勇者の俺、最愛の人に殺されかけ魔王(女)に救われる
「心が読める俺 ヤバい先生の中を知る」で知っている読者様は、こんばんは。そうじゃない読者様ははじめまして。
二度目の投稿となります。
少し手直しをしましたが、あまり変わってません。
長い長い夢を見た。
その夢はいつも見ている夢とは大分かけ離れていた。普通、夢というものは現実とはかけ離れているものだが今日のは違うかった。
やけに現実味を帯びていたのだ。
内容は、断片的にしか覚えていないが、はっきり覚えているのは、
俺がまず、
「この戦争が終わったら俺と結婚しないか」
「嬉しい......。私からもよろしくお願いします......」
そうリリアが言い、頬を赤く染め、涙を流しながら、こちらに顔を寄せて、二人の距離が吐息のかかる位置まで近づいた。
(ああ、やっとキスが出来るんだな)
と俺が思ったところで終わった。
これは、夢であると同時に俺の思い描いている理想的なビジョンでもある。何故なら、今日、幼なじみのリリア・ヒューズに告白するからだ。
現在、俺とリリアは恋人同士であるが、まだ、キスをした事が無く、せいぜい手を繋ぐ事があるくらいだ。
その関係を今日で終わらせる為に告白する。
......そう、ずっと前から考えていた。
何故今日なのか、というと、王様から勇者の称号を承った勇者である俺は明日から本格的に魔王討伐の旅に出るからである。
だからこその今日なのだ。
リリア・ヒューズという女性は俺と同い年の可愛く、優しい性格をしている。そして、居合い切りの達人だ。そんなところに俺は惚れたのだ。
目を、頭を完全に覚ます為に顔に冷水を浴び、俺、カル・セイ・フリューは頭を覚醒させていた。
今日、午後から、リリアに話しがあると、俺とリリアが初めて会った場所に呼んでいる。
その為に、
(午前は、めいいっぱいのお洒落をするために準備をするぞ!)
と心に決め、服を選んでいった......。
「私に話しって何かな?」
午後になり、俺がリリアを呼び出した場所に俺が来る前にリリアが来ていた。
「ああ、それは...な、えーとだな...」
「何?」
産まれて初めて告白をするので、人生で一番緊張していた。
だが、なけなしの勇気を振り絞り、
「この戦争が終わったら俺と結婚しないか」
と、夢と同じ事を言った。
「嬉しい......。私からもよろしくお願いします......」
そうリリアが言い、頬を赤く染め、涙を流しながら、こちらに顔を寄せて、二人の距離が吐息のかかる位置まで近づいた。
(ああ、やっとキスが出来るんだな)
そう考えていた。これからは夢で見ていないが、上手くいった。
......しかし、リリアがこっちに顔を向けず、俺の方から見れば後頭部しか見えなかった。
(どうしたんだ?もしかして恥ずかしいのだろうか?)
そう思い、リリアに、
「どうし.....たん......だ」
声が上手く出なかった。それどころか体が、心臓の部分が熱い。
(おか...しいな)
と思い、自分の体を見た......。その瞬間頭が理解したのか激痛がはしった。
「ぐはぁ!」
心臓の部分がポッカリ、穴が開いていたのだ。
受け入れ難かった......。何故なら、これをしたのは、一人しか思い付かなかったからだ。
......最愛の人リリアしか思い付かなかった。
「リ...リ...ア?」
声となって出たのは、か細く震えていた声だった。
悲しみと困惑の色がにじみ出ていた。
それはそうだろう。何年、いや、十数年一緒にいた、パートナーだ......。しかも、恋慕を抱いていた、この世で一番信じていた、最愛の人に......。
(ふざけんな!)
などのような怒りの感情は不思議と出てこなかった。
出てくるのは、悲しみと納得だけだった。
(やっぱり、知っていたか......)
