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第100話 神聖十字軍⑳

こんばんは。モカ亭です。


明けましておめでとうございます。

新年一発目の投稿が、ちょうど第100話となりました。(めでたい!)


皆さまに支えていただきまして、ここまで連載を続けることができました。

この場をお借りして、深く深く御礼申し上げます。


改めまして、今年も「追放魔王」をどうぞよろしくお願いいたします。


「エルトリア軍? アレク? 知らねぇなぁ! お前らどこの田舎から出てきたんだぁ?」


 ナユタの言葉に、薄ら笑いを浮かべるジオルガ。


 多くの主戦派の魔族がそうであるように、ジオルガも、人間界に対してはほとんど興味を持っていない。


 中央六国最弱最小の国家の名前も、その国を率いる若き名将の噂も、当然にジオルガの耳には入っていなかったようだ。


「知らないなら分からせてやるさ! その強さをな!!」


 ナユタはそういって、ジオルガを相手に果敢に立ち向かっていくのであった。






―― 「……」


 アレクはその様子を、遠く離れた高台の上から、静かに見守っていた。


 現場からは離れてはいるが、アレクがいる位置からも、エルトリア軍がジオルガ本人と激突したことについては十分に視認できた。


 ジオルガは非常に危険な相手である。


 もしかしたら、エルトリア軍はこれから、設立以来史上最大の試練に立ち向かうことになるかもしれない。


 本来であれば、アレク自らエルトリア軍の先頭に立ち、全力でジオルガと対峙したいところである。


 だが、二つの理由により、それはできない。


 一つは、アレクが今回のこの「救出作戦」の総司令官だからである。


 彼は今、エルトリア軍だけでなく、救援部隊として派遣されたケルン公国、タイネーブ騎士団領、シーレーン皇国のすべての将兵の命を預かる身である。


 そんな彼が、エルトリア軍だけを救うために勝手に本陣を離れるわけにはいかないのだ。


 そしてもう一つの理由は、敵将が「顔見知り」であるということだ。


 ジオルガと対峙すれば、彼は当然、アレクが「元上司」であることに気付くであろう。


 顔を隠していようが関係ない。


 同じ理由により、ルナも出撃させることができない。


 よって、今、アレクにできることは、自らが心血を注いで作り上げた屈強なエルトリア軍の勝利を信じて、ただ見守ることだけである。


「みんな、頼んだぞ……」






―― 「シャア!!」


 重さ数トンはあろうかというジオルガの巨大な金棒が、ナユタの耳元わずか1センチの所を通り過ぎる。


 フルスィングにより巻き起こった暴風が、ナユタの衣服をバサバサとはためかせる。


 とんでもない威力だ。


 かすっただけであの世行は間違いないだろう。


「このやろ!」


 ナユタは一瞬で体勢を立て直し、両手の曲刀でジオルガに斬りかかる。


「甘いぜ!」


 ジオルガはナユタの行動を読んでいたかの如く、岩石魔法で巨大な岩の盾を作り出し、ナユタの曲刀をはじく。


「クッ!」


「そら! お返しだ!!」


 ジオルガは今しがたガードに使った岩石の盾を、ナユタ目掛けてぶっ放す。


「おわっ!?」


 ナユタは再びすんでのところでこれを避ける。


 的をはずした岩石は、そのまま後ろにいたエルトリア軍の兵士やオーク歩兵たちをなぎ倒し、やがて木にぶつかって粉々に砕け散った。


「クソッ……」


 戦況は、どう見てもナユタが劣勢だ。


 ジオルガにかろうじて(・・・・・)喰らいつくので精一杯だ。


「流石の『クソガキ』も四天王相手じゃ分が悪いか。助太刀するぜ!」


 第3軍隊長、ガロンがランスを手に、ナユタとジオルガの間に割って入る。


「邪魔すんなよ!」


「バカ、お前ひとりでどうにかなる相手なわけねぇだろ! 助けてやってくれと、お前んとこの隊長に頼まれたんだよ」


「……。そっか、悪りぃ。助かるよ」


 一瞬、頭に血が上った様子のナユタであったが、ガロンが、第2軍隊長のダイルンの要請で助太刀に来たと知って謝罪の言葉を口にする。


「オイオイオイ、四天王と殺り合うなんて聞いてねーぞ。特別手当でるんだろうなコレ」


 第4軍隊長、ワルター=ダビッツも、軽口を叩きながら参戦の意を表明する。


「何人がかりでも構わねぇ! 全員まとめてミンチにしてやるぜ!!」


 ジオルガがその様子を見て、大声で吠える。




 第2ラウンド開始だ!


