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第110話 魔王様、亡命者を受け入れる①

 第4歴1300年4月1日。


 エルトリア王国より全世界に向けて、ある発信がなされた。


 すなわち、かの国にいる「宰相アレク」こそが、現在でも唯一の正当な魔王であり、ヴァルナシア帝国に君臨するロドムス派は、偽りの魔王を崇める詐欺師集団である。


 今こそ、真の魔王であるアレクの元に集い、逆賊ロドムスを討ち、魔王国に真の平和と秩序を取り戻すべし。


 といった内容のものであった。







 これに対して魔王国は……。


「断じて許せん! 即刻開戦だ! あんな弱小国家、叩き潰して終わりだ!!」


 魔王軍参謀長、シーアが激怒して机を叩く。


「……。それで、魔王ロドムス様の御意見は?」


 ダンタリオンはシーアの怒りを丁重に無視し、改めて今後の方針を尋ねる。


「ロドムス様は前魔王との一騎打ちで深手を負われ、現在療養中だ」


 シーアが答える。


「故に、私が軍部の全権を預かっている」


「……。この時期の遠征には反対です」


 ダンタリオンがシーアに異論を唱える。


「何?」


「神聖十字軍の遠征が終わり、イザベラは南方のガドガン海峡方面に、ジオルガは中央部のイカルガ城塞に、それぞれ戻しております。彼らを再び招集し、大軍を興すにはそれなりの時を必要とします」


「あんな弱小国家、我が精強な魔王軍をもってすれば、10万もあれば容易に叩き潰せるだろうが!」


「懸念事項は他にもあります。前魔王はロドムス様に対する決起を呼びかけました。このことが何を意味するかお分かりですか?」


「……なんだ?」


「現在魔王国は表面的にはロドムス様が統一しておりますが、世論は前魔王派と新魔王派に二分されています」


「だから前魔王を叩き潰して、早急に国内の意思を統一せよといっているではないか」


「前魔王を討つべく大軍を発した場合、国内の旧魔王派が一斉蜂起する危険性があります。彼らが、がら空きになった帝都エルダーガルムを制圧するのは、さほど難しくないでしょう」


「……」


「それよりは、軍を国内に残して、治安維持と、前魔王の元へ駆けつけようとする国外逃亡者の取り締まりに当たるべきです」


「さらに……」


「分かった! もういい」


 ダンタリオンの言葉を遮り、シーアは議論を終わらせる。


「貴公の意見は十分承知した。これからロドムス様に報告し、最終的な御意思を頂戴する」


「……」


 ダンタリオンは無言で頭を下げると、そのまま退出した。


 結局、ダンタリオンの提案は「消極的に過ぎる」との理由で却下され、中央六国に向けて、15万の軍が発せられることとなった。





 一方、エルトリア王国では……。


「魔王様、お会いできて光栄です!」


「ご無沙汰しております。逆臣ロドムスを討つお手伝いをさせてください」


 魔王国から、続々と亡命者たちが集まり始めていた。


 その中には、こんな人物も……。


「まさかあの時の『先遣隊』の将が魔王様であったとは、あの時は不覚を取りましたが、今度はそうはいきませんぞ」


 トラキウムの守備隊長であった人狼のニコライ=ウルフ将軍だ。


 彼は元々反ロドムス派の将であったがために、あのような辺境の閑職に追いやられていたようだ。


 獰猛で勇敢であり、かつ、状況を冷静に分析する判断力も備わった万能の将だ。


 本来は血みどろの乱戦が得意なタイプであり、トラキウムの守備隊長という職は、彼の性質からはあっていなかったともいえる。


 そして……。


「ハァ、ハァ、る、ルナリエお嬢様! ついにルナリエお嬢様とご一緒できるのですね。クロエは、クロエはこの日をどんなに待ち望んだことか!!」


 魔王国空軍(現在は格下げとなり、魔王国空挺師団であるが)のクロエ=フォーゲンリッターも正式にエルトリア王国に亡命した。


 これまではスパイ任務のようなことに従事してもらっていたが、ロドムスの監視も厳しくなる中、今後はそのような任務も難しくなるだろう。


 そうなる前に亡命したのは正解であったといえる。


 かつての魔王国空軍団長の四天王ルナと、副長のクロエを中核として、エルトリア空軍を編成できれば、他国に無い圧倒的な強みを得ることができるはずだ。


「やりましたね! アレク様、これで大幅に戦力は強化されるはずです!」


 ルナが嬉しそうに言う。


 確かに、魔王アレク、古の大魔であるヴァンデッタ、四天王ルナ、クロエ、ニコライ将軍といった面々がエルトリア軍に参列し、今後は正体を隠す必要もなく、「全力で」戦うことができるとなれば、この戦力増強は大きい。


 しかし、


「ルナ、亡命者、特に『軍人』の身元と思想を早急に洗い出してくれ」


「えっ?」


 予想外の指示に、ルナは少々混乱したようだ。


「この数だ。絶対に魔王国のスパイも紛れ込んでいる」


 スパイだけならまだしも、暗殺者まで紛れ込んでいたら非常に厄介だ。


 暗殺者がいたところで、俺やルナ、ヴァンデッタなどの強力な魔族の首を取ることは、もちろん早々できるものではない。


 が、もし暗殺者がシルヴィを狙ったらとんでもないことになる。


 そんな事態だけは、絶対に阻止しなければならない。


「わ、分かりました!」


 ルナは敬礼して、その場を立ち去る。


 さぁ、これからが大変だ。


 亡命者の住む場所、食料、仕事を用意しなければならないし、それに何より重要なことは、元々エルトリア王国に住んでいた住人達との軋轢を生まないように配慮することだ。


 往々にして、移住者を受け入れる場合には、この種の問題が必ず付きまとう。


「あいつらに職を奪われた」「あいつらのせいで国がおかしくなった」


 エルトリア王国が排外主義に陥らないためにも、「屈強な魔王軍が国内にいることで、エルトリア王国の安全が保たれている」ことを国民に理解してもらう必要がある。


 さて、忙しくなるぞ。


 俺は気合を入れなおし、執務室に戻ることにした。


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