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第23話 クレイド平原の戦い③

 11月16日。深夜。エルトリア城。大会議室。


 外では冷たい木枯らしが吹き荒れ、強風が窓枠をガタガタと揺らしている。


 室内にはシルヴィア王女、宰相アレク。

 文官のウォーレン伯、モントロス子爵、アルマンド男爵、カスティーリョ伯、ブレンハイム子爵。


 武官のルナリエ、グレゴリー卿、ナユタ、ダイルン。


 王女派の主なメンバーの全員が集結していた。

 間もなく「その時」が訪れるからだ。


 ボーン、ボーン、ボーン……。

 午前0時を告げる鐘が時計塔から鳴り響くのが聞こえる。


「交渉は……決裂しました」

 深いため息とともに、ウォーレン伯が呟く。


「11月16日までにベルマンテ公、へクソン侯の身柄を引き渡せ」

 王女派の設定した期日までに、大貴族派が要求に答えなかったからだ。


 ここからは、「武官」の仕事だ。


「ルナ、準備は?」

「すべて、万事整っております。誘導灯の設置も完了しております」


 11月16日までは交渉期間だ。例え「間違いなく決裂する」と頭の中では思っていたとしても、その期間中に行軍を開始すれば、それは「交戦協定違反」だ。


 なので、日付が変わった瞬間から行軍を開始することになる。


 エルトリア城からクレイド平原までは、さほどの距離はない。

 今から行軍を開始すれば18日の昼前には到着するだろう。


「皆さま、どうかご無事で。女神メアリ様のご加護があらんことを」

 シルヴィア姫が震える声で、しかしはっきりと告げる。


 本当は戦いたくないのだろう。憎き大貴族派が相手とはいえ、エルトリア王国同士で殺しあうのだから。


 だが、もはや戦闘は不可避だ。


「アレク様……」

 彼女は泣きそうだ。


「大丈夫だよシルヴィ、必ず『君の愛したエルトリア王国』を取り返してくる」

 アレクはそんなシルヴィを抱き寄せて、はっきりと告げた。







 コツコツコツ……。

 石造りの廊下に「魔王」の足音が響き渡る。


 シルヴィア姫には奥の部屋に下がってもらっている。

 いずれは彼女も知らなければならないが、今はまだダメだ。


 なぜならここから先は、「戦争」だ。


 一切の情け無用。


 殺したくない? 相手がかわいそう?

 そんな甘えが通用するような世界ではないのだ。




 生き残りたくば修羅と成れ!




「うぉおおおおおおおおお!!!!」


 魔王アレクがエルトリア城のバルコニーに姿を現すと、眼下に集まった数千の兵たちから大歓声が上がった。


 二度、低く角笛の音が鳴ると、それを合図に歓声がピタリとやむ。


 まごうことなき本物の、「魔王」の演説が始まる。




「大貴族たちは、愚かにも『滅びの道』を選んだ」


「彼らはもはや『エルトリアの同胞』ではない。ただの『屠るべき敵』だ」


「連中の望み通り、我らは古き血を滅ぼす『死神』となろう」


「敵には一片の慈悲も必要ない。ためらうな! 戸惑うな! 情けをかけるな!」


「奴らの穢れた古き血で、『クレイド平原』を朱く染めよ!」


「戦争だ!!」




「うぉおおおおおおおおお!!!!」

 地鳴りのような大歓声とともに、巨大な戦太鼓が3回、腹に響くような爆音で鳴り響く。


 出陣の合図だ!


