ヒスイとは?
頭上から見下ろすような視線を向けたままうっそりと笑う。
薄暗く無意味に戦い奪い合う世界はただ暇を潰す以外の目的もなく、そんな生活も嫌いではなかったが、ただ暇だった。
「召喚されたら楽しいって聞いたぞ」
「うまいものをくれるらしいしな」
「ああ、・・・あれな、だが人のいうことを聞くのは・・・」
集落で話している誰かの言葉を木の上で聞いていた。
暇潰しにはなるかもしれないというのが浮かんだ言葉。
誘うように、呼ぶように、時々世界のどこかに浮かぶ光の輪を何度も見たが今まで興味もなく触れもしなかったのだが。
「気に入らなかったら食ったらええかぁ。ウチを楽しませてぇな」
キラリとたまたま近くで光った輪に手を伸ばす。
ぞくぞくとした感覚と共に身体が溶けてどこかへと運ばれていく。
「あははははは、どんなご主人様やろなぁ」
鈍く光る瞳をうっそりと笑う笑みの中に隠したまま溶け出すように重さを増した身体。
視界に映るのは薄暗く木々の多い森ではなく青く輝く空と白い光。
その中に立つ元の世界と同じ色を持った一人の男に目を止める。
「呼んだのはあんさんか? ウチは夢魔インキュバス、名前はヒスイや」
「そうだ。私の名はネロ、力を貸して欲しい」
落ち着いた言葉に笑みを深める。
ペロリと舌が無意識に唇を舐めた。
「ええで」
「そうかっ、それなら・・・」
「で、報酬はナニくれるん? ウチは高いから軽い報酬やと動けへんでぇ。あんさんの」
バサリと羽を揺らし触れそうなほどに顔を近づける。
ふわりと髪から薫る土のような臭いは悪くはないが、大事なのはあっちの味だ。
「まぁ、ええわ。まずは味見させてもらうでっ」
近づく自分にとっさに反応すらできない弱いらしい男の髪を掴みそのまま唇を重ねる。
「ふぐぅ」
なんとか歯を噛み締めた唇をこじ開け鳥に近い細く長い舌で歯列をなぞり唾液を味わう。
とろりとした甘い独特の味。
人しか持たない魔力が混じった体液の甘さは魔物にとってはどんな酒より酔わせてくれる。
召喚されたせいで主人格の拒否が抵抗としてびりびりとした痛みを与えてこなければさっさと引き裂いてまるかじりしてしまった方が面倒はないんだが…
ああ、しかし、食べたら一度しか味わえないが生きたままなら何度でも食えるのが魅力か。
「まぁ、合格やね。お試しで力を貸したるわ。たっぷり報酬は払ろてもらうで」
呆然とした顔をした男の前でニヤリと笑みを深めた。
あまり進んでいませんが様子見な感じです。