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第1話 魔王様、盗賊を退治する①

「貴様がアレクだな! 姫様をたぶらかそうとした罪で、貴様を逮捕する!!」

 兵士が腰の剣に手をかけながら言うのを見て、俺は即座に制止する。


 兵士をではない。


 ルナをだ。


 俺が止めなければ、この兵士は剣を抜いた瞬間に消し炭になっていただろう。


 何とか止めることができたが、今も相手を焼き殺しそうなほど鋭い視線で、兵士を睨みつけている。


「えぇと、あの、全く身に覚えがないのですが」

 俺は両手を上げながら弁明を試みる。


「貴様に意見など求めていない! 来い!!」

 取り付く島もない。俺は黙って従うことにした。


 俺とルナは、両手を縛られて、城内の「謁見の間」へと連れてこられた。


 重厚そうな扉を通り、中に入る。

 豪華な造りの朱の絨毯が入口から玉座まで延々と続いている。


 吹き抜ける大きな室内には色とりどりのステンドグラスがはめ込まれ、午後の日差しを受けて七色に輝いている。


 最奥は一段高くなっており、金の細工と宝石が散りばめられた大きな玉座があり、そこに不釣り合いな小柄な少女が座っている。


「あの、アレク様、ごめんなさい。まさかこんなことになるなんて……」

 俺たちの姿を確認したシルヴィが跳ねるようにして立ち上がる。


「姫様に発言は求めておりません! 座りなさい!」

 隣に控える男がぴしゃりと言い放つ。


 コイツらか。

 俺は姫の左右に立つ男を見る。


 一人は大柄で太った中年の男だ。口髭をいじりながら、尊大な態度で俺たちを見下している。


 もう一人は対照的にがりがりに痩せた神経質そうな男だ。法学書を抱えながら、挙動不審な様子であたりをキョロキョロと見渡している。


「我がエルトリア王国右大臣のベルマンテ公である」

 まず太った男が口を開く。


「私が左大臣のへクソン侯である」

 痩せた男がそれに続く。


「アレクといったな。貴様にある嫌疑がかけられておる。心当たりはあるか?」


「ありません」

 ベルマンテ公の問いに俺は即答する。


「ふん、なるほど。態度のでかさは『宰相級』という訳か。ではワシが教えてやろう」


「貴様は先ほど、盗賊団と結託し、姫を襲わせ、自らが救ったように演出したのだ。まんまと引っかかった我らが君主が、貴様を『宰相にする』と約束してしまった。詐欺師の疑いがある」

 ベルマンテ公はわざとらしくため息をつく。椅子の上でシルヴィが涙目で震えている。


 こいつは予想以上だ。シルヴィから「ひどい」と聞いていたがまさかこれほどとは。

 とても法治国家の体をなしていない。魔王も真っ青な人民裁判が繰り広げられている。


「全くの濡れ衣です」

 俺は反論を試みる。


「言い訳無用!」

 へクソン侯が鋭く言い放つ。


「アレク様に対しなんと無礼な!」

 ルナが激昂して叫ぶ。


「待つんだルナ。それで、私はどのような処罰を受けるのでしょうか?」

 俺はルナを制止しつつ、あくまでも紳士的に応対する。


「詐欺師アレクを虚言の大罪で打ち首に処す!」

 ベルマンテ公が大きな声で言い放つ。


 やれやれ、保身的かつ利己的な連中の考えそうな手だ。

「得体のしれないものは排除するに限る」といったところだろう。


 さて、どうやって乗り切ろうか。


 正直、ここで魔王の力を開放すれば、鎖など簡単に引きちぎれるし、目の前の愚かな貴族たちを蒸発させることも赤子の手をひねるよりたやすい。


 しかし、それでは間違いなくエルトリア王国を追われることになる。


 むろん、俺とルナだけならこの国から逃亡するのは造作もないことだが、それではシルヴィとの約束を破ることになってしまう。


 彼女の愛する国を立て直すために宰相を引き受けたのに、何にもせずに逃げ出してしまっては、もう二度とシルヴィに合わせる顔がない。


「沙汰は以上だ。二人を連れていけ!」

 へクソン侯が兵たちに指示を出す。


「お待ちください。ベルマンテ公、へクソン侯。ご提案があります」

 俺は大きな声で貴族たちに呼びかける。


「私の容疑は判りました。盗賊団と結託し、わざと姫を襲わせ、助けたふりをしたとのことですね。では、その容疑が間違いであると証明して見せましょう」


「ほぅ? どうやって?」

 半分はバカにしただけだろうが、ベルマンテ公が食いついた。チャンスだ。


「この容疑は、私と盗賊団の間に『つながり』がなければ成立しません。なので私は、盗賊団とのつながりがないことを証明します。例えば盗賊団の首領を捕らえ、ここに引き連れてくるのはいかがでしょうか? いくら盗賊団が私と協力関係にあったとしても、そのために首領の首を差し出すような真似はしないでしょう」


 さぁ、どうでるか?


「ばかばかしい。どうせ下っ端か何かのニセの首を差し出して、盗賊団の首領の首といつわるであろう」

 へクソン侯がヤレヤレといった様子で首を振る。


「では盗賊団を『壊滅させる』というのはいかがでしょうか? それならば皆さまから見ても客観的に判断できるし、それこそ私に協力するために盗賊団を解散することはないでしょう」


「それはそうだ。だが、我々が貴様を開放すれば、貴様は盗賊団を討伐せずに逃げてしまうかもしれんぞ?」

 ベルマンテ公がニヤニヤと笑いながら懸念を伝える。


「では、私が身代わりになりましょう。アレク様が盗賊団を壊滅させて戻ってくるまで、私が捕虜として城に残ります。もしアレク様が逃げてしまったなら、私が身代わりに罪をかぶりましょう」


 ルナが助け舟を出してくれる。


「ほぅ」

 ベルマンテ公の目つきが変わった。


 鎖につながれた赤い髪の美しい従者の胸や腰のあたりを、ねっとりと、舐めるように見ている。


「し、しかし……」

 へクソン侯はなおも納得できないという様子で爪を噛む。


「少なくとも、我が国にとってメリットはあっても、デメリットはない話じゃ」

 突然聞き覚えのない声が話に割り込んできた。


 玉座の脇から腰の曲がった老人が出てきた。


「ワシはウォーレンと申します。アレク殿といったかな? まずは姫を助けていただき、ありがとうございました」


 ウォーレン氏はそういって深々と頭を下げる。

 どうやら少しは話ができる人物のようだ。


「さて、おぬしの提案にワシは賛成させてもらうよ。先ほども言ったように、我が国にデメリットはない」


「もし、彼が逃げ出したり盗賊団に討たれたりしても、我が国としては詐欺の被害を未然に防ぐことができる結果になるし、仮に本当に盗賊団を打ち倒すことができたなら、それほどの豪傑、弱小国家の我が国としてはぜひとも受け入れたい人材ということになるじゃろう」


「ぬぬ」


「確かにウォーレン伯のおっしゃる通りだ」

 へクソン侯はまだ不満そうだったが、ベルマンテ公は完全に落ちたようだ。


 大きな声で宣言する。


「よかろう! では、詐欺罪の容疑者アレクに3日の猶予を与える。一人で見事盗賊団を壊滅させて見せよ!」


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