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第16話 魔王様、騎馬隊を組織する①

「お馬さんですかぁ~。もちろんうちの牧場にはたくさんいますよぉ」

 パメラさんが、いつものんびりとした口調で俺たちに告げる。


「ありがとうございます。少し厩舎をみせていただいてもよろしいですか?」






―― 遡ること3日前。


「アレク様、基礎訓練の方は極めて順調です。そろそろ兵たちの適正に合わせて、兵科(ユニット)を振り分けていきたいと思います」


 バルマ砦を訪れた俺にルナが告げる。


 シルヴィア私兵隊は現在2000人ほどの規模にまで拡張された。


 そのうち、最初期に加入した1000(正確にはバーク街道の戦いで少し数を減らしたので800)はすでに基礎訓練の方は十分に仕上がってきた。


 そこで現在、彼らに関しては「適正」を見る訓練に移行させている。

 乗馬訓練をさせてみたり、弓矢の訓練をさせてみたりといった具合だ。


 当たり前のことだが、いくら歩兵隊が強くてもそれだけでは戦争には勝てない。


 戦争に勝つには、様々な兵科をバランスよく組織する必要がある。


 具体的には、軍隊の基礎となる歩兵隊。

 機動力で敵を翻弄し、かつ決戦部隊として敵陣へ強硬突撃を図る騎馬隊。

 敵の射程外から一方的に攻撃可能な弓兵隊。


 これらはどんな軍隊にも必須の兵科となる。(実際は歩兵でも軽装歩兵・重装歩兵・突撃歩兵など更に細かく特徴ごとに分類していくため、実戦ではもっと細分化された兵科単位で運用する。なのでここでいう兵科とはあくまで大雑把な分類だ)


 まずは最低でも歩兵隊・騎馬隊・弓兵隊ぐらいは揃えたいところだ。

(欲を言えば魔道兵も欲しいところだが、これは「生まれながらの素質」と「魔道学校での鍛錬」が必要であり、魔導士の数自体が少ないため、貴重な兵科となる。素人をどれだけ鍛えてみたところで、この兵科に関してはどうしようもない)


 そして、「四大勢力」に関して言えば、さらに勢力ごとに非常に強力な「特殊な兵科」を運用できる。


 神聖メアリ教国なら天使兵や神官兵。


 魔王国バルナシア帝国ならハイオーク歩兵団や飛竜騎士団(ワイバーンナイト)などの各種魔族部隊。


 死者の国アモンドゥール帝国ならゾンビ兵や死霊兵など。


 といった具合だ。


 まぁ、「中央六国(ちゅうおうりっこく)」でこれらの兵科を運用することは不可能なので、とりあえずは置いておく。


 よって、今から揃えたいのは騎馬隊と弓兵隊だ。

 だが、これらの兵科は歩兵に比べ特殊な技術が必要なため、どうしても育成に時間がかかる。


 特に騎馬隊は、そもそも「馬」がいなければ訓練すらできない。

 そんなわけで、まずは騎馬隊用に馬を確保すべく、メルベル牧場を訪れたという訳だ。


「あぁ~ アレクさんだ。いらっしゃい。今日はアンナさんはご一緒じゃないんですかぁ?」

 顔を出すと、ちょうど牛乳缶を運んでいたパメラさんが俺に声をかけてきた。


 ちなみにアンナというのは、以前お忍びで牧場を訪問した際にシルヴィが名乗った偽名だ。


「やや、アレク殿。まさか名高い『シルヴィア私兵隊』の隊長だったとは! 今日はどのようなご用向きで?」


 パメラさんの父親バーノン氏もぺこぺこと頭を下げながら事務所から出てきた。俺がシルヴィア私兵団の隊長であることは先の戦勝の際に街頭パレードもあったため、方々に知れ渡ってしまったようだ。


