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第27話 魔王様、美人秘書を雇う①

 コンコンコン

 ドアをノックする音が聞こえる。


「アレク様、準備できましたか? そろそろ時間ですよ」

 従者のルナの声が聞こえる。


「あぁ、今行くよ」

 俺はそう言って自室のドアを開ける。


 今日は第4歴1298年12月1日。


「クレイド平原の戦い」の戦勝記念式典の日だ。

 今日は待ちに待った待望の日でもある。


 なぜなら……。






「それでは、アレク殿を正式にエルトリア王国の『宰相』に任命します」

 シルヴィア姫が高らかに宣言する。


 会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こる。


 先の「クレイド平原の戦い」の戦勝により、ついに俺に「正式な」エルトリア王国宰相の地位が与えられたのだ。


 今までの俺は、自称・・、宰相に過ぎず、あくまでシルヴィの個人的な相談役に過ぎなかったのだ。


 だが、今回宰相の任を正式に賜ったことで、名実ともにエルトリア王国の最高文官となったのだ。


 この地位は、かつてのベルマンテ公、へクソン侯が歴任していた右大臣・左大臣よりも上の位で、前王の死後長らく空座となっていた。(前王の生前はウォーレン伯がこの地位にあった)


 正式な宰相となったこと、および「大貴族派」という政敵を完全に駆逐したことで、今後はより迅速に、かつ直接的に国内の問題に取り組むことができるだろう。


 続けて、王女派の重鎮たちの爵位が昇格する。


 前王の時代からエルトリア王家に変わらぬ忠誠を誓っている老臣、ウォーレン伯が侯爵に。


 良識派で穏健な、王女派の要。モントロス子爵が伯爵に。

 正義感にあふれる青年貴族。アルマンド男爵が子爵に。


 それぞれ爵位を上げた。


 さらにウォーレン侯、モントロス伯はそれぞれ右大臣、左大臣を歴任することとなった。


 バーク街道の戦い以降に加入した後期加入組、カスティーリョ伯とブレンハイム子爵は爵位の昇進はなかったものの、それぞれ財務大臣、国土交通大臣の地位に就任した。






「アレク様。改めまして、これからもよろしくお願いいたします。」

 式典後、控室に戻った俺のところにシルヴィが訪ねてくる。


「こちらこそ、改めてよろしく!」

 俺はシルヴィと握手を交わす。


 そう、ようやく国内の統一が成っただけで、実際のところ問題はまだまだ山積みだ。


 二毛作の成功で、少し経済が潤っているとはいえ、依然としてエルトリア王国が六国中「最弱最小」である点に変わりはない。


 軍の方も、まだまだ発展途上だ。

 騎馬隊と弓兵隊を早急に仕上げなければ、今回の「クレイド平原の戦い」のような奇策はそう何度も使えるものではない。


 戦場から逃亡したへクソン侯の方も気がかりだ。

 早急に指名手配をしたが、いまだに捕まったとの報告はない。


 そして、目下緊急かつ最重要課題は、「メルベル牧場の復旧」だ。


 バーノン氏とパメラさん親子には、国からの正式な謝罪と、国庫から補償金が支給された。

 現在牧場施設の立て直しは急ピッチで進んでいる。


 だが、「ほぼ皆殺し」にされてしまった家畜を再度飼育するのは非常に大変だし、どうしても時間がかかることだ。


 それに、お金では解決できない問題もある。


 幼いころから大切に育ててきた動物たちを皆殺しにされたのだ。


 パメラさんの心労は想像を絶するものだろう。






 ガチャッ。


「あ、アレクさんだぁ。こんにちは。また来ちゃいましたぁ~」

 俺が自室に戻ると、パメラさんが部屋に尋ねてきていた。


 彼女は、例の事件後よく俺の部屋に尋ねてくるようになった。

 精神的なショックから、まだ牧場には一度も帰ることができていない。


 エルトリア城で「心の傷を癒す」療養の最中だ。


「やぁ、いらっしゃい。座ってて。飲み物は紅茶でいいかい?」

「ありがとうございますぅ。いただきますねぇ」


 何をするでもない、お茶を飲みながら、他愛のない話をする。ただそれだけだ。

 だが、それで少しでも彼女の気がまぎれるなら、それはとても「意味のある事」だ。



「はぅぅ。温まりますねぇ」

 彼女は俺が淹れた紅茶を飲みながらそんなことを呟く。


 今日から12月だ。

 今朝は雪もちらつき、まもなく本格的に寒くなってくるだろう。


「アレクさん、私ねぇ、お城のお仕事を少しだけお手伝いさせていただくことにしようかなって考えてます」

 彼女が俺に話す。


「ずっとふさぎ込んでいると、やっぱりどうしても滅入ってきちゃうので、少しでも気を紛らわせたくて」


 あぁ、それは良い。

 こういう時に一番良くないのは「ふさぎ込んでしまう」ことだ。


 体を動かしたり、何か熱中できるものがあれば、絶対にそっちの方がいい。


「でも、無理はしちゃだめだよ。時間をかけてゆっくり立ち直ればいいんだから」

「ありがとうございますぅ」


 彼女は少しだけほほ笑んだ。


「あの、それで、お手伝いの内容なんですけど……」

 彼女は少しだけ頬を紅潮させ、もじもじしている。


「もし良ければ、アレクさんの『秘書』を務めさせていただけないかなぁと」


「秘書?」

 彼女の提案に一瞬驚く。


「アレクさんも、正式に王国の『宰相様』になられたわけですし、『秘書』の一人ぐらい欲しいのではと……」

 彼女は上目遣いでそんな提案をしてくる。


 秘書……。


 最初は唐突で驚いたが、まぁ、でも「有り」かもしれないなぁ。


 パメラさんの言う通り、正式に宰相になったのだから、秘書官の一人ぐらい雇ってもバチは当たらないはずだ。


 それに俺の私設秘書ということなら、まだまだ傷心の彼女にとって、そんなに負担にならないように仕事の量をコントロールしてあげることも十分可能だ。


「ありがとう。ぜひ、お願いしたいな!」


「ほんとですかぁ。やったぁ!」

 彼女は飛び上がって喜ぶ。


「えっと、じゃあ、よろしくお願いします。宰相閣下!」


「いや、いままで通り『アレクさん』でいいよ。俺もこれまで通り『パメラさん』って呼ぶから」


「そ、そうですか? じゃあよろしくお願いします。アレクさん」


 12月1日。

 こうして俺はエルトリア王国の正式な宰相となり、さらにその日に「美人秘書」パメラさんが就くこととなった……。






 爵位について

 作中の爵位は、上からざっくりこんな感じです。


 公爵→侯爵→伯爵→子爵→男爵→騎士爵(準貴族)


 ちなみに、「宰相」というのは爵位ではなく「政治的な役職」です。

 立ち位置的には「内閣総理大臣」あるいは「首相」といったポジションとほぼ同義になります。


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