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第28話 魔王様、美人秘書を雇う②

 時刻は深夜の23時半。

「つ、疲れたぁ~」


 俺は最後の書類にサインを終えると、ほぅと息を吐きだす。


「正式に」宰相に就任してからというもの、「デスクワーク」が一気に増えた。


 まぁ、今までは自称(・・)宰相として好き勝手発言していただけなのである意味「気楽」な立場であったが、正式な宰相となったからには大なり小なり最終決定権者として仕事が増えるわけで……。


 しかも、大貴族派を撃破したため彼らが担っていた仕事のすべてが王女派に回ってきてしまった。これは一時的なものだが、おかげでものすごい量のデスクワークをこなさなければならなくなってしまったのだ。


 さすがの「魔王」も、これほどの量のデスクワークにはぐったりである。


「ふふっ、お疲れ様でしたぁ」

「秘書」のパメラさんが温かいミルクティーを淹れてくれる。


 こんな時間だ。何度も「先に切り上げてくれ」といったのだが結局最後まで残って面倒を見てもらってしまった。

(彼女は現在、王城で寝泊まりしているので帰りの心配はないが、それでもこんな遅い時間まで付き合わせてしまったことは罪悪感を感じる)


「よく頑張りましたねぇ~。えらいえらい。よしよししてあげますねぇ~」


 彼女はそう言って俺の頭をなでる。


「それとも、ぎゅーって抱っこしてほしいですかぁ?」

 彼女は両手を広げて、「おいで」のポーズを取る。


 て、天然なのだろうが、彼女はこうして時折「とてつもない母性」を発揮することがある。


 デスクワークに疲れ果て、満身創痍の状況で、目いっぱい甘えさせてくれる美人秘書。(しかもスタイル抜群のお姉さんだ!)


 こ、これはなかなかに破壊力のある組み合わせだ。

 気を付けないと、「何か」に目覚めてしまいそうだ……。


「そうだ、お疲れのアレクさんに、少しだけマッサージしてあげますねぇ~」


 パメラさんはそういうと、俺の後ろに回り込む。


「んしょ、んしょ。だいぶ凝ってますねぇ」

 彼女はそう呟きながら、俺の首や肩をマッサージし始める。


 絶妙な力加減だ。凝り固まった筋肉がほぐされていく感じがたまらない。


 深夜までのデスクワークの疲れもあり、何だが急激に眠くなってくる……。


「背中や太もももマッサージしますので、ベッドの方へ移動してくださ~い」


「は、はい……」


 俺は言われるまま彼女に導かれ、ベッドへと移動するとうつぶせに寝転がる。


「それでは失礼して……」

 パメラさんはベッドに横たわる俺の上にまたがると、マッサージを再開する。


「んっ、ふぅ、んっ」

 室内にパメラさんの喘ぎ声が響き渡る。


「んっ……。あん……。ダメ、アレクさんの、スゴく固い……」


 ギシッ、ギシッ、ギシッ。


 マッサージの振動で、ベッドが揺れる。


「んっ、はぅ……。ど、どうですかアレクさん……。キモチイイですか?」


「あ、あぁ、パメラさん。すごく気持ちいいよ」


 な、なんだか「いけない雰囲気」になってきたぞ……。






 その時。


 コンコンコン


「アレク様、まだ起きて見えるのですか? 灯りがついているのが見えたので……。こんな遅くまでお疲れ様です。よ、良かったら、その……。私がマッサージでもして差しあげましょうか?」


 廊下からルナの声が聞こえる。


 まずい!


