりとした視線でなめまわすように見つめながら、世辞とも本心ともとれるようなセリフを吐く。


 ユードラント共和国は、同国産の高品質な武器や防具を主力の輸出商品としており、これらの商品は世界中の戦場で使われている。


 言葉を選ばずに言い換えれば、それは世界中の戦場で「人を殺している」ということでもある。


 恨みを買うことも多いのだろう。


「戦争」がなければ「武器」は売れない。

 彼らは常に戦争や紛争を欲している。


 正直、あまり深くかかわりあいになりたくはない連中ではある。


 が、同国産の武器が極めて優れていることは間違いのない事実。

 国を守るための武器を手に入れる手段として、あくまで「ビジネスライク」に彼らとは接するべきだ。


「いや、護衛の件はもっともな話だ。俺は気にしないから、早速話を聞かせてくれ」


 交渉開始だ。


「剣に長槍、兜に鎧に盾に弓矢、おぉ、クロスボウまでこんなに……。ひっひっひっ、まいどまいど!」

 俺が差し出した注文リストを眺めながら、ギャズは舌なめずりをしている。


「それじゃあ、えーっと、お代の方は……。まず頭金でこれぐらい、残りは分割で……。こんなもんでいかがでしょうか?」


「随分高いな。もう少し安くならないか?」


「ひひっ、おやおや、手厳しい。いやいや、あっしらも安くしたいのはやまやまなんですが、最近武器の値段も上がっておりやして」


 彼は頭をかきながら舌を出す。目が少しも笑っていない。


「魔王国が中央六国に対する態度を硬化させていやすからねぇ。実際にケルン公国ではちょいと被害が出始めたとか。ここんとこずっと平和でしたからねぇ。魔王国が攻めてくるんじゃないかと、みんなびくついてやして……」


 お陰様で武器が売れて売れて……。とでも続けようとしたのか、俺の固い表情を見て、ギャズは言葉を飲み込んだようだ。


「とはいえ、ダンナの頼みとあっちゃ断れません。特別にお勉強させていただきましょう」

 ギャズがそう言って再度価格を提示する。


 フン、どうせ初めからそれぐらいの価格を落としどころとして考えていたんだろう。「食えない奴」だ。


「支払いは現金一括、前金で支払う。その代わりもう少し引いてくれ」


「ありゃりゃ、そうきやしたか。ダンナもなかなか商売上手ですねぇ」

 一瞬「しまった!」といった様子のギャズだったが、次の瞬間には笑顔に戻っている。


「わかりやした」


 向こうも「新生エルトリア王国軍」を新たな「得意先」にしたいのだろう。ここでこれ以上ごねることはしないはずだ。


 こうして、武器の取引価格が決まった。


「そういえば、魔王国によりケルン公国で被害が出ていると言っていたな。詳しく聞かせてくれないか?」

 交渉が終わったところで、俺はギャズに尋ねる。


「へぇ、何でもケルンの国境沿いの村なんかで、ここんとこ『オークの襲撃事件』が起きてるらしいですぜ」


「まぁ、まだまだ襲撃の規模自体は『盗賊レベル』だそうで、被害も国境付近に限定されてるんで、そんなに騒ぎにゃなってませんがね。それでも、ここんとこずっと『そんなこと』はただの一度も起きてなかったんで、国境沿いを中心に、徐々に不安が広がってるのは間違いないねぇですぜ」








「ジオルガ=ギルディの仕業でしょうか?」

 ギャズが帰ったところで、ルナが俺に尋ねてくる。


「あいつが直接指示を出したかどうかは判らないけど、少なくとも、『絡んでいる』のは間違いないだろう」


 俺が答える。


 全オーク種の族長にして四天王の一角である、ジオルガ=ギルディ本人が現時点で直々に動いたとは考えにくい。(もし、「あいつ」が動いたとなれば被害は「こんなもの」では収まらないはずだし、「魔王軍四天王が中央六国に侵攻した」となれば他の5国はおろか、宗主国メアリ教国もさすがに動くだろう。そんなことになれば魔王国VSメアリ教国・中央六国連合軍の「全面戦争」になってしまう)


 恐らくだが、こちらを本気でブチ切れさせない程度に計算しながら、国境付近で小規模な「嫌がらせ」を行っているのだろう。


 ずる賢く計算高いあいつらしい。

 


「なんだか少しずつ、『嫌な方向』へ向かってる気がしますね」

 ルナが不安を口にする。


「あぁ、だからこそ、急いで軍備を整えないと……。」


「ハイ! アレク様」


 ルナがそう答える。


 今日の手続きをすべて終えると、俺たちは一旦バルマ砦を離れることにした。


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