「はぁあああああ!」


 ガロンがランスを手に、全力の「突き」を繰り出す。


 その一撃一撃が、相手の喉、心臓、こめかみなどの急所を狙う、正確無比な突きだ。


「チッ」


 止む無く、ジオルガは防御態勢に入る。


「ライトニング!」


 ワルター=ダビッツの光魔法が、さらにジオルガを畳みかける。


「テメェ! 『勇者』か!?」


 怒ったジオルガが棍棒を振り回すが、それを巧みにかわしながら、ワルター=ダビッツがニヤリと笑う。


「『元』な。勇者は廃業済みだ」


 ガロンとワルターが隙を作ったところへ、ナユタが再度、突撃する。


 彼は一旦曲刀を鞘に納め、深呼吸すると、次の瞬間、神速の抜刀剣をジオルガにお見舞いする。


「喰らえ! 千手剣!!」


 まるで手が千本に増えたような、ナユタの無数の斬撃が、ジオルガを一斉に襲う。


「グッ!?」


 流石のジオルガも、この攻撃は防ぎきれなかったようだ。


 腕や胴に、無数の切り傷を負う。


「攻撃を繋げ! 野郎に反撃させんな!」


 ワルターが吠える。


 エルトリア軍の中でも、特に武力に秀でた、3名の将たちによる猛攻だ。


 いくらジオルガでも、勝つことはできない。




 と思われたが……。




「ナメてんじゃねぇ!!!」


 ジオルガが、大きな咆哮を上げる。


 その爆音だけで、彼のまわりに群がっていたエルトリア軍の将官たちは、自らが乗っていた馬ごと、数メートルも吹き飛ばされた。


「なっ!?」


 エルトリア軍の将官たちは、驚いて目を見開く。


 大地が揺れている。


 比喩ではなく、まるで地震でも起きたかのように、地面が激しく揺れ動いているのである。


「やってくれるじゃねぇか。人間ごときがよぉ」


 そして、ソレ(・・)がジオルガの怒りにより発生していることに気付き、エルトリア軍の将官たちは、さらに戦慄するのであった。


「ロックブレイズ」


「!?」


 突如、足元から巨大な岩石が突き出す。


 ガロンが慌てて手綱をひねったが、避け切ることができず、岩石が彼の愛馬を貫く。


「ガロン!?」


 ワルターが慌てて彼の同僚の元へ駆け寄ろうとするが……。


「!?」


 ワルターの目の前に、巨大な棍棒が迫っていた。


 なんとジオルガは、重さ数トンもある棍棒を、まるでブーメランのように、ワルター目掛けてぶん投げたのだ。


「シールド!」


 ワルターはとっさに光魔法で防御するが、棍棒は光の盾を粉々に打ち砕いて、ワルターの胸部に直撃した。


「ガ、ハ……」


 ワルターは声にならない悲鳴を上げ、地面に突っ伏した。


「ガロン!? ワルター!?」


 ナユタが叫び声をあげる。


 つい先ほどまでこちらが優勢だったのに、まさに一瞬の出来事であった。


「あ~あ~、俺としたことが、ついキレちまった。悪かったなぁ、小僧」


 ジオルガが棍棒をキャッチしながら、ナユタたち3人を見やる。


 その顔には、勝利の色がありありと浮かんでいた。


「クッ、俺が相手だ!」


 ナユタは倒れるガロンとワルターを背に護るようにして、ジオルガ=ギルディと対峙する。


「『戦友のため』ってやつか? 泣かせるねぇ~」


 そんなナユタの様子を、ジオルガは心底バカにしたように見下す。


 とはいえ、状況は絶望的だ。


 ナユタは、先ほどの「お遊び」状態のジオルガにさえ、手も足も出なかったのだ。


 ブチ切れた本気のジオルガを相手に、しかも、ガロンとワルターを護りながら戦うことなど、できるはずがない。


 だが、


「ここで逃げるわけにはいかねぇ。仲間を見捨てて逃げるような奴が、世界最強の将軍になれるわけがないんだ!」


 ナユタは大きな声を張り上げる。


 その声に、一切の迷いはなかった。


「あっそ、じゃあ死ねよ」


 ジオルガはつまらなそうに棍棒を振り上げると、ナユタ目掛けて、それを全力で振り下ろすのであった。


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