 ガチャ


 俺が何ごとか答える前に、ドアが開いてしまった。


「アレク様……。なっ!?」

 ルナが凍り付く。


 深夜の執務室。


 ベッドの上で絡み合う宰相と美人秘書。


 寝具のきしむ音と美人秘書の嬌声が室内にこだまする……。


「い、いや……。違うんですルナリエさん……。これはすべて秘書がやりました……」

 俺の「謎の言い訳」が空しく消えてゆく。





「何をしてるんですかー!!!!!」


 深夜のエルトリア城に「ルナリエの魂の叫び」が響き渡る……。





 翌朝。

 ね、眠い……。


 あの後結局なんとか誤解を解くことができたが、それが成ったのは午前3時過ぎだった。

(そこに至るまでの激闘が、バーク街道・クレイド平原を超える壮絶な戦いであったことは言うまでもない)


 さすがに、パメラさんには今日は「お暇」を出してあげた。

 今日はゆっくりと休んでもらいたいものだ。







「さて、始めますか」

 俺は執務室に入ると、地図を広げる。


 この地図は少し小さめで、アークランド大陸の「中央部」しか載っていない。

 地図には、四大勢力に囲まれた「六つの国」が記載されている。


 俺は一つずつ確認するように各国を見ていく。




※ 注意! ここから説明非常に長いです。中央六国についてはまた本編で登場するたびに簡単に説明しますので、ざっくりザクザク読み飛ばしていただいても構いません。

(今日はあとがきに各国の特徴を簡潔に一言で書いておきますので、そちら見ていただくだけでも大丈夫です)




 まず、アルドニア王国。

 国土はエルトリア王国の10倍以上はあろうか? 中央六国最大最強の国である。位置的にはエルトリア王国の西に広がり、軍事力・経済規模・領土ともにほかの五つの国を大きく引き離し、食・美術・音楽・学術などの文化面からも非常に優れており、農業・工業ともにバランスよく発展している。また、「アルドニアワイン」や馬の「アルドニア種」など、この国の名を冠する「ブランド」も多い。宗主国メアリ教国とのパイプも太く、メアリ教国が「六国の宗主国」であるならば、アルドニア王国は「六国の代表国」とでも言えるような国家である。


 続いてケルン公国。

 以前、一度だけルナと「バーデンの街」に行ったことがある国だ。場所はエルトリア王国の東。軍事力・経済規模・領土ともにさほど大きくはないが、なんと言ってもこの国の特徴は、「中央六国」の中で唯一「海に面している」点だ。よって海産物の輸出で非常に栄えている。また、南方交易により「一攫千金」を狙う者の集まる「夢の国」でもある。船で外海へと飛び出し、ダルタ人勢力圏よりさらに南に広がる南方諸島から香辛料や香木、象牙などの非常に貴重な品を持ち帰ることができれば「三代は遊んで暮らせる」という。だが、それは「命がけのギャンブル」だ。この国が面する海は「ケルナ湾」と呼ばれ、一旦大きく広がった後、「ガドガン海峡」という非常に狭い海峡を抜けて外海へとつながっているのだが、このガドガン海峡の両岸は「ダルタ人勢力圏」と「魔王国バルナシア帝国」が長年にわたり勢力争いを続ける超危険な紛争地域なのだ。彼らに見つかることなく海峡を抜けるのは非常に困難であり、もし見つかれば当然命はない。命を捨てる度胸と覚悟があるのなら一攫千金の夢を見るのもいいが、そうでないのなら絶対にここには近づいてはいけない。


 次にタイネーブ騎士団領。

 伝統と規律を重んじる騎士たちの国だ。位置的にはエルトリア王国の北東に存在するこの国は、魔王国バルナシア帝国と国境を接するため、非常に強力な「騎士団」を有している。その中でも「槍騎兵(ランサー)隊」と呼ばれる特殊な軽装騎馬隊が特に強力であり、総合的な軍事力ではアルドニア王国に劣るものの、騎士団の精強さは六国随一である。また、この国原産の「タイネーブ種」と呼ばれる大型の馬は、軍馬として世界中で評価が高く、資源の少ない同国にとって、非常に貴重な「輸出商品」にもなっている。この国の人々は、「騎士道」という独自の価値観を持ち、これを非常に大切にしている。彼らが大切にする騎士道とは「誠実であり、勇敢であり、弱きものの守り手であり、悪を憎み、正義を愛するものであれ」といった言葉に代表されるように、非常に厳格かつ崇高なものである。騎士道は日常生活の中に深く深く浸透しており、食事の作法や挨拶に関する事柄まで、事細かに定められている。が、ゆえにこの「騎士道」がしばしば宗主国であるメアリ教国の「教え」と反することがあり、騎士道に反する教えを強要してくるメアリ教国のことを内心疎ましく思っている節があるようだ。