「私兵隊で『騎馬隊』の運用を検討しておりまして、こちらで馬を用立ててもらえないかと思い、お伺いしました」


「さすが隊長殿! お目が高い! うちは代々『エルトリア王国騎士団』御用達の馬たちを育成しております」

 バーノン氏が俺に答える。


 それはいい。きっといい馬が見つかるはずだ。


「ただ、すみません。私がこれから用事で外出しないといけないもので……。おい、パメラ! アレク殿に厩舎をご案内して差し上げなさい」


「は~い。お父さん」


 という訳で、冒頭のやり取りに続くわけだ。


「お馬さんはどんな用途で必要になりますかぁ~? 荷馬ですか? 馬車馬ですか?」


「いえ、メインでほしいのは騎馬隊用の『軍馬』です」

 俺はパメラさんに答える。


「そうすると、六国で一番いいのは『タイネーブ種』ですねぇ。体格が大きくて、力も強くて勇敢な品種なので」


「手に入りますか?」


「交雑した雑種ならウチにも少しはいますけど、数をそろえるとなると……。あれは『タイネーブ騎士団領』の血統種なのでぇ」

 さすがパメラさん。メチャクチャ詳しい。


 騎馬隊用の軍馬として世界で最も優れた品種は、「砂漠の馬」だ。

 これは南方異民族地域を原産とする品種で、ダルタ人にとってはまさに「魂」といえるべき大切な存在だ。


 彼らは「砂漠の馬」の血統を極めて厳格に管理し、決して国外には流出させない。

「ムンドゥール族」などの下部組織の部族たちにすら貸与を許していない。


 もしこれを許可なく国外に持ち出すだけで、「一族全員八つ裂きの刑」になるほどの重罪に問われる。


 彼らダルタ人にとって、「砂漠の馬」とはそれほどに重要な「戦略的資源」なのである。


 よって、ダルタ人以外の勢力にとって「砂漠の馬」はまさに幻の品種であり、ごくまれにダルタ人侵攻時に偶然生きた状態で手に入ることがあるが、血統を維持した状態で繁殖・量産することは不可能である。


 そこで、次点で名前が挙がるのが、タイネーブ種である。

 これは中央六国の一国「タイネーブ騎士団領」あたりを原産とする品種である。


 砂漠の馬ほどではないが、体格が良く勇敢な品種で、軍馬として世界中で評価が高い。


「タイネーブ騎士団領から輸出される軍馬は、たいていが去勢された牡馬(おうま)でぇ、騎士団領にとっては重要な輸出商品なんですよ」

 パメラさんが言う。


 な、なぜ俺の股間のあたりをじっと見ているのだろうか……。





 そ、それはともかく、要は「砂漠の馬」程ではないが、タイネーブ種も結構厳密に管理がされており、他国でそう簡単に繁殖できるものではないということだ。


 ただ、「砂漠の馬」ほど門外不出という訳ではなく、場合によっては繁殖用に輸出されるケースもあるようだ。


 その場合、一頭当たりの値段は目玉が飛び出るほど高いが……。


 メルベル牧場でも、いろんな「つて」から入手した雑種が少しいる程度だ。


「そうなるとやっぱり、『アルドニア種』あたりが無難ですねぇ。ちょっと小柄で憶病な子が多いですが、この辺では一番簡単に手に入りますからぁ」


 まぁ順当に考えればそうなるな。軍馬から荷馬、馬車馬から農耕馬としてまで広く運用されている品種だ。


 理想はタイネーブ種のみで騎馬隊を構成したいところだが、それだと非常に金がかかるので、どこの軍隊でも結局は足りない分をアルドニア種で補っているケースがほとんどだ。


「数は揃えそうですか?」


「うちの牧場だと、今はアルドニア種が全部で500頭ぐらいですねぇ。前王がお亡くなりになる前は、王国騎士団の軍馬の育成と調教もうちの牧場で行っていたので、タイネーブ種も結構いたんですが、騎士団解体と同時に軍馬も貴族たちに没収されてしまったのでぇ」


「ほかには『山岳種』といってずんぐりむっくりした小さい馬が300頭ほど、あとは雑種の子がちらほらといった感じですぅ」


 パメラさんがふぅとため息をつく。


 うーむ困ったな。もちろん理想を言えばタイネーブ種だが、少なくとも予備も含めてアルドニア種を1000頭ぐらいは確保したかったところだが、これでは全然足りない。


 さてどうしたものか……。





「とりあえず、アルドニア種500と、山岳種300をいただけますか?」

 少し悩んだ末、俺はパメラさんに軍馬の発注を依頼した。


「いいんですかぁ?」

 パメラさんが少し驚いた声を上げる。


 山岳種は険しい山間部を原産とする品種で、アルドニア種よりさらに小柄でずんぐりしており脚が短い。


 山間部で育ったため足腰が強く荷馬としては好まれるが、軍馬として運用することは極めて難しい。


 だが、俺は山岳種も購入することにしたのだ。







 こんばんは。モカ亭です。

 いつもお読みいただき、また沢山の評価・ブックマークを頂き、誠にありがとうございます。この場を借りて御礼申し上げます。


 さて、今後の方向性ですが、あと数回「内政パート」の話があってから、再び「戦争パート」に突入する予定です。(話数としてはいまのところ第21話から戦争パートに入る予定です)


 戦争篇をお待ちいただいている皆様、申し訳ございませんが、あと数話お待ちください。


 今後とも、追放魔王をよろしくお願いいたします。


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