学園長ちゃん?
「さて、適当にやってさっさと迷宮に入りますか」
おっさんの依頼を受けて5日経った。受けた日に荷物をまとめ、翌日にテレポートの魔法陣で俺が配属される学園がある街、ビーテルに着いた。
その後ギルドで依頼内容の再確認と学園のルールなどについての話が3日もあった。
やっと今日から学園に入る。正直ちょっと心が折れそう。話がなげぇよ!
まぁ、ここで3ヶ月使ったところで本来よりも大幅に時間を短縮できているんだ。
ある程度はこなそう。
「あの、ジャスタ先生ですか?」
おっ、やっと迎えに来たか。
「はい、ジャスタです。」
「初めまして、セリスと申します。先生のご指導の時に一緒に行動するように申しつけられております。本日は学園長様に会っていただいた後に、そのまま迷宮に向かっていただくことになりますがギルドでの説明と齟齬はございませんか?」
敬語、しかも先生って。かなり気品がある見た目だが平民ではないよな?年は同じくらいか?
「はい、ギルドから伺っております。よろしくお願いします。あと、セリス様は平民ではございませんよね?私は他国の平民でございますので丁寧な言葉遣いをなさらなくても結構ですよ」
「いえ、私の家はお祖父様の代から長子に騎士爵を頂いておりますが私自身は平民でございます。むしろ、ジャスタ先生の方が年上でございますし、迷宮での活躍もギルドより聞き及んでおりますので普段通りにお話し下さい」
なるほど。しかし優秀でなければ、祖父、父とセリスさんの兄弟と3代に渡り騎士爵に任命されないだろう。それだけ長いこと貴族と関わりがあるということだし同じ立場の平民ではないな。俺の見張りも兼ねているだろうし、立場だけでなく実力もそれなりか?
「ありがとうございます。お言葉に甘えましてセリスさんと呼ばせて頂きます。ご案内と3ヶ月の探索の授業、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。ではご案内します」
学園長室前
学園でけぇ。外観から分かっていたがさすがボンボンが多く集まる場所だ。
コンコン
「学園長様、セリスです。ギルドよりお越しのジャスト先生を連れて参りました」
「入ってください」
若い女の声?
ガチャ
「「失礼致します」」
「初めまして、学園長のアリーです。お飲み物をご用意致しますので、お二人とも掛けてください」
学園長はどう見積もってもジャスタと同じ年くらいにしか見えない幼い女性だった。
いや、普通に見ればこの学園に生徒として通っていると言った方が自然だろう。世の中にはいろんな見た目の種族もいれば、成長が遅い人もいる。早くに成長が止まる人もいるだろう。それでも外見が人間の10代半ばの人間が学園長というのは違和感を感じずには居れない。
あまり見ないように気を付けろ。この外見で貴族の通う学園の長。機嫌を損ねるのはどう考えても悪手だ。この仕事本当に大丈夫なのか?
セリスさんと少しだけずらしながら動きゆっくりと高級そうな椅子に腰をかける。
ポーションで直った指を意識しながら逃げ出す国を考える。
コトッ
赤み掛かった澄んだ紅茶を各々の前に出し終えると学園長もジャスタたちの正面に腰を下ろす。
やっぱり違和感がすごいな。子供みたいにニコニコしてるから見た目相応に見えてくる。しかし、この学園の学長室で当然のように高級な飲み物を振る舞い、高級な椅子に腰掛けている。なんか余計に不気味に見えてきた。
「この紅茶は私のお気に入りなんです。セリスも好きですしジャスタ先生もどうぞ」
セリスも?自分に丁寧な言葉遣いをしていて呼び捨て?プライベートでの関係もあったりするのか?
学園長が紅茶に口を付け、セリスさんが紅茶を手に取るタイミングを見ながらカップを手に取る。
「頂きます」
紅茶の味なんか対してわからないが、高級品なのだろう。口当たりの柔らかさから水がいいものを使っていることはわかる。敷地内に湧き水でもあるのか、水にも金を掛けているのか。
余計なことばかり考えるは疲れる。仕事の話を済ませたら出来るだけここには近寄らないようにしよう。
「どうですか?」
聞くな。
「自分のようなものに繊細な味は分かりませんが大変美味しいです。ありがとうございます」
余計なことは何も喋らぬが吉。話が広がって滞在が伸びるのもノウセンキュー。
「それはよかったです。さて早速で申し訳ありませんが仕事の話をさせて頂きます。ギルドに資料はお送りしておりますので、重複する説明も多くなってしまい申し訳ありませんがよろしくお願いします」
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「以上となりますが何かご不明な点はございますか?」
「いえ、ギルドで説明して頂いたことと相違ありませんでしたのでよろしくお願いします。」
こちらからギルドに質問したことなども学園長から説明があったし話が通っていたのかな?