 ユードラント共和国。

 アルドニア王国に次ぐ国土を有するこの国は「工業立国」であり、六国中唯一の共和制を敷く国家だ。位置的にはエルトリア王国の北に存在する。もともとは同国のユードラント山脈から採れる良質の「鉄」による鉄鋼業の繁栄から興った国である。今でも同国産の鉄製武器は世界最高品質であり、世界中の戦場に向けて輸出されている。また、この国には王や貴族が存在せず、市民の代表から選出される「議会」で同国の政治的な決定がなされるのである。一見すると他国より優れた政治システムを有しているようにも思えるが、同国の特殊な成り立ちゆえに古くから鍛冶職人や武器商人が非常に強い権限を有しており、彼らの多額の政治献金によって議会が支えられている。「武器」は「戦争」がなければ売れない。よって、彼らは六国中最も「戦争を欲している」国でもある。武器の輸出によって潤った多額の軍資金をもとに屈強な傭兵団を編成し、さらにそれを他国に貸し出して儲けるなど、「戦争ビジネス」にどっぷりとはまり込んだ危険な国であるといえよう。


 最後に、魔道国家シーレーン皇国。

 エルトリア王国から見ると、ユードラント共和国をはさんで更に北の果てにあり、「死者の国アモンドゥール帝国」と国境を接している。国土も非常に小さく、中央六国では下から2番目、おまけに寒さが厳しい地域で土地がやせているため、農業も振るわない。だが、この国は中央六国で唯一「魔道学園」を有しており、「魔導士の育成が可能」というとんでもない長所を有している。魔導士は人間界では非常に重宝される存在であるが、生まれながらの素質と魔道学園での訓練が不可欠であるため、非常に貴重な存在だ。シーレーン皇国には、全寮制の魔道学園があり、世界中から「魔導士の卵」が集まり、日夜魔道研究に没頭している。魔導士たちの卒業後の進路等に関しても、皇国が強い決定権を有しており、また、当然ながら同国も非常に強力な魔道兵を多数麾下に置いているため、他国にとっても「機嫌を損ねたくない」相手である。「魔法」というのが、そもそも「魔族に由来する力」であるため、宗主国メアリ教国はシーレーン皇国のことを完全に「快く思っていない」。シーレーン側も一応は属国として収まっているが、いつ「魔王国」や「死者の国」に寝返ってもおかしくない。同国ではメアリ教国から派遣された政務官、皇族、学園関係者などが複雑に権力闘争を繰り広げており、陰謀渦巻く状況となっている。


 そして……。


 半ば忘れられたように、これらの勢力の外れにポツンと存在するのが、我らがエルトリア王国だ。六国中最弱最小。主だった特徴もなし。最近ようやく米の二毛作と、酒とチーズの輸出計画が立ち上がり、軍備に関してもほんの少し強化された程度だ。


 これまで以上に大規模かつ抜本的に改革を行っていかなければ、「四大勢力」はおろか「中央六国」とさえ渡り合っていくことができない。


 俺は雪の降り始めた窓の外をぼんやりと眺めながら、今後の「内政」について思案を進めていた……。





 To be continued


 

 中央六国特徴まとめ(超簡易版)


 アルドニア王国     六国中最大最強。

 ケルン公国       六国で唯一「海」に面している。

 タイネーブ騎士団領   騎士たちの国。騎馬隊が強力。

 ユードラント共和国   工業国。共和制。戦争主義。

 魔道国家シーレーン皇国 六国で唯一「魔導士」を育成できる。


 エルトリア王国 六国中最弱最小。王女様が可愛い(オイ!)あと実は「魔王」が宰相をやっている。


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