リリアのお婆様と勇者であった俺の爺様は、恋人同士であった。しかし、リリアのお婆様が住んでいた村が魔王軍に襲われてしまい、俺の爺様は助ける事が出来なかったのだ......。
だから、常々謝るべきかどうか、考えていたのだ。
(それを言っておけば......な)
そう思い、
「リリア......。ごめんな。俺の爺様があああああああ!」
右腕が失くなっていた。それも、右肩あたりから先が、あまりにも鮮やかに切断され、何も現実感がないほど、人形的に地面に転がっていたのだ。
それと同時に、
「うるさい」
そう、リリアが吐き捨てるように言った。
魔物に一度、これ程とはいかないが、腕を斬られた事があったが、それ以上に痛い。......体も、特に心が。
知り合いに斬られるのは初めてであった為、体よりも心が痛かった。
血がダラダラと、右腕から、心臓から流れ出していたが、頭は非常にクリアだった。何故なら、左肩に掛けているバックパックの中にある、超回復薬を飲めば治るからだ。
(飲むしか無い!)
そう覚悟を決めた。何故これほどまでの覚悟を決めるというと超回復薬には大きな副作用があるからだ。しかし、命とは変えられず、使おうとして、左手をバックパックに入れようとすると、
「させない」
そう、冷酷な声で言い、今度は左腕を斬られた。
「ぐっ」
体に激痛がはしったが、頭の片隅ではどこかに切られると分かっていたので、あまり痛みはなかった。
(そこまで......俺が憎いか......)
悲しみと痛みで涙が出て来ていたが、それを拭う両手はもう無いのだ。
頭が...それを感じ、一気に脱力感が出て来て、膝から崩れ落ち、そのままうつ伏せの状態に倒れた。
......もう立ち上がるすべは無いのにな。
自分の中の誰かが、勇者である俺を蔑むような言葉を言った。
......それに返す言葉は無かった。
ジッとリリアを見た。
....どんな表情でこっちを見ているのかが、気になったからだ。
だが、俺の目はもう、霞んでいて、目に映るもの全てが歪んで見えていた。
ならば。と思い、
「なん......でぇ...?」
と、本当なら一番初めに聞く事を、掠れた声で聞いた。
しかし、リリアは、何かブツブツと言っているが聞き取れなかった。
もう、それを気にする余裕が無くなっていたが、リリアの声が大きくなってきたのか、ようやく聞き取れるようになった。
「なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?カルは、あの勇者の孫なの?なんで?こんなに好きな人がそうなの?ねぇ、なんで?」
それを聞いた俺は、
(愛されて...いたんだな)
と思って眼を閉じようとした時に、
「いぃぃぃやぁぁぁぁ!?」
と悲鳴のような醜い声がした。
この声は、あれだ。俺とリリアが小さい頃に俺がリリアに虫を投げつけた時の声に似てる。あの時は殺されかけた。...今となっては良い思い出だ。
(変な記憶を見せるんだな、走馬灯って)
そう思ったが、声が聞こえると同時に何かが顔にかかった。
(何だろう?)
と思って重い瞼まぶたを開けると、そこには威圧感を撒き散らしている...一人の...女性がいた。
さっきまで死にかけで頭の回ってなかった俺ですら、その正体が徐々に分かり目が見開いた。
......何故なら、そこには魔王ユルカナルがいたのだ。
実際に会うのは初めてだが、顔はある程度知っていたし、この溢れんばかりの威圧感を出すヤツは一人しか思いつかなかった。
そして、魔王が、
「おい、勇者。何を死にかけになっているんだ?明日から私を討伐しに来る勇者を見にきたのにな」
言われている事が聞き取れてはいるが、頭が回らなかったので、何を言っているのかが分からなかった。
しかし、俺を...勇者という存在を馬鹿にされている気がし、最後の最後まで、勇者として、男の誇りとして、カッコつけようと、両足二本だけで跳ね起きた。
そして、俺は必死の思いで、
「お前を倒す!」
と、震えていない声で言い、キッと睨み付けた。
もうフラフラだったが、何とか立っていた。
そんな中、俺は、
(今、魔王の目にはどう俺が映っているのだろうか?)
......嘲笑されているのしか可能性が無いが、そう思った。
「あっ......」
意識が遠のいていく。
ああ、神様。俺は勇者では無かったです。最愛の人に殺された、ただ馬鹿な人間でした......