「第一大隊! 前へ!」





 響き渡る太鼓の音とともに、真夜中の行軍が開始される。

 燃え盛る赤いたいまつに照らされる不気味な軍隊。


 剣や槍が、かがり火の光を受けて鈍く光る。

 無言で行軍する兵士たちの眼光は鋭く、まるで獣のようだ。


 質実剛健であり、屈強であり、従順な兵士たち。

 彼らが身にまとう剣や鎧も、シンプルで派手さはないが、頑丈で信頼のできるものだ。


 繊細で美しい彫刻が施された鎧を身にまとい、女の子から黄色い歓声を受ける「王子様」が率いる可憐な騎士団。


……などとはまさに真逆の存在。


 漆黒の闇の中を行くその軍隊は、まさに「魔王の軍」そのものであった。






 11月17日。夜。エルトリア軍王女派(シルヴィア私兵隊)本陣。

 本日の行軍は終了し、これから夜営に入るところだ。


 季節は初冬の11月中ほど。

 吐く息が白く凍り、刺すような寒さが行軍中の部隊を襲う。


 予定では、明日の昼頃「クレイド平原」に到着するはずだ。


 来る明日の決戦に備えて、これから本陣天幕にて、最後の作戦会議が予定されている。

 本陣天幕にはすでに、グレゴリー卿、小隊長ダイルン、ナユタが集まっている。

 

 バサッ。


 本陣天幕の奥、「総大将の寝室・・」から大将のアレクと副長のルナリエが出てきた。


 若い男女が寝室で、「例のアレ」でもしていたのだろうか? 副長は耳まで真っ赤だ。


「みんな揃ったかな? 早速始めよう」

 アレクは何事もなかったように大きな机に「クレイド平原」の地図を広げ、状況を開始する。


「『商業ギルド』から届いた『例のモノ』、さっそく兵たちに使い方を伝授しております」

 小隊長のダイルンが報告する。


「職人ギルドが作成した『アレ』に関しても、設置の段取りは万全です」


「ご苦労」

 アレクが報告を受け取る。


「このままのペースでは『クレイド平原』には『大貴族派』が先に到着しそうです。『地の利』を失ってしまいます。明日は相当早い時間に進軍を開始しなければ……」

 グレゴリー卿が続けて報告する。


 距離の関係で、クレイド平原には大貴族派が先に到着する可能性が高いらしい。

 戦場において、先に有利な地形を抑えられてしまうのは望ましくない。


 だが……。


「いや、そんなに焦る必要もないさ。明日は通常通り、日が出てから進軍を開始しよう」

 アレクは予想外の返答を口にした。


「し、しかし!」


「大丈夫だよ。俺に考えがある。今日は寒いから、兵たちにはしっかり暖を取らせるように。俺はもう寝るから、君たちも今日は早めに切り上げてくれ」


「おいで、ルナ。続き(・・)をしようか」


「ひゃ、ひゃい!?」

 雷に打たれたようにビクりと反応したルナは、そのままアレクに連れられて、寝室・・へと戻っていった。


「る、ルナリエ副長、なんかあったんすか?」

「大人になりゃあわかるさ」


 ナユタの問いに、大人の男(・・・・)として答える小隊長のダイルン殿であった。



※ 寝室でしていた「例のアレ」とは「頭ナデナデ」のことです。

  け、決して「いかがわしいこと」はしていない……はずです……多分。




 兵科(ユニット)紹介④


 軽装騎馬隊


 エルトリア王国含む中央六国で広く採用されている兵科。

 完全武装した重装騎馬隊に比べ、比較的軽量なプレートのみを防具として装備し、機動力を失わないように配慮された騎馬隊である。装備が軽いため、アルドニア種のような比較的小柄な馬でも十分に編成可能(とはいえさすがに、それよりもさらに小柄な「山岳種」で騎馬隊を編成することはほとんどない)


突撃力では重装騎馬隊に大きく劣る反面、俊敏性や小回りの利く機動性に関しては、軽装騎馬隊の方が圧倒的に上。


 また、配備コストや育成の手間も、若干ではあるが重装騎馬隊よりも「お手頃」である。


 主として重装騎馬隊の補助、あるいは敵歩兵隊への牽制。もしくはその機動力を生かして敵を包囲殲滅する際に利用されることが多い。どちらかというとサポート向けの兵科。


 しかし、主にタイネーブ騎士団領などで運用される、「ランス」と呼ばれる円錐状の巨大な槍を装備した軽装騎馬隊を、特に区別して「槍騎兵(ランサー)隊」と呼ぶことがある。これは軽装騎馬隊の身軽さと、重装騎馬隊並みの攻撃力を併せ持つ非常に強力な部隊である。


 ハルバード、メイス、弓矢など、装備する武器によっても全く運用方法が異なってくるため、工夫次第で戦術の幅がどれだけでも広がる、「運用のし甲斐」がある兵科である。


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