表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/119

第106話 熱砂の皇帝と死者の王

 第111次神聖十字軍。


 「ソレ」の発令以前は、どこの勢力も、今回の遠征に誰も期待などしていなかった。


 せいぜいいつも通り、神聖十字軍が魔王国の領土を若干削り取って、追い返されてくるのが「落ち」だろうと思っていたのだ。


 だが、終わってみれば、結果は、世界を激震させるものであった。


 世界が衝撃を受けた内容は2つ。


 1つは、神聖十字軍の歴史的大敗。


 今回の神聖十字軍の被害は以下のとおりであった。



 戦闘報告


 神聖十字軍 兵力44万5千 総大将ジュリアン=サラザール


 死者・行方不明者21万9千名。

  死者内訳(右の括弧書きは戦争開始前兵力) 

   メアリ教国8万(20万)

   アルドニア王国11万2千(12万)

   ユードラント共和国3千(5万)

   タイネーブ騎士団領1万(3万)

   ケルン公国7千(2万)

   シーレーン皇国5千(1万5千)

   エルトリア王国2千(1万)


 死亡将校一覧

  アルドニア王国総大将 ハミルトン大将軍

  アルドニア王国副将 ブライス将軍

  タイネーブ騎士団領副将 マホイヤ卿

  シーレーン皇国副将 大賢者クレイオン


  その他、メアリ教国のフロル守備隊長カルボーネ司祭、アルドニア王国の十将クラスなど、

 各国の武将クラスにも甚大な被害発生。(エルトリア軍の場合は、第3軍隊長ガロンおよび第4軍

 副長のウィルソンが戦死した)


  これに対し、魔王国はフロルを壊滅され、8万の市民を虐殺されたものの、軍部にはさしたる被

 害がなかったのである。




 この報告は、メアリ教国および中央六国各国の首脳部を震え上がらせた。


 出陣した約半数近く、20万を超える兵が「帰らぬ人」となったのだ。


 この数字が国家の経済・農業・国防に今後与えるであろう影響を考えた時、各国の首脳部はようやく「こと」の重大さに気付いた。


 特に、アルドニア王国の被害は群を抜いて甚大であった。


 出陣した12万のうち、帰国できたのはわずか8千人。


さらに総司令官・副司令官の両名を失い、同国の「十将」と呼ばれる名将のうち5名を今回の神聖十字軍に参加させ、うち4名を喪失したのである。


 同国の大幅な弱体化は、もはや避けられないであろう。




 そして、もう一つの衝撃は、「2人の魔王」の出現である。


 死亡説もささやかれるようになっていた前魔王が、エルトリア王国という弱小国家に身を寄せていたらしい。


 この一報は、瞬く間に世界中を駆け巡った。


 しかも、エルトリア王国の国家元首シルヴィアは、魔王を「追放」するどころか、それと知っていて改めて、同国の「宰相」に任命したのである。


 これはつまり、エルトリア王国が神聖メアリ教国の「教え」に対して反旗を翻したことを意味する。


 各国との関係が悪化するのは、火を見るよりも明らかだ。


 こうして、第4歴1300年は、「激動」の時代の幕開けとして、後世に記憶されることとなる。






―― 中央六国から南へ南へ。


 砂漠のオアシスに、広大な街が広がっている。


 その街の高台に位置する、豪壮な宮殿の一室。


 千人を超える美女たちに囲まれた「ある人物」が、その報告を受け取る。


「ハッハッハッ。そうか、『西の民』め、ざまぁないな」


 男は杯に並々と注がれた葡萄酒を飲み干す。


 ここでいう「西の民」とは、神聖メアリ教国と、中央六国をまとめて指した言葉だ。


 彼ら(・・)にとって、メアリ教国とそれ以外の国の区別など、どうでもいいのだ。


「こいつはいい! またとないチャンスだ!」


 男はガバッと立ち上がり、命令を下す。


「ガドガン海峡に展開している部隊を呼び戻せ。東への侵攻は一旦中断だ!」


 男の名はマフメド3世。世界最強の戦闘民族、ダルタ人の「皇帝」だ。


 自身も筋骨隆々の屈強な戦士であり、酒好き、女好き、戦争好きの、まさに、絵にかいた様な「征服者」であった。


「『西の民』の女の抱き心地はたまらんからな。あの白く柔らかい肌、艶やかな髪……」


 マフメド3世は、何かを噛みしめるように思い起こしている。


「すべて、皇帝である俺のモノだ!」


 彼はそう独語すると、「最強の将軍」を呼び寄せるように命じるのであった。


「『デアル=マジード』を宮殿に呼び寄せよ! 奴に30万の軍を預ける。『西の民』を征服するのだ!!」







 一方、ダルタ人勢力圏から、中央六国をはさんで、北の最果てでは……。


「行方不明となっていた先代魔王の所在が分かりました。我が主よ……」


「……」




 ここは闇の国、アモンドゥール帝国。


 草木一本生えない荒れ果てた荒野をひたすらに進むと、その都は存在するらしい。


 らしい、というのも、死者の国の住人でなければ、その都に、「生きて」到達することはできないといわれているからだ。


 死者の都、「シャダール=ククルカン」は「闇王」の統べる街だ。


 白一色の美しい街並みだが、どの建物からも、まるで人の気配が感じられない。


 それは王宮においても同じであった。


 フードの男が跪く先には、「玉座」と、それを取り囲むように「十三の椅子」が並べられている。


 誰か座っているようにも見えるが、いずれの椅子からも、物音ひとつしない。


 更に、暗い王宮内にあって、玉座の周辺は更に一段と暗く、座っていると思われる人物の顔も形も見えない。


「ハッ、既に死霊使いどもを『南』に向けて放ちました。我が主よ……」


 しかし男は、返事のない玉座に向かって報告を続けている。


「ハッ、すべて、仰せのままに」


 男は報告を終えて、玉座の間を退出した。


「……」


 不気味な暗がりだけが、その部屋には残っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