と言うか、こんな小1時間で終わるような案内を3日も掛けてしてきたギルドに腹が立ってきた。
そんなに大事な依頼なら俺に振るなよ!ポーションはありがたかったけど。
とりあえず、このなんとも言い難い時間も終わった。
「ところでジャスタ先生?私の見た目をどう思いますか?」
終わってなかった。
「…大変お若いかと。この学園の長を若くして務めてらっしゃいますし自分のような者からは想像できないほどに優秀なのだと尊敬いたします」
逃げ出したい。
「ありがとうございます。若いなんて久しぶりに言われました。何歳に見えます?」
っえ?なにこれ?怖い。セリスさん紅茶飲んでる場合じゃないですよ!冷めても美味しいね!
「……失礼ながら10代中頃の美しい少女に見えます」
正解が分からん!とりあえず見た目通りに言うしかない。
「キャーーー!セリス聞いた!どうしましょう、明日から生徒として学園に来た方がいいかしら?」
この混沌とした状況に泣きたくなってきた。
「はぁ、お婆様落ち着いてください。ジャスタ先生が困ってらっしゃいます」
オバアサマ?
「セリス!私のことはアリーちゃんと呼びなさいと言ってるでしょう!ジャスタ先生も是非そう呼んでくださいね?」
……拝啓、ギルド員のおっさん。覚えてろよ
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「えーと、つまりアリーちゃんは迷宮を踏破して得た秘薬を飲んで若返って、年をとりにくくなったってことかな?」
「そうだよ!アリー凄いでしょ!」
凄いなんてものじゃない。少なくともここ100年は迷宮は踏破されたことないと聞いていた。学園長が100歳を超えていると言うこともなく今年で60歳のセリスさんの実の祖母らしい。
つまり、一般人には秘匿にされているが迷宮は踏破されていた。
そんな重大な情報をいきなりバラされた。
逃げたいが、迷宮を踏破した本人が目の前にいる。←今ココ
結論、たかが上級ポーションに釣られてこの仕打ちは納得できないのですが。
「ご安心くださいジャスタ先生。何も戯れでこのような話をしたわけではございません。先生にとっても有益なお話を聞いて頂きたくて先んじてこちらの秘密を明かさせて頂きました」
口調が元に戻った。どっちが素なんだろうか?
そしてアリーちゃん。いや学園長。
俺は同じような言葉にホイホイ乗せられてこんな危機的な状況に陥っているのですが。
「かしこまりました。それではお話をお聞かせ願いますか?」
とは言え逃げ道はない。と言うかここまで聞かせられたらどうにもならない。冗談抜きで国とかから追われる可能性すらある。
「先生?アリーにそんな丁寧な言葉使わなくてもいいよ!いつも通り話してね!」
………こっちが素のようです。そしてセリスさん。自分で紅茶のおかわりを入れて寛がないでください。あなたの身内にめちゃくちゃ迷惑をかけられています!
「う、うん。じゃあ話してくれるかな?」
「はーい!じゃあまずはこれ見て!」
スッと差し出されたカードを手に取る。
「………ステータスカード」
名前 アリー
ジョブ 戦士11
レベル 87
スキル 幸運
「どぉ?凄いでしょ!」
「……えっ、あっ、はい。凄いね」
凄いって言うか、自分の中の常識が丸ごと崩れ去る音がしたのですが。
戦士11、つまり戦士が12個目のジョブ。
ジョブ変更に100までレベルを上げてるから1000以上はレベルを上げたってことだよな?
なんで戦士みたいな中級職が12個目のジョブなんだ?
なんでステータスカードにスキルが表記されてる?
てか、個人所有のステータスカードってなんだよ。
「あれー?あんまり驚かないね?」
「いや、十分驚いてるよ。驚きすぎてどう言えばいいか分からなかった」
マジで理解の範疇を超えてる。