表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/119

第6話 魔王様、軍の連携を強化する①

 エルトリア城の東に、バルマ砦という城塞がある。


 かつては盗賊団の根城となっていたこともあったが、アレクが宰相となって以来、この砦は、かつてのシルヴィア私兵隊、そして規模が大きくなったエルトリア軍の駐屯基地として現在でも王都圏の防衛を担っている。


 エルトリア軍の規模が百人単位、千人単位、万人単位となるにつれ、この砦も拡張工事を繰り返し、規模と防御力を増大させている。


 そのバルマ砦に最近増築された、士官向けの高級サロンに、エルトリア軍の隊長や副長クラスが集まり、ウィスキーグラスを片手に談笑していた。


「しかしまさか、魔族と共闘する日がこようとは思わなんだな」


 第1軍副長、オルデンハルト卿が神妙な面持ちで呟く。


 彼はかつて、シルヴィを筆頭とする王女派とベルマンテ公を筆頭とする大貴族派が激突した内紛「クレイド平原の戦い」の際に、大貴族派の将校であった男だ。


 その後の「メルリッツ峠の戦い」にてエルトリア軍に協力し、その功績を認められて、現在の地位を得ている。


「どうだ、正直なところ、現場に混乱はないか?」


 そう問いかけるのは、第1軍隊長のグレゴリー卿だ。


 現在のエルトリア軍の中で唯一、先代の国王エルドールⅢ世の時代から王国に仕える生え抜きの騎士だ。


 オルデンハルト卿とグレゴリー卿は、本土防衛の任務を受けてエルトリア王国に残ったため、先の神聖十字軍には参戦していない。


「正直なところ、戸惑い(・・・)はあります」


 第5軍隊長、ガロン弟が答える。彼は兄とともにタイネーブ騎士団領より傭兵としてやってきて、エルトリア軍に加入した人物だ。


 エルトリア王国にやってくる前は、魔王国に近いタイネーブ騎士団領で、オークやケンタウロスなどの魔族と戦ってきたのだ。


 昨日まで戦ってきた敵と、そう簡単に仲良くできるものでもなかろう。


「しかし、我々は軍人。総司令官のアレク殿が命じられるなら、それに従うのみだ」


「武人としての建前は置いといて、お前さんの本音はどうなんだ?」


 第4軍隊長、ワルター=ダビッツが問いかける。


「……」


 ワルターの問いかけに、無言で渋い顔をするガロン弟。


 第3軍の隊長であったガロン兄は、先の神聖十字軍の遠征にて、魔王ロドムスに殺されたのだ。


 魔王ロドムス率いる魔王国の魔族と、アレクを頼ってエルトリア王国に亡命してきた魔族が、別物であることは「理性」では理解しているつもりだ。


 だが「感情」が、必ずしもそれを受け付けるとは限らない。


「そういう貴公はどうなのだ? 貴公は『元勇者』なのだろう?」


 今度はガロン弟がワルターに問いかける。


 ワルター=ダビッツは神聖メアリ教国の元「光の勇者」だ。


「光の勇者」は必ず「光の巫女」と二人一組でペアになり、どちらか片方を失った場合、その時点で魔剣を封印する資格を失ってしまう。(※第75話参照)


 ワルターは自らを、「元」勇者だと名乗っている。そして、彼のパートナーたる「光の巫女」についての話は、同僚の将官たちも聞いたことがない。


 もしかして、彼のパートナーは魔族によって……。


「チッ、若造がくだらねぇ詮索するんじゃねぇよ」


 ワルターがあからさまに不機嫌そうな様子で吐き捨てるように呟く。


「ま、まぁ、ともかく、新規加入の魔族部隊と人間部隊の間に、軋轢があることは分かった、これは何とかせねばらなんでしょうな」


 第2軍隊長のダイルンが慌てて話題を戻す。


「そうだなぁ~。みんなで仲良くやらないとなぁ」


 第5軍副長のモームがのんびりとした口調で意見を述べる。


「俺はケルン公国の田舎もんだから、ダルタ人は恐ろしい奴だと聞かされて育ったけど、ナユタはすげぇいい奴で驚いたなぁ」


 巨大な体躯にのんびりした口調で、どうしても鈍重な印象を受けるこのケルン公国の田舎者は、中々どうして、(本人としては無意識なのだろうが)核心をついた発言をする。







「……。ということがありましてな」


 翌日、ダイルンが俺に、一連のやり取りを報告してくれた。


「なるほど」


 正直、兵たちの「本音」を聞けるのはありがたい。


 俺やルナが直接隊長たちに聞いても、引き出すことができない貴重な意見だ。


 魔族部隊と人間部隊を分離して運用するのは、合理的ではあるが、いつまでたっても相互理解にはつながらない。


 とはいえ、部隊をバラバラにして、例えば人間の歩兵、オーク、飛竜の混成部隊を作ってみたところで、使い勝手は悪すぎる。


 さて、どうしたものかな……。


「ありがとう、ダイルン。少し検討してみるよ」


 俺はダイルンの意見を受けて、魔族部隊と人間部隊の連携を高める方法について、検討を始めるのであった。




※士官サロンには第2軍副長のナユタだけ参加していませんでした。未成年だからね(笑)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