~魔王ユルカナルサイド~
(勇者がどんな奴か見に来たが、何で死にかけてんだ?)
私、魔王ユルカナルはそう思っていた。
今の勇者が少し前の勇者の孫だと知り、好奇心で見に来ていた。
来てはいいものの、勇者と思われる人物は両肩から先が無く、心臓が貫かれていた。
(おーい。死ぬなよ勇者。こっちは楽しみにしているんだよ)
私が何故楽しみにしているのか、というと勇者の爺が今まで戦ってきた中で一番強かったからだ。
魔王という存在は、必ずと言って良いほど強者との戦いを望んでいる。この魔王ユルカナルも例外ではなかった。
私が状況を把握していると、勇者が膝から崩れ落ち、そのままうつ伏せの状態に倒れた。
(はぁー、勇者といえど、やはり人間か......)
それを見て、私はかなり落胆していた。
自分が思っていた以上の強者ではなかったからだ。
むしろ弱者に近いと、まで思っていた。
「なん......でぇ?」
と勇者が言った。
この言葉を聞いた、私は静かに驚いていた。
......その言葉には一切怒りの感情がこもっていなかったからだ。
人に殺されかけた時、人は多少なりとも怒りの感情は出る。それが顔見知りだとすれば、尚更だ。
しかし、この勇者は悲しみの感情が大半を占めていた様に聞こえた。
それに驚いたのだ。
そんな事を考えていると、刀を持っている娘が、
「なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?カルは、あの勇者の孫なの?なんで?こんなに好きな人がそうなの?ねぇ、なんで?」
と言った。
(馬鹿だな。それは)
私は呆れていた。何故、好きな人を殺す意味が全く分からないからだ。
この発言をした小娘に対して、私は、
(醜いな)
と思っていた。
...それで止まる程、魔王である私は甘くはなかった。
こう思った次の瞬間、
凄まじい速度の魔法を無詠唱で出し、小娘に当てた。
「いぃぃぃやぁぁぁぁ!?」
と虫の断末魔のような声を発し、体の原型が無い程バラバラになっていた。
それを聞いた勇者が重そうに瞼を開け、こちらを見てきたので、私は、
「おい、勇者。何を死にかけになっているんだ?明日から私を討伐しに来る勇者を見にきたのにな」
と本音と嫌味を混ぜながら、そう言った。
勇者は困惑した表情をしていた。...もう耳が聞こえないのだろうか。
そんな事を考えていたら、勇者がいきなり両足二本だけで跳ね起きた。
(勇者とはいえ、死にかけの人間がこんな事出来るのか?)
そう疑問に思っていたら、勇者が、口を大きく開け、
「お前を倒す!」
と、やけに明瞭な声で睨み付けながら、そう言った。
それを聞いた私は敵ながら勇者に感動していた。
......どこまでも勇者として振る舞うのか
(私はこんな勇者と戦いたかったな)
と私はそう思った。
「あっ......」
と勇者が言った。
(死なせない!)
魔王である私が初めて敵である人間に対して抱いた気持ちであった...。
人を敵としか見ていなかった私にとっては、感じてはいけない気持ちであったのかもしれないが、何故か心地よい気分になった。
~勇者カル・セイ・フリュー、サイド~
(何が起きたんだ?)
と俺は思った。
(人が行き着く場所がどこなのか、いつも考えていたが、行き着く場所が......ここどこだ?)
俺が目を覚ましたのは、見覚えの無い城内のベッドの上だった。
俺が慌ていると、後ろから、
「あっ、やっと目を覚ました」
それを聞いた瞬間、背筋に悪寒が走った。
威圧感たっぷりの声には聞き覚えがあったが希望を捨てずに振り向いた。
......そこには威圧感が凄い笑顔を見せる魔王がいた......。
この現実を見て真っ正面から受け止め、俺は、
(なんでだああああああああああああああああああああああああ!!!!!)
そう全力で思ったのであった。
「心が読める俺 ヤバい先生の中を知る」もよろしくお願いいたします。
これを連載版にする予定は今のところありません。